魚影

 雨が降ったわけでもないのにその敷地内だけが濡れていた。

 夜、帰り道。街頭の灯りに照らされてらてらと光る様はどう見ても水面のそれだった。ぱしゃん、という音に目を向けてみると、黒い大きな影が揺らめいている。当然そこはただのコンクリート製の地面だ。なのにそこには大きな魚の影が泳いでいる。

 信号待ちの間、私はその大きな魚影を目で追った。直径は自家用車とそう変わらない。疲れているのだろうかと思いつつも、やはり魚が動く度にぱしゃんと地面が波紋を描く。私はその水面に触れてみたくなって、地面にしゃがみ込んで手を伸ばした。

その瞬間、敷地内をぐるぐると泳いでいた魚がこちらに向かっ
















 ぱしゃんという音がした。この近くには川も池もないのに。聞き間違いだろうか。

あれ、と僕は前を向く。さっきまで信号の傍には女性が立っていたような気がしたけれど。僕が近付くまでの間にどこか別の所に行ったのだろうか。

 首を傾げつつ僕は帰路へとつく。すぐ傍の地面が、水面の様に揺れた気がした。

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