第14話 不敵な笑み
陽気も春らしく、ちょうどいい暖かさで過ごしやすくなってきた。
1年中こんな感じの気温ならいいのになぁ。
そんなことを考えながら待ち合わせ場所に向かう。
うさぎ先輩と待ち合わせの時間は11時。
腕時計を確認すると待ち合わせまで15分程ある。
「少し前には着きそうかな」
家から駅前まではそこまで遠くない。歩いていける距離だ。
迷ったりしなければ確実に間に合うだろう。
何年も歩いた馴染みある道なので迷う方が難しいが。
駅前には3年前にできた大きなショッピングモールがあり、大体そこで一日過ごすことができる。
レストランはもちろん、若者に人気のショップや映画館、今日行く予定のスポーツショップなど、ジャンルを問わず様々な店が入っている。
なので、わざわざ電車に乗ってどこかへ遊びに行くということはあまりしない。
今日はラケットを買いにスポーツショップへ行く予定だが、そのあとお昼ご飯を食べる約束をうさぎ先輩としているので、今朝の朝食は少なめにしておいた。
何気なく携帯をいじる。そういえば昨日から携帯を見ていない。
部活を終えて家に帰る途中、突然と目の前に案内人のくぼちゃんが現れたのだ。
そんなこともあり、色々と疲れてしまい、ご飯を食べてお風呂に入ってからは携帯を一回も見ずにすぐ寝てしまった。
携帯の画面をオンにして、メッセージアプリを起動し確認してみると、うさぎ先輩から20時頃にメッセージが届いていた。
『お疲れ様ー。明日何食べたいとかあるかな?』
うさぎ先輩の性格からして、返事がないことにソワソワしているに違いない。うさぎは寂しがり屋さんだからね。
きっと寂しいよーと嘆いてることだろう。
どうせこのあと会うし、返事を返すか悩んだが、気づかなかったと返信することにした。
「おはようございます。昨日は携帯全然見てなくて気付きませんでした。ごめんなさい。もうすぐ着きます」
よし、これで大丈夫なはず。
返事返すの遅れてごめんね、うさぎちゃん。と心の中でもう一度謝った。
会った瞬間飛びかかってきたりしないよね? 大丈夫だよね?
そんな心配をしているとすぐに返事が返ってきた。
『おはよー! そうだったんだね。気にしてないから大丈夫だよ! 待ってるねー』
どうやら怒ってはなさそうだ。
良かったと胸を撫で下ろす。実際そんな心配してないけど。
でも、待ってるねってことはもう到着してるってこと? 少し急いだ方がいいかな。
待たせるのも悪いので待ち合わせ場所まで走ることにした。
時計台の前で待つうさぎ先輩を見つけると、あちらも気付いたのか元気一杯に手を振ってくる。
「すいません。お待たせしました」
お待たせしすぎたのかもしれません。と心の中で付け加えておく。
「走ってきたの?」
「はい。待たせたら悪いと思って」
「そんな待ってないから大丈夫だよ」
何その結構前から待ってたけど、そんな素振り見せない的なデートあるあるみたいなの。いや知らんけど。
膝に手をつき、肩で息をしている私に水いる? と聞いてきた。優しい。今のはポイント高いね。
ところで、いつから待ってたのかな? 隠さず正直に話してみようか。なんて言えるはずもなく、息が落ち着いたところで顔を上げる。
うさぎ先輩はニコニコしながらこちらを見ていた。
今日のうさぎ先輩は、花柄のロングワンピースにデニムジャケットを着ていていかにも春らしい格好だ。
化粧もバッチリで唇にはリップが塗られている。
・・・なんというか、部活の時のうさぎ先輩とは思えない。かなり大人っぽい。何、別人?
「・・・綺麗」
「え?」
「・・・え?」
あ、つい口に出てしまった。
「・・・ありがとう」
赤く染まった頬に左手を添えながら、小さく言う。
「・・・」
「・・・・・・」
なんだこの空気は・・・。
そんなあからさまに照れられると、こっちまで恥ずかしくなるからやめてほしい。
この空気に耐えきれなくなった私は移動を促す。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
「うん!」
キラキラした笑顔をうさぎ先輩が見せる。ま、眩しい・・・。
そうして私達はショッピングモールへ向かうことにした。
こんなことなら、もうちょっとオシャレしてくればよかった。大した服持ってないけど。
うさぎ先輩の服装をもう一度見て、自分の意識の低さとファッションセンスのなさに落ち込み、小さな溜息をつく。
「溜息なんかついてどうしたの?」
どうやら聞こえていたらしい。
覗き込むようにうさぎ先輩が聞いてきた。
「いえ、自分の服装と比べて、佐藤・・・じゃなくて、美桜先輩がすごくオシャレなので・・・」
「えー? 私は桜ちゃんの服装も好きだよ」
そう言って慰めてくれたが、残念ながらお世辞にしか聞こえない。
今日の私の服装は、上はパーカで下はショーパンだ。ショーパンの下は黒のタイツを履いている。靴はスニーカー。
・・・どう考えてもオシャレとは言えない。動きやすさ重視の服装。
これを機に私も少しはオシャレを意識することを決心する。
「私が美桜先輩の格好しても絶対似合わないです。憧れはしますけど」
「えー? そうかなー?」
そうなんですよ!
なんだか段々ムカついてきた。何にムカついてるのかは自分でも分からない。
「じゃあさ、私が桜ちゃんをコーディネートしてあげようか?」
「・・・はい?」
人差し指を頬に当てながら、うさぎ先輩が不敵な笑みを浮かべている・・・。
一体何を考えているんだ・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます