十二月病
楠 楓
第1話 小説家になりたい女の子。
「私、小説家になりたいんですよね。」
ある日の放課後、学校の図書館で静かに勉強するという学生として至極真っ当な活動をしている中、佐伯 文音は、図書館だというのに本も読まずに話しかけてきた。
「小説家になるにはどうしたらいいんですかね。やっぱり、SNSに投稿してみるとかですかね。」
俺が佐伯さんと話すようになったのは、些細なきっかけだった。クラスで席が隣になった時、偶然、読んでいる小説の作者が同じだと分かってから、ずっと俺に構うようになった。
「どういう小説を書けばいいんでしょうか。やっぱり、寝取られ系でしょうか。どう思いますか?」
俺と佐伯さんは仲が良いわけじゃない。彼女が俺を気に入ったのか、ずっと話しかけてくるだけだ。
俺は、周りの視線を気にしながら答えた。
「知らないよそんなの。俺だって小説を書いたことがあるわけじゃないし。」
俺が無理だという意志を伝えても、彼女はめげることなく、意気揚々と俺に小説の構想を語り続けた。
「……なんですけど……って聞いてます?」
「あぁすまない。一割くらい聞いていたよ。」
「それ! ほとんど聞いてないですよね!」
バレたか……佐伯さん相手にならバレないと思ったんだけどな……。
佐伯さんは、怒ったと言わんばかりに頬っぺを膨らました。
「それよりも、佐伯さん勉強はいいの? そろそろ受験生始まるよ?」
今俺たちは、高校二年の一月。俺は第一志望の大学に行くために勉強している最中だ。
「私は小説家として生きていくから勉強はいいんです!」
俺は、別に小説家が不可能だと言ってるわけじゃない。でも、それ一本で食っていける人間はひと握りだ。
「でも、今いいアイデアが浮かばないんでしょ?」
「そうなんです。何かいいアイデアありませんか?」
そう聞かれ、問題を解いている手が少し止まって、また動き出した。
アイデアを急に出せなんて言われても、そんなに簡単に出るものじゃないと思うのだが……。
「そうだな、正月とかでいいんじゃないか?」
「それ、適当に言ってませんか?」
一月だからという安直な考えじゃ佐伯さんは納得してくれないか。悪くないと思うのだが。
「あ、私用事があるから今日は帰るね。」
彼女は事情があると言って、そのまま帰ってしまった。
俺も勉強を終えて帰ろうと荷物をまとめていると、ふとさっきのやり取りを思い出した。
「小説のアイデア……な。」
俺は家までの帰り道、ずっと考えていた。
過去にも、同じようなことを考えていた事があった。あの時の俺も、今の彼女みたいに小説家になりたいと思っていた。でも、俺は現実にうち負けてしまった。俺は寝る間までも、ずっと考え込んでいた。
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