第2マイブック

「おはようございます。」


教室に着き自分の席に座ると、彼女は本を一冊持ってこちらに歩いてきた。

彼女は『マイブックー2022年の記録ー』を持っていた。確かこの本はページが白紙で、日記を書いたりするものだ。

彼女の日記か何かだろうか。


「どうしたの、それ。」

「はい! 今日からこれに、小説を書いていこうと思うんです!」


彼女は本を大事そうに抱えながら、有り余る元気で応えた。

朝からここまで元気があるのは彼女だけだろうな。


「いいと思うけど、アイデアはあるの?」

「大丈夫です。しっかりと構想を考えてきましたので。」


彼女は、制服のポケットからネタ帳と書かれた手帳を取り出し、自慢げに見せた。

中を見ると、最初の三ページくらいまではしっかりと書かれているが、それから先は真っ白だ。これで本当に小説なんて書けるのか?


「まぁ、うん。それで、肝心の小説はどこまで書けたの?」


そう思い、彼女の持っている本を貰おうとすると、彼女はその本を自分の後ろに隠した。俺が驚いて彼女の顔を見ると、少し顔が赤らめている。


「まだダメです! もう少し書いてから、お見せします。」

「そ……そうか。」


彼女は本を自分のカバンにしまってしまった。

見られて恥ずかしいのって、小説家としてどうなの、とは思ったが、顔見知りに見せるのは恥ずかしいのだろうと思うことにした。


「こほん。それで、ですね。」


本をカバンにしまった彼女は、改めて俺の前に立った。

俺としては勉強をしたいのだが、現実はそう上手くは運ばないだろう。


「もし、よろしければ、そのネタ帳の続きを一緒に書いてくれませんか?」

「ネタ帳の続き? 小説はもう書き始めてるんだよね。」


それに、最初な三ページしか書かれてないといっても、割としっかり書き込まれて、小説のアイデアには十分なくらいだ。それなのに、まだ書くことなんてあるのだろうか。


「忙しいですか?」


彼女は餌をねだる猫のような顔で俺に問いかけてきた。

別に忙しいわけじゃないが、もうすぐ受験生が始まる。遊んでばかりじゃいられない。彼女は大丈夫なのだろうか。


「佐伯さん、勉強の方は大丈夫なの? もうすぐ受験生だし、テストで点数を取らないと留年しちゃうかもだよ。」


小説家になるのは勝手だが、卒業できないと意味がない。

彼女とは二年生で初めて同じクラスになったので、彼女のテストの点数を知らないが、今までを見ると、ヤバいと思うのだが……。


「私ですか? 学年の順位は八位なので大丈夫ですよ。」

「え。」


佐伯さん、意外に勉強できたのね。しかも俺よりも順位が高い。

ちなみに、俺の順位は九位だ。まさか負けてるなんて思いもしなかった。


「さ! 勉学の方は心配なさそうですね。それでは、早速明日からネタ探しに行きましょう!」

「分かったよ。そこまで言うなら一緒に探すよ。」


俺は、彼女の熱に押され承諾してしまった。

まぁ、明日は土曜日だし、一日くらい大丈夫だろう。


「それでは、明日の十二時に駅前集合でいいですか?」

「ああ、分かった。」

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