第46話「ギルド対抗スコアアタック」

 その日はフォーレが意気も高らかに宣言をした。


「ギルド対抗スコアアタックに挑戦します!」


 参加費はギルド持ちだ。しかしこの件に俺の意志は考慮されなかった。


「アレでしょ? 確か今回はホーンラビットの討伐競争、勝ちの目はあるの?」


 マクスウェルは入賞が現実的でないことを婉曲に言う。


「任せてください! 私はカフェイン錠剤のストックは十分です!」


「俺もインスタントコーヒーを一瓶買っといた」


 かなり不健康ではあるが幸いスコアアタックは休日に行われる。その日徹夜でカフェインを飲みまくっても問題無いような日付だ。


「二人共ねぇ……そんなことをしていると死ぬわよ? デスマでそれやって体を壊した人を何人も見ているわよ?」


「そのへんはまあ……若さでカバーですかね……」


「はぁ……フォーレちゃんが言い出したんなら聞かないだろうし、ギルマス一人に詰め腹を切らせるのもね……私もできる範囲で参加したげるわ」


「よし! マクスちゃんは参加決定ね!」


「俺も参加するぞ、たまにはグダグダ喋ってるだけじゃなく戦いたいしな」


 ありがたい申し出をファラデーがしてくれる。


「私も……出来る範囲なら……」


「メアリーちゃんも協力してくれるのね!」


「私はギルドの会計をしておきますのでギルマスを存分に使ってください」


「ヴィルトちゃんは不参加かぁ……」


「私かギルマスがやらなきゃならないことですよ」


 ギルドの事務処理はヴィルトに任せられるようだ。合間にやろうとしていたので全部任せられるのは非情にありがたい。


「フィールズの奴は参加しないのか?」


「アイツはリアルが忙しいそうだ」


 ファラデーがフィールズの事情について答える。サボっていたツケを支払わされているらしい。


「じゃあこのメンバーで明日集合ね! エイエイオー!」


「おー……」


 こうしてホーンラビット討伐競争への参加は承認された。


 翌日――


「多いとは思ってたがここまでか……」


 狩り場には一面に人が並んでいた。ポップするホーンラビットを出現した瞬間にプチプチと潰されていく。ローテーションを組んで狩っているグループがほとんどだ。


「ちっ……皆さん準備は万端というわけですか……私たちも突っ込みますよ!」


「ちょ!? 作戦は?」


「サーチアンドデストロイ! 以上!」


 作戦でもなんでもない指令を出して俺たちは散開した。運良くポップするのを見つけた瞬間に待ち構えている連中より早く狩る。ひたすらにそれを繰り返すしかなかった。


 数時間プレイしたところで遠くに見えるフォーレに離席アイコンがついてすぐに戻ってきた。おそらく無水カフェインを摂取したのだろう。アイツは今日を楽しみに眠れなかったと言っていたからな、無理もない。


 俺の方もそれから数時間で頭がぼんやりしてきたので離席アイコンをつけてキッチンでインスタントコーヒーを特盛りカップに入れてお湯を注いだ。苦いだけの液体を飲んで戦線に復帰した。


 そこで直通チャットが入った。


「ごめんなさい~私は寝ますね~」


 メアリーログアウト。マクスウェルの方はまだがんばるらしい。俺は無理をするなよとボイスを送ったのだが『デスマに比べたらこのくらい楽勝よ』と返されてしまった。


 そして夜明けが来て、日曜日の朝になったところで大会は終了した。夜まで続けると参加者の健康に悪いと配慮してのことだ。初期の頃は二十四時間ぶっ続けでやっていたらしいが、今では平和になったものだ。


 そしてギルドハウスにて。


「参加賞でしたね……」


「そんなものでしょ」


「参加賞はもらえる程度にがんばったんだよなぁ……」


「俺がもうちょいがんばってればよかったかな」


「ファラデーはよくやったでしょ、あれだけ人がいたら無理よ、無理」


 マクスウェルの意見には同意だった。勝てないものは勝てない、大規模ギルドがローテを組んで数の暴力を発起している中で下位であっても参加賞がもらえるなら善戦した方だ。


「じゃあ解散ね、私もいい加減眠いし寝るわ」


「そうだな、明日に響くとマズいしそろそろ寝るか」


「賛成」


「根性がないですねぇ……」


「フォーレ、明日地獄を見たくなかったらおとなしく寝た方がいいぞ」


 俺の言葉に黙ってログアウトしていった。やはり眠かったのだろう。


「メアリーちゃんの参加賞はテーブルに置いておけば気づくわよね」


「分かるだろ。貴重品でもないしな」


「じゃあかいさーん」


「またね!」


 こうしてスコアアタックは終わりを告げた。参加賞がもらえただけでも俺としては成長があったほうだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る