第3話 ネタ探し
土曜日の午後、他の生徒が部活動などで青春を過ごしている中、俺は駅前で人を待っていた。駅前ではお昼ということがあり、飲食店に入っていく人たちが多くいる。
「おーい!」
声の方を見てみると、佐伯さんが手を振りながらこちら向かってきていた。
彼女は大きな一眼レフを首からかけていて、小説家というよりかは、写真家の方が似合っている気がする。
「どうしたの、そのカメラ。」
「どうですか? このために買ってもらったんですよ。」
そう言って、ぶら下げているカメラを大事そうに抱えていた。
そんな彼女の顔は、少し寂しげに見えた。
「どうかしたか?」
「いえ! なんでもないです。ほら! 早く行きましょう!」
俺は、彼女に急かされて彼女の後を続いた。
一体どこに連れて行かれるんだろう……。
「そうえば、俺は何をすれば良いんだ?」
俺は今日、小説のネタ探しとしか聞いていない。
それだけなら、写真を撮るだけなら一人でもできるだろう。
「ねぇ佐伯さん、俺は今日何をすれば?」
「そういえば、言ってませんでしたね。大丈夫です、簡単なことですので。」
なんかそう言われると余計怪しく見えるのは俺だけなのだろうか。
俺が不安に胸をいっぱいにしていると、彼女はいきなりカメラを構えて俺を撮った。
「え、ちょ。」
俺がいきなりカメラを向けられて戸惑っていると、彼女は撮った写真を見ながらクスクスと笑っていた。その顔はまるで安堵したかのような顔だった。
「おい。撮るのは百歩譲って良いとして、笑うのはダメだろ。」
恐らくそのカメラのデータを見ると、変顔の俺が写ってることだろうよ。
というか、俺の仕事これ?
「えっと……仕事の内容を説明すると、風景のイメージになってほしいんです。」
どうやら、俺を小説の中の登場人物に見立てて写真を撮りたいらしく、俺はモデルのようにポーズを決めながら写真に写るらしい。
仕事としては簡単……なのか?
「あ! ここ良いですね! まずはここで撮りましょう!」
歩きながら説明を受けたり話している間に、気がついたら神社に来ていた。
この神社は、別に特段有名というわけではない。地元の人が辛うじて知っているくらいの知名度だ。
「では、お参りするみたいに手を合わせてください。」
「こうか?」
俺は言われるいがままにポーズを決めて写真を撮った。
今はまだ一月だが、人は全然いない。
「で、次はどこに行くんだ?」
俺がそう聞くと同時に彼女のお腹が鳴った。
「えっと……その……。」
「はぁ……とりあえず、休憩ついでに何か食べるか。」
俺たちは、近くの喫茶店に入り、少し休憩することにした。
席に案内され注文した食べ物を待っている間、彼女はどこか虚な目をしていた。
「どうかしたか?」
「あっ。いえ、なんでもないです。少しぼーっとしただけです。」
彼女がそういうのなら深掘りはしないが、最近は見ることが多くなった。
場の空気を変えるために俺が話を変えるための話題を探していたところ、彼女のスマホが鳴った。彼女はスマホの画面を見ると俺に断りを入れて席を離れた。
それからしばらくして、彼女が戻ってきた。
「すみません。急用が入ってしまったので、今日は解散にします。」
「そうか。じゃあまた学校でな。」
どうしたのかとか、誰からの電話なのかとか、気になることは山ほどあるが彼女の表情がそれを聞かないでくれと物語っていた。
「また、学校で。」
彼女は机に自分の分のお代を置いて急いでお店から出た。
「俺も帰るか……。」
俺は帰ろうと席を立ち上がると、彼女が座っていた席に一冊の本が落ちていた。
表紙を見ると、この前彼女に見せられた本と同じ『マイブックー2022の記録ー』だ。
「小説家が原稿忘れるってどうなの……。」
俺は本を拾い上げ中を見ようとしたが、彼女にバレたら面倒臭いと思い、タイトルだけ確認することにした。
「十二月病……。」
いかん。タイトルを見たら内容が気になって仕方がない。
俺が誘惑に負けて本を開こうとすると、スマホが鳴った。
どうやら電話の送り主は彼女のようだ。
「もしもし佐伯さん。どうしたの?」
俺は、あくまで小説のことは知らないふりをした。
「すみません。まだ喫茶店にいますか?」
「あぁ、これから帰ろうとしているけど、どうしたの?」
「あの、私が座っていた席に本が落ちていませんか?」
俺は今の状況に、若干罪悪感を抱きながら本を探すふりをした。
「これか。あったぞ。」
数秒経った後に、俺は発見の連絡を入れると彼女は喜ぶと同時に、絶対に中を見ないでくれと言われ、電話を切った。
「十二月病……ね。」
俺は会計を済まして店を出てからスマホで検索してみた。
「……恋人がいない人がクリスマス・イブに近づくにつれ精神的ストレスのこと……。」
一体どんな小説を書いているのか俄然興味が湧いてきたが、溢れる気持ちを抑えて俺は本をカバンの中に突っ込んだ。
「しかし、一体神社となんの関係があるんだ?」
考えてもわからないので、今度彼女に聞いてみよう。
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