第17話 小さな覚悟
お昼をご馳走してもらったこともあり、仕方なく服を見に行くのに付き合うこととなった。
一応名目としては、私のコーディネートとなっているけど・・・。
うさぎ先輩の服装を見て、少しはオシャレを意識しようと数時間前に決意したはずなのに・・・。どうして・・・どうしてこうなった! もう心が折れそうだ。
ファッションフロアに移動するや否や、あっちこっちと連れ回され、まるで着せ替え人形のように私は試着を繰り返している。
あれもいい、これもいいと今日一番のテンションのうさぎ先輩に振り回され、次は下着を見に行こうと、既に歯止めが効かなくなってきているうさぎ先輩に危機感を感じた。
「ちょっと先輩落ち着いてください!」
さすがにこれ以上は無理だ。
「お昼ご馳走してくれたのはありがたいですけど、いくらなんでも限度があります」
そう言われてからやっとうさぎ先輩は移動を止める。
「ご、ごめんね? つい・・・」
えへへと頬を掻きながら謝ってくる。
「服見るならまだしも、下着見に行くのはどういう理由があるんですか? 説明してください」
理由によっては帰ってやるんだから!
「わ、私が選んだ下着を、桜ちゃんが着てくれた嬉しいかなぁって」
えぇ・・・。
隠すことなく正直に話してくれたのはいいけど・・・。どうしよう、本当に帰ろうかな。
「変態」
「へ、変態じゃないし!」
振り返ってみると、脚を触ったのもただ触りたいだけだからと思ってしまう。
「だってこの前も、よだれ垂らしながらめっちゃ脚触ってきたじゃないですか。着替えもやらしい目でジーッと見てたし」
「あ、あれは! き、筋肉をね? ね? あとやらしい目で見てないし、よだれ垂らしてないから!」
「本当ですかー?」
目を細めながら聞く。
「ほ、本当だもん!」
「信用ならないなぁ。まぁ、脚と着替えのことは今置いといて、下着は絶対見に行きませんからね!」
「ちょっとだけ見に行くのは・・・?」
「だ! め! で! す!」
「・・・わかったよぉ」
シュン。とうさぎ先輩が落ち込む。
いやいや、そんな落ち込まれても。下着ぐらい自分で選ばせてほしい。
「じゃあさ! お詫びとして、さっき桜ちゃんが可愛いって言ってたワンピース買ってあげるから! だから怒らないで!」
「いや、それは悪いのでいいですよ。別に怒ってないですし」
さすがにそこまでしてもらうのは気が引ける。
そのワンピースというのは、うさぎ先輩が着ているのと似た花柄のワンピースだ。買ったら買ったでまたお揃いとか言いそう。
「私が嫌なの! ほら行くよ!」
腕を引っ張られ、さっきの店へと戻ろうとする。強引すぎなんだよなぁ・・・。
「でも、あれ4000円ぐらいしますよ?」
「大丈夫大丈夫。私に任せなさい!」
何が大丈夫なのかよく分からないけど、こうなったらもう断るのは無理そうなので、大人しくついていくことにした。
「サイズはさっき試着したから大丈夫だよね!」
店に着いてから早速商品を手に取り、レジへと一直線に向かおうとする。
「あの! 本当に大丈夫なので! 今度自分で買いに来ますから!」
しかし、うさぎ先輩は手で耳を塞ぎながら、聞こえなーいと言ってレジへと進む。ダメだこりゃ。
買ってもらったとしても、私にあんな服を外で着る勇気が今はない。
ということは、タンスの中に永遠に封印することとなる。なーむー。
それでもいいのかしらと考えていると、会計を済ませたうさぎ先輩が満足そうな表情でこちらへ歩いてくる。・・・幸せそうで何より。
「はい! ちゃんと着てね・・・?」
ワンピースが入った袋を渡してくる。
「あの・・・買ってもらって悪いですけど、こんなの着る勇気ないですよ・・・」
着れたとしても大人になってからだろうな。
その頃には私も少しはオシャレを気にしているかもしれない。
せっかく買ってくれたのに、こんなことを言う私は最低かもしれない。
「大丈夫だよ。また今度、私と出かける時に着てくれれば」
「・・・え?」
「その時は私も今日みたいに、このワンピースを着てくるから! お揃いみたいで恥ずかしくないでしょ?」
お揃いって言ってくるとは思ったけど、なんか予想してたのと違った。
「・・・まぁ、そうですけど」
「だから受け取って?」
「・・・・・・分かりました」
もう本当にこの先輩は・・・。
「ワガママな先輩の為に、仕方なく受け取ってあげます」
素直じゃないな私も。
「ちょっとー! そんな言い方ないでしょー!」
「じゃあ着なくていいですか?」
「だめーーーー!!!」
ブンブンと顔を横に振る『美桜先輩』を見てアハハと笑う。
今日初めてちゃんと笑ったような気がする。少しは楽しめているのかな。
美桜先輩は変な人だし、たまに子供っぽくてめんどくさいけど。
「そういえば、なんかワンピース買ったらカーディガンもついてきたよ!」
袋の中を覗くと、ワンピースの他に薄いピンクのカーディガンも入っていた。
・・・ふと、ある考えが思いつく。
しかし、実行するとなるとかなり恥ずかしいし、勇気が必要になってくる・・・。
でも、多分だけど、美桜先輩は喜ぶはず。いや、絶対喜ぶ。想像するのも容易い。
「絶対桜ちゃんに似合うと思うなぁ!」
「・・・」
「その服着て一緒に出掛けるの楽しみだね!」
「・・・・・・」
美桜先輩を見ていた私は覚悟を決める。
こんなに楽しみにしてくれているんだ。
その気持ちに私は応えたい。
「ちょっとトイレ行ってもいいですか?」
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