第43話クリスマスコンテスト ファイナル

 サンテレビ一階、イベントホールで自己紹介と馴れ初めが語られていた。番組の構成上、予選10位から順に自己紹介を行っていく。琴音が自己紹介をするのは最後だった。


「わたしたちが知りあったのは、実はこのハーバーランドなんです」

 8位の女の子が楽しそうに運命の出会と言う。確かにこれは運命の出会いだろう。人と人との出会いというのは、そもそも運命の出会いなんだ。どこで出会っても、本人達がそう思うのであれば間違いなくそれは運命になる。


 同じような馴れ初めが繰り返された。自分は鈴木とどう出会ったのだろう。確か一年生の時に断り続けたけど断り切らなくてミスコンに一度だけと約束して出たのだ。そこにいた審査員の男が鈴木だった。わたしは興味はなかったんだけどな。鈴木は父親とそこで知り合いとんとん拍子に許嫁になった。とても面白味のない出会いだった。きっとみんなの方がずっと輝いていただろう。


「わかってるだろうな」

 鈴木の台詞に思考が中断される。何を確認してるんだっけか。そうだ、わたしが何を言っても無駄だから何も言うなという確認だった。わたしは笑顔もなくうなづいた。わたし、何やってるんだろう、と思う。これでは鈴木の思惑通りである。ここで優勝して、わたしは正式に鈴木のものになる。約束したのだから、本日夜は鈴木の待つホテルに行くのだろう。このまま二人で一夜を共にして鈴木の女になる。これじゃ、わたしは報われなさ過ぎる。泣きたくなった。わたしは娼婦じゃない、心の中で叫んでいたら、わたしの番になっていた。


「白石琴音です、よろしくお願いします」

 わたしは一息ついて話し始めた。


「わたしは小学生の最後までずっと父親の仕事の関係で引っ越しを繰り返していました」

 鈴木の知らない過去だ。顔を上げて応援席の方を見る。茜と圭吾、お父さんもいた。


「小学生の時、ある人に出会いました」

 圭吾くん、君のことだよ。


「その人は、無口でメガネの冴えないわたしと友達になってくれました。彼は海岸で一緒に遊ぶことに乗り気でないわたしのところに来ました。石で洗われた綺麗な石を手から取り出して渡してくれました。あの後何度も探したけれど、こんな綺麗な石はなかった。実は今もネックレスにしてつけてます。それから毎日一緒にいろんな場所に遊びに行くようになりました」

 圭吾くんとの思い出。彼だけがわたしの本質を見てくれていた、分かってくれていた。


「それからの毎日は楽しい日々でした。ただ、気掛かりなこともありました。お母さんはもともと身体が弱かったのです。環境が何度も変わったことで、心労がたたって亡くなってしまいました。彼はお通夜からお葬式まで、他人だったのにずっと一緒にいてわたしの心に寄り添ってくれました」

 鈴木の方を見る。お前何言ってるんだと言わんばかりの形相だ。本当はマイクを取り上げたい気持ちだろう。鈴木、あなたは、わたしのことを勘違いしてたね。わたしはそんなに甘くはない。


「お母さんの線香の前でまるで結婚式の蝋燭みたいだねって彼は言ってくれました。わたしが一番辛い時に彼はずっと支えててくれました。引っ越しの時、彼はわたしに告白してくれました。わたしの初恋でした。でも、わたしはお友達に気兼ねして、応えを返すことができなかった。あの時、わたしは大きな間違いをしました。だから、わたしは今、ここで言います。圭吾くん、わたしはあなたが好き。もう離さないでずっと一緒にいてください」

 もう、優勝なんていらない。こんな男と優勝して、囚われるくらいなら全てを失ったっていい。だから、全ての想いを曝け出だした。これで、終わりだ。


「圭吾くん、言っちゃったよ。これで終わりだね。でも、もうわたしは間違えないよ」

「お前、何言ってんだよ。このイベントの趣旨わかってんのかよ」

 鈴木が必死の形相で睨みつけた。会場は静まり返る。


(SNSの表示が流れていく)


(なあ、圭吾って誰だよ。あの目の前の男じゃねえのか)

(どういうことなんだよ。あの美少女の本当の思い出の幼さなじみって誰だよ)

(鈴木のことは何も語られてないぞ、いらないんじゃね)

(そうだね、圭吾と琴音でいいよ、幼い時からの秘めた恋、わたし好きだよ)


 会場の言葉がある一つの言葉へと集約していく。鈴木じゃなくて圭吾を出せよ。これが一つの流れになった。


「茜、もう知らないからな」

「へへへ、とうとう番組潰しちゃったね。お金いくら払わないとならないんだろ」


「圭吾、茜!」

 わたしは鈴木から離れた。捕まえようとした手が空を切る。わたしは圭吾に向かった。わたしは圭吾が好き。この気持ちに我慢なんかしたくない。ジャンプ、首に思いっきり抱きついた。圭吾はその力で倒れた。


「いてててぇ」

「ごめん、やりすぎた」

「ははは、いいよ。おかえり、琴音。俺もお前が大好きだ」

 圭吾はわたしを思いっきり抱きしめて、お姫様抱っこをして、それから立たせてくれた。


「ほんと、なんなん君たち」

 タレントの男が壇上に上がってくる。怒っているような、でも何か面白いものを見つけた時のような表情をしていた。流石は芸能人だ。


「なんか予想外のことになってるんだけど、どうしようか」

「一応、順位発表してみるというのもありかもね」

「お前、何言ってるんだよ。ぶち壊しやがって、こんなこと許されると思ってんのか」


(あの叫んでいる鈴木って誰だよ、なんで琴音ちゃんは鈴木と出演したんだ。出演するなら圭吾じゃ無いの)


「それは、僕が琴音の婚約者だからだ」


(婚約者と好きな男。どうなってんの、これ)

 真相を知りたいという声がSNSで溢れてくる。みんながわたしを、知りたいと言ってくれていた。


「しゃあねえな、こんな番組構成見たことないけども。スポンサーに確認してみるわ」

 父親が壇上に上がって来る。


「琴音、どういうことなんだ」

「お父さん、ごめんなさい」

「あ、それより先に持ち時間も無くなりましたし、ここで一度人気投票したいんですけども」

「わかった。番組構成上仕方がないか。この話後でじっくりと聞かせてもらうからな」


 順位がつけられていく。SNSの順位は鈴木、白石ペアの圧勝だった。殆どの得票が集まったと言っていい。鈴木は何も喋ることなくSNSでは一位になっていた。殆どのSNS視聴者は鈴木ではなく事の真相を知りたいようだったが。


「会場の審査員は……、まあこれは仕方ないよね」


「優勝は鈴木、白石ペア。こんな展開見たことないけれども、一位だし。スポンサーの許可も取れたから、これから30分、みんなが知りたがってる話してくれる?」


「わかりました」

「お前、待てよ!」

「鈴木、聞いておけ。わたしもこの話には凄く興味がある」

 鈴木がうなだれた。私がこれから、何を言うのかわかっているのだから。父親が浮気の話を知っていると言うのは結局嘘だったんだ。わたし信じてしまったよ、馬鹿だな。でも結果的には良かったかも。


「わたしと圭吾くんは一度引っ越しで離れてしまいました。だから、同じ大学に圭吾くんがいた時には本当に驚きました。出来れば昔の告白の続きを言いたかった。けれど、その時にわたしには父親が決めた許嫁がいました」

 目の前のボードを見る。


(許嫁って今でも制度として残ってるんだ。じゃあ、琴音ちゃんはその許嫁とキスしたり……)

(そりゃ、許嫁だからそう言うもんなんじゃねえの)

(それ、イメージ壊れる)


「いえ、わたしと鈴木は全くそう言う関係はありませんでした。わたしは鈴木を三年間拒否し続けましたから。鈴木も父親の仕事を継ぐのが1番の目的でしたから、わたしは執拗に追いかけられずに済みました」

 圭吾くんとはキスしたけれど。思い出すと胸が高鳴る。


「結果的にはこのまま、わたしは鈴木と結婚すると思ってました。父親に背く勇気もなかったですから」

「なあ、これくらいでやめとこうよ、なあ」

 鈴木が焦った表情でこちらを見てくる。これからする話は、わたしと彼の関係を良くも悪くも大きく変えてしまうのだから、当然だ。


「鈴木、お前何か隠してることあるのか」

「いえ、そんなことは……」

 焦った表情でこちらを睨みつけてくる。大丈夫、そんなことでわたし怯まないよ。


「わたしはある日、鈴木のパソコンを開けました。彼はパスワードを公にしてましたから簡単に開けられた。そこには鈴木と知らない女性の密会の予定が書かれてました。以前の記録を見ると、大量の密会の記録がありました」


 父親の姿を見た。全く知らなかったと言う顔をしていた。


「ここで女性の名前をハッキリすることは問題が出そうなのでしません。一応、頭文字をとってYさんとしておきます。その人と会っているのであれば、逆にそのお相手である圭吾くんも浮気をされていると言うことになる。わたしは彼の連絡先をゼミで交換していたので、初めて電話をかけました。その時震えていたのは今でも覚えてます。実は圭吾くんが初恋の人と知っていたのは、わたしだけだったんです。圭吾くんはこの時のわたしが昔の冴えない眼鏡の女の子と同一人物だと全く知りませんでした」

「いい加減にしろよ。俺が浮気をしてたと言うのなら。お前らだって浮気だろ。そもそもお前が身体を許さないから、こうなったと分かれよ」

「鈴木、お前何言ってるんだ。ふざけるな」

 父親の怒気が飛ぶ。こんなに怒っている父親を初めてみた。


(鈴木、さいてー、マヂありえなくない。女の敵じゃん)

(抱けたらいいとか、それふざけてるよな)

(我慢できないから、他の女と寝ていいのかよ。琴音ちゃんに寄り添う気ねえだろ)


「わたしはその密会の日、圭吾くんと相談する為に、彼を部屋に呼びました。お互い傷心の身ですから、そこで好きになるとかもちろんありません。共同で仕返しができないかとわたしから話を持ちかけました」


「ふむ、そこまで言うと言うことは証拠があるんだな」

「はい、証拠をきっちりと撮るために茜さんと圭吾くんとこのハーバーランドまで来ました。その日、ホテルオークラ神戸でYさんと会うことを約束していたからです。こちらがその時の写真です」

 スマホから写真データーを取り出す。メールで番組に送ればモニターに映してくれると言われたので、番組にメールアドレスに送った。一応、由美の顔は隠している。圭吾くんをこんな所で不利な立場にはできないから。


「こちらが、ふたりの写真です。実はこれ以上に決定的なホテルでの音声もとったのですが、流石にそれはここで公にすることはしませんけどね」


「その音声はわたしに送ってくれ。その後わたしはこの男の処断を決めたい」

「はあ、何を言ってるんですか。こいつらだって浮気してますよね。抱きついたり、圭吾くんって、おかしいでしょ。何、俺が全部悪いって信じてるんですか」


「馬鹿はお前だ。琴音は嘘はついてない。自分の娘のことはわたしが一番にわかる。お前は結局、琴音を裏切り、わたしを裏切った。もうわたしのところには顔を見せるな。将来のことも無くなったと思え」


「なに、それ。ふざけてるのかよ。俺がどれくらい我慢して、ここまで辿り着いたと思うのだよ。それをお前らふたりで無茶苦茶にするのかよ」


「鈴木さん、そのお話はわたし、この前しましたよね。わたしはあなたを婚約者として認めてました。そう言う関係になる可能性だって閉ざしてたわけじゃない。あなたには父親と自分のことしか見えてなかった。わたしのことなんか、全く考えてなかった。それにね、浮気がなければどこかで受け入れるしかなかった。そんなことあなたが一番わかってたはずなのに……」


 わたしはきっと悲しい目で鈴木を見てるんだ。でも、これで終わり。


「さよなら、鈴木さん。三年間ありがとう」



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