第5話 彼女の本
「楽しかったですね!」
花火を終え、人混みに流されながら俺たちは帰路に着いた。
これでもかと言うほど写真を撮った彼女は、満足げに俺の隣を歩いた。
「……なぁ佐伯さん。」
「なんですか?」
「俺に何か、隠してる?」
彼女は、俺の言葉に少し考えた後、静かに答えた。
「どうして、そう思うんですか? って言っても、なんとなくはわかります。」
「やっぱり、何かあるのか?」
俺が聞くと、彼女はカバンの中から栞の挟まった一冊の本を取り出した。
彼女が書いている小説じゃない。また別の文庫本だ。
「帰ったら読んで見て下さい。それじゃあ私は母が迎えに来ているのでここで。」
そう言って、彼女は足早に行ってしまった。
俺もそのまま、自分の家まで歩き始めた。周りは思ったよりも暗く、歩いているのは同じく花火帰りの人と帰宅途中のサラリーマンだけだ。
「帰ったら読め……ね。」
俺は、持っている本に目を向けた。
彼女には帰ってからと言われたが俺は帰りながら読むことにした。
「十二月病……?」
これはまだ執筆中だったはずじゃ……。何より、俺がこの前見せられたのはこの本じゃない。どうして本が二つ……。
そして、パラパラと本をめくって気ずいたことがある。
「全部書かれている……。」
最後のページまで埋まっているのだ。つまり、彼女は今まで俺に嘘をついていたのだ。
しかし、一体なぜ……。
「……読んでみるか。」
俺は最初のページから読み始めた。
内容は恋愛小説で、病で余命宣告を受けたヒロインの物語。何かと『花言葉』が重要になる物語だった。
出来もなかなか良いのだが……
「結局、十二月病ってなんだったんだ?」
家に帰り、十二月病について考えていた。
結局、この本には書かれていなかった。彼女は、この小説で俺に何を伝えたかったのか全くわからなかった。
「まぁ、明日聞いてみればいいか。」
俺は、また明日も会えると思い、そのまま寝てしまった。
しかし彼女は次の日も、その次の日も学校に来なかった。
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