第8話 携帯ショップでふたり

 寄り道をしながら、少し離れた携帯ショップへ向かう。

 由美と別れてわずかな時間しか経っていない。尾行して来る可能性は十分にあった。


 本屋に寄り読書をするふりをする。ゲームセンターに入りプライズゲームで遊ぶカップル達を見た。


 そう言えば仲が良かったころ由美にぬいぐるみをねだられた。無邪気に抱いて喜ぶ由美。純粋に可愛かった。圭吾、あれ取って、今度はあれと……。


 それに比べ。先ほどの由美を思い出す。睨みつける敵意丸出しの視線が頭に浮かんだ。女は怖い。


 琴音も怖い一面はあるのだろうか。周りを見回し、尾行してきていないのを確認。携帯ショップへと向かった。琴音は鈴木と話している時も、射抜くような視線なんて見せなかった。やはり彼女は違うのか。


「琴音は、かわいいよな」

 思わず出た本音だ。見ている人は誰もいない。このくらいの声なら気づかないはずだった。


「誰が、かわいいんですか?」

「うん?」

 携帯ショップの前で佇む少女。少しジャンプ、後ろに手を回しスキップしながら圭吾の前に寄る。


「うわっ……」

「で、誰が、かわいいんですか?」

 琴音の大きな瞳がさらに大きく見開かれる。近寄ったことで、琴音の身体―石鹸と女性そのものの匂いが入り混じった香りを強く感じる。口角が少し上がり、悪戯を考えた少女のような表情をした。


「なんで、琴音がここにいるの」

 隣町といってもそう遠くはない。偶然出会う可能性がない訳ではないのだが。ただ、あまりにも無防備な表情が圭吾に不安をあたえる。


「待ってたの」

「なかなか、来ないんだから」

 唇をすぼめる。本当に表情がころころと変わるなあ。最初に会った時はそうは思わなかった。親しくなった友達だけに見せる笑顔がそこにはあった。


「俺、言ったよな」

 琴音は無防備すぎる。可能性として思っていたことが確信に変わる。琴音は後先考えずに突っ走る。嘘はつけない。やはり、見ていてかなり危なっかしい。


「会わないようにしようって」

「うん、……知ってる」

「じゃあ、なんでここで待ってたの」

「だからね」

 一呼吸おいて、くるっと回った。いや、なんで回った。回る必要ないだろう。


「よっと……」

「……」

「圭吾くん、携帯買うんでしょ」

「だからね……」

「わたしも一緒に買おうと」

 そんな理由で、携帯ショップに来たのか。

 やはり、無謀すぎる。


 外に長くいると、社長や由美に会う可能性が高くなる。圭吾は周りを慎重に見て、誰もいないことを確認してから琴音と携帯ショップに入った。


「いらっしゃいませ」

 店内を見渡すとさまざまなスマホが店にはあった。iPhone、Androidという大きな区分けではなく、さまざまな形状のスマートフォンが。


「何をお探しですか」

 狭い店内だから店に入ると店員の近くになる。スマホを売り込もうと店員が聞いてくる。


「ここに、レンタルスマホはありますか」

 俺は今回のスマホに関しては機種はどれでも良かった。琴音と連絡する手段として捉えていたからだ。レンタルにするのは足がつきにくいためだ。


「えっ、レンタルにするの?」

 隣の琴音はそれを聴くと、真っ先に不満を口にした。明らかに嫌な表情をする。


「いやか」

「いやです」

「せっかく圭吾くんとお揃いスマホにできる機会なんだよ、何故 レンタル?」

 レンタルと聞いて心底残念そうな表情をする。レンタルでも種類はあるが自由に選べない。そもそも新品ではないので、ふたりの記念にはならない。

 そんな理由でレンタルを選んだのではないわけだが。


「お兄さん、彼女さんの言うとおりですよ」

 近くにいた男性店員が獲物を見つけたような表情で近づいてくる。あどけない表情の彼女とベタ惚れな彼氏。彼女に脳内まで惚れ込んでいる男には、高いものを薦めても買うだろうと。俺は店員から目を離し、琴音の方に視線を向けた。


「彼女……?」

 突然、大人しくなる。

「彼女……」

 いや、確か鈴木の彼女だったはずなんだが。耐性がなさすぎるだろ。いつも年齢より幼く感じるが。今の琴音は年齢の半分くらいの娘の反応だった。


「圭吾……くん」

 琴音がすぐ近くにいた。

「彼女だって」

「見えるかな?」

 琴音、俺に聞くなと思う。第一、釣り合いが取れるわけがないだろう。学園一の美少女と、平凡な俺。やはり、からかわれてるのだろうか。


「とってもお似合いですよ」

 店員は全くそうは思ってない表情で、話を合わす。店員スマイルを貼り付けた顔にはなんでこんな可愛い彼女を、と言う感情を全く消せてはいなかった。


「そっか……」

 顔を少し下げてとぼとぼと近づく。


「圭吾くんは由美さんの彼氏だもんね」

 この展開で誰も思わないだろうセリフを口にする。もしそうであるならば、ここで由美を陥れる行動は取らないだろう。どう捉えたら、そう言う風に見えるのだろうか。やはり、からかわれているのだ。


「スマホをレンタルするの辞めようよ」

 そこには先ほどのふざけた表情はなかった。買取りにしてしまうと由美にバレてしまう。だから、そうしたのだが。前に座る琴音は意外な提案をしてきた。


「だからね、ふたりのスマホをわたしが買うの」

「で、一台は圭吾くん、もう一台はわたしの」

「ならバレないし」

 その提案は考えないわけでもなかったが、勿論否定した。それではまるで……。


「ヒモじゃねえか」

 その言葉を聞いた琴音は、そうかそうかと納得する。ヒモかー、それもいいかもね、と言う声が聞こえた。


「いい、わけないだろ」

「まぁ冗談はさておき」

 琴音は受付に置いた両手にあごを乗せる。こっちを向きながら、人差し指を立ててニッコリと笑顔。やはり、琴音は可愛いい。打算で由美の言う通りにしなくて本当によかった。


「圭吾くん、スマホを確認されても隠せないからここに来たよね」

「そうだけど」

「そんな相手に1番、気をつけるのはレンタルスマホ」

「支払いで結構足がつくんだよ」

「その点、買取りであれば問題ない」

「支払いもわたしが行うから気づきにくい」


「まあ、ヒモと思うならば、わたしに払ってくれればいいよ」

「でも、わたしは」

「タダで使ってくれて、いいんだけどね」


「だからね」

「これがいい」

 そこには、カップルお勧めのスマホです、と但し書きが添えられていた。いや、だから琴音、あえてハードル上げなくても。


 こういう素振りを見せられると琴音を独り占めしたくなる。琴音の本音が聞けたら。

 琴音は俺のことを本当はどう思ってるんだろう。


やはり、厚意からに違いないが、好意がいいなと強く思う。手鏡に自分の顔が写る。流石に好意はないか、と視線をあげた。


「琴音、スマホの支払いは必ずするから。よろしくお願いします」

「うんうん、それじゃあ買うね」

「お支払いはカードで……」

 限度額が無制限のプラチナカードがそこに はあった。


――


 圭吾の携帯ショップでの話。

 いついかなる時でも琴音は、思い通りに動きません。


 今後のふたりはどうなるのか。


 ブックマーク、いいねいただければよろこびます。


 よろしくお願いします。

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