第8話 デート
「何でここに!?」
有馬が驚き目を見開く。俺も同じようになっているだろう。
「ここ俺の部屋だから」
「うそ! 隣だったんだ! 気付かなかった! いつから!?」
「いや、今日から」
「あ、そっか。でもこんな偶然あるんだね! よろしくね!」
「おう、よろしく」
有馬が嬉しそうに笑うので、こちらもつられて口角が上がる。
「ねえ、スイーツ食べない? アタシ一人じゃ食べるの大変だからさ」
言われて見てみれば、有馬はコンビニの袋を持っていた。中にはエクレア、プリン、パフェなど大量のスイーツが入っていた。たしかに一人で食べきれる量じゃない。だったらなんで買ってきたんだ?
「まあ、いいけど」
流れで俺の部屋へと案内することになった。
「何もないじゃん!」
忘れてた。机もないんだった。
「スマン。今日から住み始めたから」
「待ってて! 持ってくる」
有馬はコンビニの袋を玄関に置くと、急ぎ足で部屋を出ていった。そして隣の部屋でごそごそと物音を立てて戻ってきた。
「はいどうぞ!」
明るい黄緑色の、ちっちゃくて丸いローテーブルを部屋のど真ん中に置いた。
「わざわざすまん。終わったら俺が運ぶよ」
「大丈夫、あんま使ってないしあげるよ」
「さすがにそれは……」
「でも一から家具揃えるの大変だよ? 仕事もまだ決まってないんだし貰っといたらいいじゃん」
それもそうか。
「すまん、助かる」
「いいよいいよ、そんなことより食べよ食べよ!」
レジ袋から次々にスイーツを取り出して机に並べていく。
「奈佐君も好きなの食べてね」
言いながらプリンのフタを取って食べる。
「うんまぁ!」
と満面の笑みでなんとも美味しそうに食べる。つられて俺も別のプリンを手に取り食べる。うまい。
「奈佐君は食べ物のシェアOK派?」
「まあ、うん」
「じゃあ貰うね」
有馬は俺のプリンを一口分スプーンですくって食べた。また「うま~」と口を緩める。
「てかホント助かったよ! アタシコンビニのスイーツが好きで、将来スイーツ開発したいなって思ってて研究してるんだけどさ、一人でこんだけ食ったら太るじゃん。だから一緒に食べてくれるの助かる! ありがと!」
有馬は話しながらも食べ続けていた。本当にスイーツが大好きなようだ。そして意外にもしっかりと将来設計をしているらしい。見た目と違ってしっかりしているようだ。
「あ、今こいつ意外としっかりしてんなって思ったでしょ」
有馬は口を尖らし、ジト目で見てきた。
「すまん」
「まあ慣れてるからいいけど」
「悪い」
「慣れてるって言ってるじゃん。それに損はしてないしね。だって奈佐君もアタシのこと好きになったでしょ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、スプーンを突きつけてきた。
確かに慣れてるようだ、男に。冗談だと分かっててもドキッとしてしまうのが悔しい。
「あ、こいつ遊んでるなって思ったでしょ」
なぜ分かるのか。エスパーか。
「別にエスパーじゃないよ、奈佐君が分かりやすいだけ」
そうなのか。
「すまん」
「お詫びに一緒にカフェ巡りして」
「カフェ巡り?」
「研究のためにはコンビニスイーツだけじゃなくて、いろんな店のスイーツを食べないとね」
「それくらいなら、喜んで」
「じゃあ日曜10時に家の前ね」
「分かった」
「デート楽しみにしててね」
部屋を出るとき、有馬はいたずらっぽい笑みを浮かべながら扉を閉めた。流れるようにデート?の約束を取り付けられた。やはり男に慣れているようだ。……悪い気はしない。
「よっす!」
部屋を出ると、すでに有馬がいた。へそ出しコーデだ。目のやり場に困る。
「おう、行こうぜ……」
「うん!」
照れて素っ気ない感じになってしまったが、有馬は気にしていないようだ。よかった。
カフェに着いた。店中に植物が飾られている。ずいぶんとオシャレな店だ。何がどうオシャレなのか俺には分からないくらいオシャレだ。
「欲しいものある?」
「特に」
「じゃあアタシが好きなもの頼んじゃうね」
有馬はスイーツをいっぱい頼んだ。そしてそれらがやってきた。タワーになったスフレパンケーキ二つに、イチゴがたっぷり乗ったタルト、こぼれそうなほど積み上げられたパフェ、それから山椒を使った珍しいティラミス。
「おぉ! 美味しそう」
「待って、写真撮らなきゃ!」
有馬はスマホを取り出した。
「ミンスタに上げるのか?」
「それもあるけど、スイーツは見た目も重要だからね。研究しないと!」
いろんな角度からパシャパシャ撮る。そして一通り撮り終わると山椒ティラミスを口に運んだ。
「うんまあっ!」
満面の笑みだ。天真爛漫な笑顔とはこういうのを言うのだろう。思わず見とれてしまう。
「コーヒーの苦味と山椒の辛さが合う! それにクリームの甘さを引き立ててる! パチパチ感もいい! アイスに合いそう! 今度試そ!」
しっかり分析している。これは即戦力だろう。
「ね、食べてみて食べてみて!」
両手で皿を持ち上げて勧められる。食べる。
! たしかにうまい!
「山椒とスイーツ合うんだな!」
「でしょ! 合うよね!」
スイーツがうまいと話が弾む。箸も進む。どんどん食べ進める。
「そういえば仕事決まったぞ。バイトだけど」
話題の一つとして話した。
「ホント!? よかったじゃん! お祝いしないと! ほら、じゃんじゃん食べてね! 奢りだから!」
「おう」
たらふく食べた。
店を出る。ウプッ。甘いもんばっかり食うのは、さすがにきつい。
「いやぁ、美味しかったね!」
有馬がひまわりのように笑う。まあ有馬が楽しいなら別にいいか。
「また行こうね!」
「ああ、給料が入ったら奢るよ」
次の約束をして別れた。
それからも何度かカフェ巡りやコンビニスイーツ品評会をした。映画を見に行ったり、有馬が作りすぎた唐揚げを持ってきて一緒に食べたりした。幸せな時間だった。
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