廊下

 次の部屋へ向かうため、廊下を進む。


 集団での移動を想定してか、あるいは軽い堀のつもりなのか、廊下の道幅は広く、内の部屋と外壁とを隔てるようにぐるりと巡っていた。


 パッと見ると果てまで真っ直ぐに思えるが、実際は細かな物陰や遮蔽物があったりと見晴らしは良くない。


 看守も巡回しているもののその人数も頻度も多くはなかった。


 だからか、こんな場所でも情報収集は行われていた。


 たむろって交換しているもの、前行くものを付け回すもの、角で行われている暴力は聴きだすためか、あるいはただ肩が触れ合っただけか、ここはここで騒がしかった。


 それでも所詮は廊下、二人並んで立ち止まるだけで手狭になるし、近く部屋の中から盗み聞くこともできる。ここで本格的に活動するものは大した脅威にはならないだろう。


 思案しながら角を曲がるとべちょり、液体を踏んだ。


 血。


 出血。


 その主は死んでいた。


 猿に似た顔の男、頭をかち割られて、殺されているのは明白だった。


 別段、今更死体如きで騒ぐこともないがしかし、面倒なことにはなった。


 収容所での暴力は独房行き、そうなれば終わり、急いでここから離れようと思った矢先に看守が、反対側から現れる。


 独房、思わず身構えるも看守はただため息を吐いてから笛を吹き、仲間の看守を呼び集めた。


 そして何やら相談、というよりか雑談をしながら早々に死体をどこかへ運んでいった。


 つまりはそういうこと、ここでは今更、捕虜など今更死んだところで誰も騒がず、犯人探しもしない。どうせすぐにまとめてギロチンに送られるからだ。


 それでも現行犯ならば無事では済まない。


 一つ学んで先へと進む。


 ……流石に人が死ぬと、看守の人数は倍に増えるようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る