第5話 自殺

 通報した俺は警察に連行され、鑑別所に入った。そして裁判され、少年刑務所に入ることになった。


 裁判の前も後も両親は一度も会いにこなかった。


 ◇◇◇◇


 鮮紅な血がヒタヒタと手に染み込んでくる。彫像のように動かなくなった教頭先生と栗原先生がこっちを見る。頭のない校長先生の首もこちらを見ている。奈佐君がうっすらと笑う。私は悲鳴を上げて立ち上がり、転げるように走って逃げた。


「ウワアァァァッ!!!」


 目を覚ます。汗でぐっしょり。肩で息をしている。


「大丈夫?」


 母が部屋の扉の前から聞いてくる。私が悲鳴でも上げていて心配したのだろう。


「大丈夫」


「そう。学校はどうする?」


 学校と聞いただけで体が固くなる。まるで氷になったよう。クラスメイトの目が怖い。記者に責められるかもしれない。そう思うと怖くて怖くて部屋から出ることもできない。


「あんなことがあったんだもの、無理しなくてもいいわ」


 そう言って母は去っていく。


りんは今日もか」


「ええ」


 両親が会話している。


「優しい子だからな。無理もない」


 父が言う。違う。私はそんなんじゃない。優しい子なんかじゃない。


 スマホの通知音が鳴る。楓からのRINEだ。


『大丈夫? 気にしない方がいいよ。凛は悪くないんだから』


 違う。私が悪い。私のせいだ。私のせいで先生は死んだんだ。叫び声が聞こえていたのに怖くて入れなかった。そもそもいじめを止めていれば奈佐君もあんなことしなかった。私が悪いんだ。


 なのに私はどうして私がこんな目に会わないといけないのって思っている。クズだ、ゴミだ。


 私のせいで! 私のせいで!

 嗚咽する。


 全身が張り裂けそうになって、耐えられなくて、ハサミを掴む。そして捲り上げた手首に振り下ろす。血が吹き上がる。小さく呻く。ああ、痛い、痛い。血が滴っている。でも不思議と心が楽になる。今この瞬間だけは許されている気がしてくる。


 ……分かってる。これは罪を償っているわけじゃない。逃げているだけだ。でもやめられない。最低だ。私は私のことしか考えていない。先生たちのことなんかこれっぽっちも考えていない。逃げることしか考えていない。


 最低だ! 最低だ!


 もう何度やったか分からない。無数の傷跡の付いている手首に何度もハサミを振り下ろす。意識が朦朧としてきて、バタりとその場に倒れる。


 死んじゃうのだろうか。……別に死んじゃってもいいか。


 目を閉じる。体が冷たくなっていく。


 もう楽になろう。私にこの世界で生きている資格なんかないのだから。











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