第28話「装備品の限凸」
「お兄ちゃん、素材のオリハルコンって持ってないですか?」
妹からゲーム内でそんな直通チャットが入った。ねだるにしたってもう少し可愛げのあるものがあるだろうと思うのだが、俺は正直に返答しておいた。
「この前武器の限凸に使ったからもう無い」
このゲーム、武器の限凸素材が非常に渋い。ガチャで被らせるのが一番手っ取り早いという課金形態だ。これについては批判も多いのだが、儲かるからだろう。運営が入手難度を下げるつもりはまるで無いようだ。
「あーあ……せっかくこの前虎徹を手に入れたのになー……」
そう独りごちる妹の言葉を聞き逃さなかったのはマクスウェルだ。
「フォーレちゃん、虎徹持ってるの?」
「そうですよー……この前ガチャで出ましてね……限凸しないと使えたものじゃないんで倉庫に入れてるんですけどね……」
このゲーム、強力な武器でも四凸はしないとその辺の店売り武器の高額品と同程度の性能しかない。四凸以降は指数的に能力が上昇していき、強力になっていくのだが、そこまでの道のりは非常に遠大だ。
「もったいないわね……初回の凸はオリハルコン一個でしょう? そのくらいはしておいてもいいんじゃない?」
「先月手に入れた武器を限凸させたので余ってないんですよぅ……持ってたらそりゃあ使いますって」
「運がよすぎるのも考え物ね……運営はオリハルコンの入手難度下げる気は無いみたいだし、しばらく倉庫入りみたいね」
「うぅ……せっかくピックアップを引けたのに……」
やれやれ……しょうがないな。俺も何か保証があるわけでもないが試しにやってやるか。
「フォーレ、俺はガチャチケットを五枚ほど持ってるからガチャで出たらやるよ」
「ホントですか!?」
「ああ、最高レアが被るっていう絶望的な確率をくぐったらの話だがな」
俺は基本的に、そう都合よくオリハルコンが手に入るとは思っていない。しかしガチャチケットを死蔵していてもしょうがないので、いい機会だから使ってしまおう。
「ギルマスはフォーレに甘いわねぇ……」
「色々事情があるんだよ……」
「まあ二人はこのギルドの初期メンバーだし、何か事情があるんでしょ? 深くは聞かないけど贔屓も程々にしておいた方がいいわよ」
「忠告どうも、ギルマスとして甘やかしてるんじゃなく知り合いとして甘やかしてるだけだよ。少なくともフォーレにギルドの共有財産を使ったことはない」
そこだけは俺の誠意みたいなものだ。ギルドは皆のものであり特定の誰かに肩入れしない。それは決まりとしてはっきりさせている。いくら妹だからといって、リアルで課金用のプリカを渡すことはあっても、ギルド倉庫から消費アイテムを使わせることはない。それだけは断言出来る。
「ギルマスが微妙にお堅いのは知ってるわよ、ただ単に二人の関係が気になるだけって話」
まさか兄妹というわけにもいかないので無言でガチャ広場へのポータルを開く。
「さて、当たるも八卦当たらぬも八卦、本日の運試しといくかな」
「おー!」
「私もギルマスの爆死姿を見物に行くわよ」
マクスウェルは意地の悪い笑みを浮かべた。人のガチャほど安全圏から見ていて楽しいものは無い。精々エンタメとして俺は道化を演じるとしよう。
三人でガチャ広場へ飛ぶと俺は迷うことなく常設ガチャへと向かった。
「あれ? 常設を引くんですか? 期間限定もありますけど?」
「期間限定は被る確率が低いんだよ。俺は今回のピックアップは持ってないしな。常設の最高レアは結構持ってるから、オリハルコン目当てならこっちの方が確率が高いんだ」
「ギルマスはもう少し自分をかわいがってあげた方がいいと思うわよ? ギルメンに尽くしすぎでしょ」
呆れ顔のマクスウェルを尻目に俺はガチャチケットをマシンに差し込んだ。十連のように最低保証が無い分分が悪い勝負と言える。もっとも、フォーレも五回回しただけで最高レアが運良く被りで出るなどと、都合よく思ってはいないだろうし茶番ではある。
ピカーン
「お、レア演出じゃん」
「ギルマスって変なところで運がいいわね……」
とはいえ、昇格はレアまででありSSRまで昇格することはなく、出てきたのは『ブロードソード+』だった。
「まあ現実はこんなものでしょうね」
「マクスちゃん冷たいよ! 私の限凸がかかってるんだよ?」
「いや、自分のチケットで回すならともかく人に回させるのを応援はしないわよ」
二回目を回したが、今度は昇格演出すらなくノーマルのアクセサリが排出された。こんなものであると分かっていても闇鍋ガチャには文句の一つもいいたくなってしまう。装備とアバターが同じガチャで輩出されるのは如何なものかと思わざるをえない。
三回目、今回もノーマルが普通に排出された。一応武器だったので被りとして鉄鉱石に変換された。オリハルコンが出る確率はとてつもなく薄いなと俺は希望を失いそうだった。
四回目、昇格演出がはいった。金色に光りSR異常は確定したものの排出されたのは美少女アバターだった。需要こそあるものの今回欲しいものでは断じてない。
「うぅ……あと一回……」
「あなたのチケットで回してるんじゃないんだから、あなたが緊張する必要は欠片もないでしょうが……」
呆れ顔のマクスウェルを差し置いて俺は最後のガチャチケットを機械に挿入した。途端に機械がガタガタ揺れ虹色に光り出した。最高レアの演出だ。
「ギルマス、あなた持ってるわね」
「コレは来ますかね!」
ガコンと排出されたのはもうすでに持っている装備、すなわち被りであり、排出口に出てきたそれは形を変えて鉱石になった。
「オリハルコンです!」
「まさか最後の最後で引くとはね……」
「ほら、これで一回限凸出来るだろ?」
「ありがとうございます!」
フォーレは一人さっさと出て行きおそらくは鍛冶屋に向かったのだろう。残された俺とマクスウェルは現金な俺の妹を見送ってからハウスに帰り、なんとなくだがフォーレだけに贔屓するのも気が引けたので、ウインドウを出し、マクスウェルの前に一本ビールを出した。
「気が利くわね? 奢り?」
「ああ、フォーレに付き合ってくれてるお礼だ」
「そういうことなら遠慮なく」
プシュと開けて一気に飲み干すマクスウェル。『染みるわー!』などといいながら酔い潰れてしまう。俺はそっとタオルをマクスウェルにかけてから現実世界へとログアウトしたのだった。
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