第42話 クリスマスコンテスト その5

 17時を過ぎたサンテレビ本社2階。琴音、茜と俺は控室に入った。琴音は出場枠、俺と茜は琴音の応援枠で届けに記入した。周りを見渡すが、今のところ鈴木は、来ていなかった。


 さすがに、来ないことはないと思うが。


 出場者上位三組は、以下の通りだった。


一位 鈴木啓介、白石琴音ペア

二位 浅田幸人、服部雪菜ペア

三位 川崎隆二、高山春陽ペア


 四位以下も続くが、とりあえずライバルとなるのはここら辺だろうか。


「雪菜がんばろうな」

「幸ちゃんこそ、足引っ張らないでね」

 髪の毛を少し茶色に染めた少女、高校生ペアらしかった。二位があのふたりか。確かに可愛いが、チラッと隣の琴音を見た。


「どうしたの?」

 視線の前で琴音がじっと見つめてくる。この視線はやばい。思わずに顔が綻ぶ。俺の琴音に対する気持ちを差し引いても勝負にはなりそうにはなかった。涼介もあの性格を無視すれば顔だけなら、琴音と釣り合いが取れるのだから、一位はかなり現実的だろう。


 遅れて鈴木が到着する。


「琴音、行くぞ」

 茜と俺を全く見ずに琴音の手を握った。そのまま前の席に連れて行く。琴音はこちらをチラチラと見るが仕方がないと思ったのか鈴木の隣に座った。


「何を話しているのだろう」

「ここからじゃ距離が遠くて聞こえないね」

 控室は10組を収容するには大きく、普通のオフィスフロアくらいの広さがあった。

 鈴木が小さな声で喋るため全く聞こえない。


「読唇術を勉強しとくべきだったか」

「そんなに簡単にできるようにはならないと思うけど」

 俺たちは琴音の顔色だけが頼りだ。それも人垣に阻まれてなかなか見えにくかった。前に行きたかったが、前の方は混んでいて、移動しづらい。まだここが一番見える席だった。


 大きく当惑するでも、笑うでもない微妙な表情で琴音は鈴木の話を聞いている。時おりこちらをチラッと見てくる。

 わざと遠くの見えにくい席に行ったのだ。琴音が図らずしも孤立してしまった。本番は大丈夫だろうか。いつものポンコツぶりが不安だ。


 琴音の父親も主催者であるため、娘を見にやってきた。鈴木の横に立ち、談笑している。笑っているのは鈴木と父親だけだった。琴音の表情はここでも硬かった。

 何度か相槌を打っているようだが、顔色はすぐれなかった。


「あー、イライラするわ。大丈夫かなあ」

「もしもの時は乱入すればいいよ」

「テレビでそれやるか」

「番組が潰れるならその時だよ」

 できれば圭吾はやりたくはない。最悪、法外な費用の請求が来そうだ。


 会場にタレントが来場してきた。


「みなさん、おめでとうございます。良くここまで残りました」

 先ほど見た男だが、衣装を着替えたのかテレビで見る良く知った顔が際立っていた。


「これから番組が始まります。最初は昼に行われたインスタのダイジェストになります。それが終わりましたら名前を呼びますので、ステージに立って、自己紹介と出会って今までを簡単に説明してください。持ち時間は四分間になります」

 

「それでは移動してください」

 タレントの男の誘導で誘導スタッフが登場する。スタッフの導きで一階の会場まで移動した。


 ライトが点灯、様々な色の光が回転する。イベントさながらの演出。これでドライアイスの演出なんか加えれば、さながらイベントホールだ。


――――


(時間が少し戻る)

 鈴木がやってきて、琴音行くぞと言ってきた。拒否すればできないわけじゃないけれど、今は言うことを聞いた方がいい。そう判断して、わたしは鈴木に手首を掴まれて前の席に行った。


「やっと、わかったんだ」

「なにが?」

 座って開口一番自信ありげに鈴木がこう言った。


「琴音がなぜ、今日イベントに参加すると言ったかだ」

 鈴木は聞き逃しそうになる小さな声で言ってくる。ただ、それは聞き間違えではなかった。


「なんのこと?」

 真相に気づいたのか、琴音は心臓が強く鳴り響くのを感じた。


「白々しい。実は裏が取れたんだ。まさか、こんな不思議なことになってるとは思わなかったよ」

 チラッと圭吾を見る。こちらを見ているが何を言っているのか気づいてない。わざとこの状況を作り出したんだ。


「お前、由美と会っただろ」

 なぜ気づかれたんだろう。これは全てバレたと言うことか。


「今日までの流れを教えてやろうか。お前は俺の浮気を疑った。そして山本に連絡した。相手が由美と知っていたからだ」

「何を根拠に……」

「考えたらわかる話だったんだよ。初めからお前は仕返しの機会を狙っていた」

「まさかと思って由美に連絡した。途中まで言い出さなかったけど、全部白状したよ。由美と山本は恋人で、今山本は帰ってないと心配していた。その時に琴音のことも聞いた。ここで全てが繋がったんだ」

「それが分かってもわたしは言うよ。そのために来たんだから」

「言ってもいいが、お前の父親も俺の浮気のことは知ってるんだよ」

 鈴木は信じられないことを言った。


「嘘……」

「嘘な訳があるか。お前の父親は浮気くらいすることもあるだろう、琴音はそこら辺わからないだろうから、ちゃんと教育してやれよって言っていた」

「教育ってどう言うこと?」

「琴音が今回のことをバラせば、泥を塗られるのは君の父親だ。それを心配していた」

「俺は次期後継者として、公に話されるようになった、その俺の婚約者がそんなこと言い出したらどうなる」

「それは……」

「マスコミは喜ぶかも知らないが、一番ダメージを受けるのは君の父親だ」

「……そんな」

「わかるだろ。俺達は優勝して、君がこのことを言わなければ、君の父親も苦悩せずに済む。君も父親の怒りを買うこともなくなるんだ」

 鈴木はわたしの肩に手を回す。圭吾から見えない距離で抱いた。離れようと思ったが、それどころじゃなかった。まさかお父さんが知ってるなんて。わたしはどうすればいいのか分からなかった。


 暫くすると父親が来て、私と鈴木の頑張りを応援してると言った。鈴木と一緒に肩を抱き笑い合った。父親は本当に知ってるのだろうか、表情からは分からなかった。ここでバラすのはあまりにもリスクが高すぎた。父親が去るとまた鈴木が近寄ってきた。


「昼はすまなかった。あんなことを言ってしまった。でも信じて欲しい。僕は君を悪いようにしない。琴音が何も言わなければ、元の鞘に戻るだけだ。僕も琴音が身体を許してくれるなら、もう他の女なんか見ない。山本だって由美のところに戻り、父親の仕事が継げるんだ」


「僕はさ、琴音が好きなんだよ」

 首筋に顔を近づけて息を吹きかける。悪寒が走った。


「優勝したら、琴音が痛くないようにじっくりと優しく可愛がってあげるからね」

 鈴木は私を舐めるように下から上までを見た。唇に手伸ばして唇から首筋、やがて胸の方へ、と。


「いやっ、だ……、っやめて」

「可愛いよ、僕の琴音。誰にもやらないよ。特に圭吾にはね……」

 ぞくっとするほど美しい顔は人形のように表情がなかった。


―――


大変なことになってきました。

このままでは圭吾と琴音は終わってしまうのでしょうか。琴音の隣には鈴木がいるのでしょうか。


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