第4話 花火

月曜日、俺と佐伯さんは学校の図書館にいた。俺は彼女に本を 返して、タイトルの意味を聞いてみることにした。


「なんで十二月病ってタイトルを?」


俺がそのタイトルを口にすると、彼女はとても驚いた顔をしていた。


「え……もしかして中、見ちゃいました?」

「あ、いやタイトルだけだから……。」

「そうですか……。」


……もしかして俺、まずいこと聞いちゃった?

俺は急いで話を逸らそうとしたが、それよりも早く、彼女が話し出した。


「すいません。それはまだ話せません……。でも、いつか絶対に話します。」


そう宣言した彼女の目は真っ直ぐで、とても綺麗な目をしていた。


「そうか。楽しみにしてるよ。」

「あ! それと、次のネタ集めなんですけど、次回は二月決行にしましょう!」


唐突に決められた第二回の決行。まぁなんやかんや言って、彼女と小説の話をするのは楽しい。自分の好きなことを夢中で話す彼女はとても輝いている。


「あぁ、了解だ。」


それから、俺たちは二月、三月と月日が経って、三年生になった。

しかし、俺たちの生活は変わらなかった。いつものように話をして、勉強をした。そして、彼女の小説のネタ集めは毎月の恒例行事のようになっていた。


「あの、次のネタ集めなんですけど……」


今俺たちは、夏休みの予定で盛り上がっていた。と言っても、小説関連のことなんだが……。


「次回は花火なんてどうですか?」

「花火か。良いんじゃないか?」


正直、俺も夏休みに浮かれていた。もはや俺の中に十二月病なんて言葉はなかった。


「楽しみだね。」

「そうだな。」


それからすぐに夏休みがきた。

俺は、家にいる間は勉強をして、たまに彼女と本を買いに行くことぐらいだった。

元々、俺も彼女も本が好きなので、とても楽しかった。そして今日は花火の日だ。俺は、メールで伝えられた時間より少し早めに着いた。


「……少し早かったか。」


まだ集合時間まで15分ほどある。俺は、同じく花火を楽しみにしている人たちを見送りながら彼女が来るのを待った。

それから、しばらくして彼女が来た。浴衣の袖を揺らしながら走ってきた。


「おい、走ったらこけるぞ!」

「すみません、遅れました……。」


彼女は息を切らしながら俺に謝った。

いやまぁ遅れてないから全然構わないのに……。


「遅れてないぞ。それより足は大丈夫なのか?」


下駄で走ると足が擦れて怪我をするとかよく聞くが……。

まぁ大丈夫そうだな。


「早く行きましょう!」

「ちょちょ!」


俺は彼女に引っ張られながら芝生広場に座った。

周りを見渡すと、彼女と同じように浴衣を着ている人や、家族連れの人もいた。


「もうすぐ始まりますね。」

「そうだな。花火なんて久しぶりだよ。」


小さい頃は、よく手持ち花火をしていたが、いつからか全くしなくなったな……。


「一緒に来れてよかったです……。」

「え?」


……まただ。彼女が時折見せる顔。普段絶対に見せない顔だが最近はよくみるようになった。

何故かはわからない。俺はその顔を見る度に心が痛む。


「あ、いえ……。気にしないでください。」

「佐伯さん、君は……」


俺が聞き出そうとすると同時に花火が始まった。それは、俺の声をかき消すように音を出し、周りの歓声は、花火を盛り上げるように声を騒ぎ立てた。


「見て下さい! すっごく綺麗ですね!」

「あぁ、そうだな。」


今でなくとも、聞ける機会はあるだろう。


「ほら、写真撮りましょ!」


今は、もう少しだけこのままで。

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