第30話「アルコールの誤配布」
いつものノンリアルファンタジーオンライン、その中にログインしたときに妹からチャットが入った。
「お兄ちゃん、プレゼントボックスを見てもらえますか?」
「何かくれたのか?」
俺はウインドウを開いてプレゼントのタブを選択する。そこには『仮想ビール一二本』という表示があった。コメント欄には『デバッグ用アイテム』と書かれていた。
「お兄ちゃん、来てましたか?」
「ああ、来てる」
それだけで十分だった。運営の人がやらかしたようだ。明らかにコメントからしてメンテナンス用のテストアイテムを本番環境に加えてしまっている。
「使ったらBANとかありますかね?」
これは難しい……垢デリの確率は限りなく低いが、課金アイテムなのであとから取り立てられる可能性は無くもない。おそらくBANは無いだろう。運営にコメント欄を見ずに使ったと言い張ればそれ以上の追求は無いだろう。
「大丈夫だと思うぞ。手をつけない方が無難だとは思うけどな」
「よし! お兄ちゃん! 今日は一緒に飲みましょう!」
ギルドの処理は全て終わっている。ギルドクエストは優秀な皆のおかげで俺がしなければならないことはもう無い。
「そうだな、こういう機会でも無いと飲まないしたまには飲むか」
「やった! ギルドハウスへポータル開きますね!」
言うが早いかハウスの中に光が出てきてそこからフォーレが出てきた。
「お兄ちゃん! 飲みましょう!」
「分かったよ、仮想アルコールを有効にするからちょっと待ってくれ」
俺は設定ウインドウを開いて精神に干渉するデータ欄から仮想アルコールを『中』に設定する。これでそこそこ酔えるはずだ。俺は吐くほど飲んだことは無いのでどの程度なのかは知らないが、安全が売りの仮想アルコールでゲロを吐くようなほど酩酊することは無いだろう。
「お兄ちゃん、準備出来ましたか?」
「ああ、有効化完了だ」
「では今日は私の奢りで!」
「運営の奢りじゃねえか!」
「細かいことはいいんですよ!」
ドサリとビールが一箱空間に出現した。課金アイテムを全員に配布と流行ってしまったな、少し運営が気の毒だ。
「よし! ちゃんと冷えてますね!」
「データなんだから冷えてるに決まってるだろ」
「お兄ちゃんは飲まないから分かんないでしょうけど、この冷気が心地いいんじゃないですか! 分かってないですねえ……」
未成年でも飲めると評判になった仮想アルコールだが、こういう中毒者みたいなものをしっかり出していることからして、体に悪くないにしても規制が必要なのではないかと思う。
「乾杯!」
「乾杯」
俺は少しずつビールを缶から飲んでいく。ちびちびとデータが脳に送られていき中枢神経が麻痺していく感覚がある。
「プハァ! やっぱいいですね!」
妹の方はマッハで飲み干していた。仮想アル中という言葉が脳内に浮かんで消えた。
「お兄ちゃん……すきれすよ……」
酔いが回ったらしく早速正気を失っている。コイツは長生き出来ないんではないだろうかと不穏なことを考えてしまう。
妹の寝言を話半分に聞きながら、俺も一缶を少しずつ空けた。その日のビールはなんだか美味しかったような気がする。
翌日、ビールの誤配布をお詫びに未使用の人からビールを回収してガチャ石を配ることになった。妹はその知らせを見てどちらがよかったのだろうかと苦悩していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます