第48話「物理僧侶誕生と終了」
「お兄ちゃん! この格好どうですか?」
フォーレは今、僧侶の装備に身を包んで俺に見せつけている。正直似合うと思うのだが、問題はそんなところではない。
「お前、魔力→力変換を使う気か?」
最近僧侶のジョブに実装されたスキル、それはシンプルな効果で魔力を消費して力を上げるというスキルだ。それ自体は単純なのだが、ステータスの魔力を無制限に力に変換出来る。このことから僧侶に転職して殴るのが最近流行っている。ご丁寧にもヒーラーを僧侶が雇って戦うというシュールな光景を見ることが増えてきた。
「あのスキルかなりバランスが崩れるから下方修正される気がするぞ?」
「お兄ちゃんは上手く行く前から気落ちするようなことを言わないでくださいよ! 私はちょっくら雪原でイエティを殴ってくるのでポータルを開いてください!」
「はいはい、わかったよ」
俺はギルマス権限で雪原へのポータルを開く。帰還アイテムは持っているのだろうし、精々短い壊れスキルを楽しんできてくれ。
「じゃあお兄ちゃん! 行ってきます!」
ポータルにフォーレの姿が消えて少ししてギルドハウスにメアリーが入ってきた。
「よう、クエストは順調か?」
「なんとかですね。ギルマスは今日一人なんですか?」
「ああ、フォーレのことか? アイツなら早速僧侶の新スキルを試しに雪原に行ったよ」
「え、新しいスキルが出たんですか?」
「そうだ、魔力を力に変換するスキルだ。コレのおかげで素手でも結構な火力が出るらしい」
「へー……武闘派の僧侶になれるんですね」
「平たく言えばそうなる。相変わらず運営は何も考えず実装したんだろうな」
「ギルマスって運営を信用してませんよね? なんでですか?」
「基本的にガバガバな運営をしているからだよ。メアリーだって詫び石を毎月十連出来るくらい貰ってるだろ?」
「確かにタダでガチャが結構引けますね」
「つまりはそういうことだ。それだけ実装ミスが多いんだよ。テストプレイしているかどうかも怪しいってもっぱらの噂になんだよ」
しょっちゅう詫び石を配ることには定評のある運営。ネット上の評判では『基本無料にしろ』と『ガチャ自体やめてしまえ』に意見が二分されている。
サブスクリプションシステムにガチャを載せたのはマズかったんではないかなと思うのだが、やってしまった物はしょうがない、せめて平穏な運営をして欲しいものだが結構なガバをするので手に負えない。
「ギルマスの考えだと新スキルも修正されると思っているんですか?」
メアリーが俺の懸案を尋ねてくる。
「十中八九されるだろうな。僧侶がスキルを使っているあいだ前衛になれるなんて無茶なスキルが存在を許されるはずがない」
「役割が破綻しますもんね……」
「『ロールプレイング』ゲームだからな、役を演じるのが醍醐味なのに万能キャラが出たら役もクソも無く全員そのジョブに就くだろ」
「しかし、僧侶が殴るんですか……僧侶になる意味があるんですかね? 戦士でいいような気がしますが……」
「僧侶は魔力が高いから力に変換すると戦士以上の力になるらしい。役割の破綻ってヤツだよ」
「世知辛いですねぇ……」
「ま、それは置いておいてメアリーも一杯飲むか? 俺は時間に余裕があるからビールを飲もうかと思ってるんだが、奢るぞ?」
「ではご馳走になりましょうか、ありがとうございます」
「じゃあほいほいっと」
ウインドウを呼んで課金を押す。課金誘導は完璧でビールが表示された。俺は六缶パックを選んで課金する。すぐにビールがドンと置かれた。
「じゃあメアリー、仮想アルコールは有効にしてあるか?」
「この前マクスウェルさんと飲んだときに有効にしたままのはずです」
「じゃあほら、飲もうぜ」
「あ、どうも」
「かんぱーい!」
二人でビールを飲み終わったので俺はしばしとりとめのない話をしてからログアウトした。後日、当然の如く力へ変換出来る魔力に上限がつけられてあっという間にゴミスキルと化したのだった。ただしフォーレも僧侶のレベルが上がったことと詫び石はしっかり配られたことで文句を言ってはいなかった。
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