第6話 絶望の淵
「今日も来なかった……か。」
彼女と花火大会に行ってから一ヶ月が経った。
あれから彼女とは、連絡すら取れない。
教師に聞いても、みな口を揃えてわからないと言う。
「佐伯さんは、俺に何を伝えたかったんだ?」
俺は彼女に貰った本を眺めながら考えた。
もし、彼女が何か伝えたい事があるとするなら、必ずこの本に書いてあるはずなんだ。
彼女は、このありきたりな物語で俺に何を伝えたかったのか。
「何かヒントはないのか……。」
俺がパラパラと本を捲ると、本から栞が落ちてきた。
押し花を綺麗な折り紙とラミネートしてある。
「綺麗な花だな。」
……花。そういえば、この小説にも出てきた。
確か名前は、勿忘草。ヒロインが主人公に最後に渡した花だ。
「花言葉は、私を忘れないで……か。」
俺は、栞に使われている花を調べるためにラミネートを剥がすと、何か小さなものが落ちてきた。
「これは……SDカード?」
俺は、パソコンにSDカードを挿し、データを見た。
「動画?」
俺は震える手でマウスをクリックした。
『こんにちは。これを観れてるってことは、栞に気づいたんですね。』
動画に写っているのは、病衣を着てベッドに座っている佐伯さんだ。
『恐らく、突然私がいなくなって驚いていると思うんです。……実はですね、私、心臓病を持ってるんです。』
「え?」
俺は、彼女の突然のカミングアウトに言葉が出なかった。
『私は、去年の十二月に一年の余命宣告を受けました。だから、私はみんなの悲しむ顔を見たく無いので、静かに消えることにしました。』
なんだよ……それ。
消えることにしたって……。
『でも……私はきっと、後悔しているはずなんです。だから、もし、まだ私を見限っていないのなら、行ってあげてくれませんか? 多分、私はもっと大きな病院に移されます。行き先はこれに。』
そう言った彼女は、栞に使われているのと同じ折り紙を持っていた。
そして、栞に使われている折り紙を見てみると、大型病院の名前が書かれていた。
『自分勝手な私ですが……最後まで……よろしくお願いします……。』
最後、彼女は泣いていた。
俺は、病院に向かう準備のためリビングに入ると、テレビでニュースをしていた。
『速報です。先ほど救急車が事故に遭い、救急搬送されていた佐伯 文音さんが死亡しました……』
ニュースキャスターの無感情な言葉を聞いた俺は、持っていたカバンを落とした。
佐伯さんが交通事故で死んだ。
ただそれだけの事実が、俺を絶望の淵に追いやった。
俺は、彼女をあまりにも軽く考えていた。彼女は、何度も助けを求めていた。
俺はその全てを無視した。まだ時間はあるなんて浅はかな考えをしていた。
それから俺は、カバンを拾い上げ、自室に戻った。
もうこの世に、彼女はいない。
そんな現実を受け止めきれない自分がいた。もっと彼女と話していれば。もっと早く彼女と出会っていれば。
そんな後悔に俺は押し潰された。
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