第46話 波乱(この話には暴力表現と軽い性表現があります)
注意喚起
このお話には軽い暴力表現と軽い性表現があります。気になる方は次回に簡単にまとめますので、飛ばしてください。
―――
圭吾が見えなくなったので、自宅に入った。本当は送ってあげたいけど、それを言ったら、帰りの道をどうするんだ、と言われた。
女子の一人歩きは危ないので、気をつけるに越したことはないだろう。そもそも、送って行って、送ってくれるのは変だと笑われた。それはそうに違いない。心や想いが強くなると判断に齟齬が生まれる。まさにそのような状況だった。つまりは、なんでもやってあげたいのだ。
お父さんから今日は遅くなると連絡が入った。早くても2時を超えそうだ。大阪の診療で仕事が残っているようだ。そんな中、イベントまでして大丈夫なのだろうか、と心配になった。
お風呂に入って、パジャマに着替えて髪の毛を乾かす。軽いメイクを落とした。琴音はあまり濃いメイクはしない。スッピンでもいいと思ってると言ったら、茜に羨ましがられた。そんなもんなのかな。ベッドに横になる。抱き枕に顔を埋めた。それにしても、今日は色々ありすぎた。鈴木は大丈夫なのかな、あそこまで叩いてしまうと反撃が心配だった。
もう一度、手元の置き時計を見てみる。可愛いキキララのデザインだ。圭吾が家に帰った時間だろうか。ちょっと電話してみようかな、と思って身体を起こした。電話の会話を考えただけで、顔が綻んでくる。
「あれ、なんだろ」
車の音が近づいてくるのが聞こえた。通り過ぎていく車が多い中、明らかに車の速度が遅い。いつも聞いた音だった。目の前の駐車場で音は止んだ。窓から眺めてみると鈴木のインプレッサSTIスポーツが停められていた。
なんで、頭の中に悪いことが浮かび上がってくる。これはヤバい。今思い出したが、まだ鈴木は鍵を持っているのだ。
慌てて圭吾に電話をしようとした。
手が震えて、上手く開けない。怖いよ、助けて……。
鍵が開けられる、そのまま走って上がってくる音が聞こえた。乱暴に扉が開かれる。
「パジャマ姿か、ちょうど良いねえ」
「何をしに来たんですか」
「その前にスマホを取っておかないとね」
「やめてっ」
男の力には敵わない。簡単にスマホが取られてしまった。
「返して」
「不用意に邪魔が入ると困るからさ。それにしてもこれで連絡取ってたんだね。どーりで気づかないはずだよな」
怖かった。鈴木が何を考えているのかわかる。もう一台のスマホは、……だめだ。カバンの中だ。
「ねえ、やめとこうよ。こんなことすれば不法侵入に……」
それより後は言えない。絶対に言いたくない『強姦』の二文字。圭吾にも連絡を取れてない今、助けてくれる可能性は低い。お父さんは後2時間は最低でも帰ってこない。
「でも優勝しただろ、だからその約束をさ」
「優勝してません、断りましたから」
「繰上げ当選かー、よく考えたね」
「だから、あなたとの約束も何もないです。帰ってください」
「まあ、そんなことどうでも良いんだ」
鈴木の表情に残忍さが加わった。怖い、やめて。
「君をどうしても抱きたくてね。ずっと我慢してたんだ。別れの記念にいいだろ」
「いいわけない」
「可愛いね、琴音。それにね。君言ってたじゃん。自分なら例え無理矢理でも堕ろせないって」
子供を堕ろすかどうかの番組を見ていた時のことだ。自分は選択された赤ちゃんが望まなくても堕胎はできないと確かそのようなことを言ったことがある。それは事実だ。
「狂ってるよ」
「いいんだ、それに琴音、きみ今日危険日だよね」
はっとする。危険日、もちろん思い当たる節はある。
「危険日の妊娠確率は5割近くなる。今日やったらどうなるのかなあ」
「やめて、……ください。お願いだから」
涙が溢れてくる。想像を超えた話にわたしはベッドで後退りをした。逃げたいけど、怖くて立てる自信がない。
鈴木はキスをしようと目の前まで来る。右を向いて寸前のところでかわした。
「へえ、逃げるのか。まあキスなんていいかな。やれればいいし」
両手でパジャマの前ボタンを乱暴に左右に引っ張り脱がせる。白のブラジャーが顕になる。鈴木は自分のネクタイを緩めて、近づいた。
「いや、やめて」
身体を両手で覆い隠す。
「いい声だねえ。もっと鳴いてくれていいんだよ」
「わたしは何があってもあなたとは結婚しません」
「と、言うことは僕の子供をふたりで育てるのかな、それはそれで滑稽だねえ。お父さんはどう言うだろうかな」
琴音の両腕を握る。力を入れて左右に開かせられた。いやだ、見えちゃう。
鈴木がベッドに手を着き、身体を覆う形で真正面から見た。
パジャマははだけて顕になった胸が強調される。私の力では目の前の男を引き離すことなどできない。圭吾くん、ごめん。こんなことってないよ。涙が溢れてきた。
「よく泣くねえ。泣いたら許してくれるって思ってる。そんなわけないよねえ」
「お願い、今辞めてくれるなら、何も言わないよ。その方があなたにとってもいいでしょ」
「無理だね、僕の人生を無茶苦茶にしたんだ。身体で支払ってもらわないとねえ」
鈴木の手が胸を揉む。嫌だ、圭吾くんにさえ揉まれたことないのに。
「気持ちいいかい」
「いいわけ、……ない」
目の前の光景が非現実過ぎて、理解が追いつかない。あり得ないことだった。
「じゃあ、そろそろ可愛い胸でも拝ませてもらおうかな」
「いや、やめて……だめ、……」
「やっと色っぽい声が出せたね」
もう、どうしようもないのか。このまま初めてを鈴木に捧げて、妊娠。最悪な現実が目の前に差し迫っていた。
開くはずのない扉が開け放たれた。
「琴音、大丈夫か!」
目の前には圭吾の姿があった。
「なんで、いるんだ」
鈴木は目の前に圭吾がいるのに、大きく動揺をした。走って部屋を出ていく。階段を駆け下りた。暫くして車を急発進する音が聞こえてくる。
「圭吾くん、怖かった。怖かったよー」
涙を流して圭吾に抱きつく。抱きつく腕に力が入った。これだけで安心できた。
「何もなかった?」
「うん、胸をブラジャーの上から揉まれたけども……」
「良くないけど、それで済んでよかった」
「なんで、帰ってきてくれたの?」
「実は帰ったのだけれども、途中凄く怖くなった。鈴木はまだ合鍵持ってるよな、って」
「気づいてくれたんだ。ありがとう、本当にありがとう」
涙が出てきた。嗚咽が止まらない。起こったことの怖さに寒くもないのに身体が震えていた。
「ごめん、ちょっと濡れちゃった」
「琴音の涙だ、気にはならないよ」
「ありがと」
少しだけ安心してきたのを見て、圭吾が言った。
「警察に通報して。それとお父さんに連絡を……」
警察に電話した。不法侵入の線は難しいかな、婦女暴行未遂には絶対なる。
暫くすると警察官の男がやってきた。若いやる気に満ち溢れた警官で物腰も柔らかく、優しく話を聞いてくれた。身体を見てくれて、痛くないかと聞いてくれる。負傷している場合は、病院に行くことになる。刑罰は強制性交渉未遂になると言う事だった。被害者側の証言のことも詳しく説明してくれた。今は犯人に会いたくない被害者も多いため、証言などもビデオ通話でも可能と言う事だった。証拠の検分は、自宅であるため、待っている間にすぐに終わったようだ。警官は鈴木の家に他の警官を回すと言っていた。捕まってくれればいいが。
「調書を作成したいから、警察署に来れるかな」
「父が戻ってきてからで良いですか」
電話でお父さんにかけると、3コール目に繋がった。事の次第を報告する。すぐ帰ると焦った声が聞こえて切れた。
琴音ちゃん良かったと思ってくれたら、星くれると喜びます。
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