第2話

「おはよー」

「課題やったー?」

そんな何気ない会話が交わされる教室。

一歩足を踏み入れれば、そこからは私の闘いだ。完璧に空気を読むという闘い。

「あ!かなっち!おはよ」

早速声をかけてくれたのは白雲しらくもゆりちゃん。学年トップの学力とその模範的な振る舞いから学級委員長も任されている優等生。私に最初に声をかけてくれたクラスで1番仲のいい子だ。

「おはようございます。あの…」

「あーーごめん!部活の仕事あるから後で聞くね……!」

「あ、はい……」

やっちゃった……。クラスから出ようとしてたところなんだから用事あるじゃん。挨拶してもらったからなんとかこっちから話し続けようとしたけど失敗しちゃった……。

ゆりちゃんを見送った後クラスを見渡すとあまり仲の良い子は居なかった。だけど挨拶はしっかりしなくては。

「あ、おは……」

「それでさー昨日の番組でみたんだって!」

「な訳なくない?まじ?ヤバすぎでしょ」

う……聞こえてなかった……。誰にも見られてないよね……。

挨拶は諦め、席に着こうとすると隣の席の男子が話しかけてきた。

「沢谷おはよう」

「え、あ、おはようございますっ」

真谷聖夜しんたにせいやくん。バスケ部のエースで、学年でもイケメンとされている。授業中にいつも寝てるのに学年トップの学力を持っている天才でもある。だけどひとつ問題が……

「ってか、いい加減敬語やめない?お前さー入学してどんだけ経つと思ってんだよ。」

彼は笑いながらそう言った。だけど、どこか呆れてるようにも感じる。

そう、彼は自分の気持ちを一切隠さず相手にぶつけまくるのだ。相手を攻撃するような口調になることも多々あるため、敵も多い。

「ごめんなさい……私の癖なので……」

そう。私は学校において全ての人に対して敬語を使っている。自分の気持ちをそのまま伝えれば相手が傷つくことがあるかもしれない。でも敬語は一瞬思考を挟むから、その時に自分の発言が相手を傷つけないか確認できる。敬語は私を守る盾のようなものなのだ。


ココロを隠して生きている私と相手にココロをぶつけまくる真谷くん。

私たちは正反対の人間。

そして、そんな真谷くんが私はニガテだ……。


「ま、どーするかはお前の勝手だけど」

納得はしてないようだったけど、先生が入ってきたため会話は終わった。

すると前を向きながら彼は小さな声で言った。

「正直敬語ってことより自分の気持ち隠してることが問題だがな」

私に聞こえるか聞こえないかっていうレベルの小さな声。だけど聞こえてしまった……。私は内心パニックになった。

なんでバレたの?

私がココロを隠して生きてるって。

しかも……よりにもよって、私が最もニガテな真谷くんに……!!

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