第16話 うさぎ先輩の作戦

 レストランフロアはお昼時とあって、ちらほらと長い列ができ始めている店もある。


「何食べよっか」


 さっきまで拗ねていたうさぎ先輩も、レストランから漂ってくる匂いで少しは機嫌をよくしたようだ。


「私はなんでもいいですよ。特に好き嫌いないので」


「えー。なんでもってのが一番困るんだけどなぁ」


 そう言いながら、今いるフロアの案内板を覗き込む。

 現在、私達がいるフロアは4階だ。

 私もうさぎ先輩の隣に立ち、案内板を見ることにする。

 案内繋がりで思い出したけど、案内人のくぼちゃんが細かいことは気にせず楽しめって言ってたっけ。

 今の所、気を遣ったりしてないはず。

 というか、気を遣うどころか、うさぎ先輩は一緒にいて気楽でいれる存在みたいな感じがする。

 それにからかいすぎて、生意気な後輩とか思われてるかもしれない。実際生意気だと思うけど。


 レストランフロアは4階、5階とあり、和洋中はもちろん、中にはタイ料理やベトナム料理などといったエスニック系の料理まである。

 どれかのジャンルに絞らないと、目移りして選ぶのに時間がかかりそうだ。


「先輩は何か食べたいとかないんですか?」


 とりあえず、うさぎ先輩の意見を聞いてみる。


「んー。そうだなー。昨日の夜ご飯が和食だったから、パスタとか洋食系がいいかなって」


 洋食か・・・。そういえば最近ハンバーグ食べてないな。

 これはもうハンバーグで決まりだね。異論は認めない。


「それならハンバーグ食べたいです。美桜先輩がハンバーグ嫌なら、私一人でも食べに行きます」


「なんでよ! 一緒に食べるの! ハンバーグでもいいけど、結構ガッツリいくんだね」


「最近食べてないなぁって思ったのと、朝ごはん控えめにしてきたのでお腹空きました」


「じゃあ、ハンバーグにしよっか」


「はーい」


 5階のフロアにハンバーグがメインのお店があるので、そこに行くことにした。


 目的のレストランの前に着くと、ハンバーグを焼いている香りが漂ってきて空腹を刺激する。

 店の前に置いてあるサンプルだけでも既に美味しそうだ。このサンプルはもちろん食べれないんだけど。

 どれどれとサンプルを見ていると、中を覗いていた美桜ちゃんが戻ってくる。


「並んでないみたいだよ! やったね!」


 すぐにご案内となり、うさぎ先輩のあとに続き店内へと入っていく。

 外に列はなかったけど、店内には結構お客さんは入ってるみたいだ。


 テーブルに着き、メニューを眺める。


「わー! 美味しそうだね!」


「ですね。あ、先輩はお子様ランチでいいですか?」


「どうしてよ! 私は子供じゃないんだからね!」


「でもでも! おもちゃついてきますよ? 本当にいいんですか?」


「桜ちゃん。私のこと小学生とか思ってない?」


「え? 違うんですか?」


「違うでしょー! 桜ちゃんのバカ!」


 そんなくだらないやりとりをしながら、再度メニューに視線を戻す。

 ハンバーグがメインとなっているが、それ以外のメニューも豊富だ。グリルチキンやエビフライなどもある。

 メニューを見ているものの、私は店の前にあったサンプルを見た時には既に頼む物を決めていた。


「もう店員呼んでいいですか?」


 うさぎ先輩が、メニューを見て悩んでいるのを知りながらも店員を呼ぼうとする。


「え!? もう決めたの? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 慌てて決めようとする姿がちょっとおもしろい。


「嘘です。ゆっくり選んでください」


「もー!!!」


 数分後、メニューが決まり店員に注文をする。


「私はハンバーグとグリルチキンのセットで。桜ちゃんは?」


「え? 先輩はお子様ランチじゃないんですか? おもちゃ欲しいって騒いでたのに」


「ちょっと! 店員さんの前でやめてよ!」


 うさぎ先輩が本気で恥ずかしがる。そのやりとりを見た店員は苦笑いしていた。


「私はこのチーズインハンバーグのセットでお願いします」


 注文を言い終えると、かしこまりましたと店員がテーブルから離れていった。


「恥ずかしいからあーゆーのやめてよね!」


「先輩の反応がおもしろいのでつい」


「もう! 桜ちゃんはあんまりメニュー見てなかったけど、すぐ決まったの?」


「店の前のサンプル見て決めてました」


「そうだったんだね」


 注文した料理が届くまで、買ったラケットの話しや部活の話しなどで盛り上がる。


 しばらく待つとこと15分。

 ジュージューと音を立てた料理が運ばれてきた。


「美味しそうー!」


 うさぎ先輩は携帯を取り出し、写真を撮り始めた。

 おー。今どきのJKっぽい。私も一応JKなんだけどね。


「桜ちゃんは撮らないの?」


「私はあんまり写真とか興味ないんで大丈夫です」


「じゃあ、桜ちゃんのこと撮ってもいい?」


 なんのじゃあだよ。ダメに決まってるでしょうが。


「なんでですか。ダメです。撮ったらもう口効きません」


「そんなぁー」


 あからさまに落ち込むうさぎ先輩。


「冷めない内に食べちゃいましょう」


 早速いただくとしよう。



 食事が終わり店を出る。


「食事代、出してもらっちゃって良かったんですか?」


「いいのいいの! 誘ったの私だしね!」


「そうですか。ごちそうさまでした」


 ここは素直に感謝しておく。


「お腹もいっぱいになったし、次は桜ちゃんの服を見に行こうか!」


「・・・え?」


 まさか、モールに入る前に言っていたコーディネートって、そういうことだったのか...。


「いや、でも服まで買うお金なんて持ってきてないので・・・」


「ご飯ご馳走したんだから付き合ってよー!」


 ずるい。ずるいぞ! 最初からそのつもりだったな!

 自分の食べた分払いますと言っても、絶対受け取らなさそうなので、仕方なく付き合うことにする。


「まぁ、見るだけなら」


「やったー! じゃあ行こっか!」


 うさぎ先輩に手を引っ張られ、ファッションフロアへと向かうこととなった。

 くそぉ・・・。

 ・・・まんまと作戦に乗せられた。

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