第27話「イベント、討伐耐久戦」

「メアリー、あのイベント参加するか?」


「するわけないじゃないですか! 正気の沙汰じゃないですよ」


「ファラデーは?」


「俺も無理、年食うと徹夜はキツいんだわ」


 ヴィルトは繁忙期という話で二三日ログイン出来ないと聞いているのでマクスウェルとフォーレが現在ログインしているメンバーだが……


「二人は参加するのか?」


「とーぜんでしょう!」


「私も参加するわ、報酬は結構美味しいし。上位陣にはガチャ石配布もありがたいしね」


 話は本日ログインしたときに出てきた運営からの通知に始まる。


『二十四時間耐久討伐戦開催! 土曜正午から日曜正午まで討伐数を競う耐久戦を行います! 豪華報酬もありますので是非奮ってご参加ください!』


「なんだこれ?」


「さあ? 土日にイベントをやるみたいですね」


「やっと参加しそうなのがログインしてきたわね、フィールズってば日曜は寝たいなんていうんだから……」


 ぶつくさ言っているのはマクスウェル、どうやらこのイベントに参加する予定らしい。


「なあ、このイベントに参加するのか?」


「私はね、他の皆は不参加だって、あとはギルマスとフォーレちゃんが参加するかどうかだけなんだけどどうするの?」


 こうして妹は徹夜での耐久討伐戦に参加することになった。マクスウェル曰く、子のイベントには廃人達がこぞって参加するらしいので、とてもその人達の相手を出来ない俺は不参加となった。しかしフォーレは当然のように参加を決めて、ウインドウを開きその場で参加申請をした。


「じゃあフォーレ、今回の大会はライバルね!」


「マクスちゃんには負けませんよ! 私には若さという武器がありますからね! 徹夜イベント上等ですよ!」


「まるで私は若くないとでも言いたげね……まあいいわ、私も負ける気は無いからね」


 バチバチと火花を散らす二人だが、俺としては妹が土日引きこもることが確定した瞬間でもあった。お世話は俺の仕事になりそうだな……


「じゃあ私は明日に備えてお昼まで寝てきますね!」


 そう言ってフォーレはさっさとログアウトした。さっきログインしたばかりだというのに忙しいやつだ。


「マクスウェルは寝ておかなくていいのか? 耐久討伐戦だろ?」


 そう問いかけるとマクスウェルはニヤリと笑った。


「ふっ……月に一度は二徹がある現場に放り込まれてたのは伊達じゃ無いわよ! 一晩くらい余裕よ!」


 それはブラック企業なのではないだろうかといいたくなったが、土日休めるようなのでヤバい企業では無いのだろう。働いているという本人の談を信じればの話であるが。


 俺はその日、ギルドの諸雑務をこなしたあとでログアウトした。俺が参加しないといっても、妹が参加するなら俺もそれに協力せざるをえない。徹夜とはいかなくてもそれなりにハードなスケジュールになりそうな予感を抱えたまま金曜の夜を過ごした。


 翌日、起きた頃にはもうすでに妹は起きており、ゲームにログイン済みだった。俺もそれについていくためログインをした。


「今日は二人だけか……」


 ギルドにいるメンバーはフォーレとマクスウェルの二人だけだった。


「今回の大会はハードですしね、参加出来る人ばかりログインしているんでしょう」


「フォーレちゃん、負けないからね!」


「私だって負けませんよ!」


 そうして規定時間になり討伐レースが始まった。今回の大会のルールは至ってシンプル、規定時間内に倒したモンスターの数が多い方が上位となっている。弱いモンスターだろうがボスだろうが同じく一体とカウントする。しかし雑魚を大量に狩ろうにも、雑魚のポップする狩り場には大量の参加者が集まっており、ポップした瞬間に攻撃が飛ぶような環境なので、単純に雑魚を大量に狩ればいいという環境ではないように調整がされていた。


「私は火山に行くわ、フォーレちゃんは?」


「私は砂漠ですかね、あそこは競争率低そうですし」


「じゃあお別れね、大会が終わったら会いましょう」


 こうして俺とフォーレ、マクスウェルは別の場所へとポータルを開いてジャンプした。


「砂漠かぁ……熱くはないけど不快感があるのはなんでだろうな?」


 砂漠のど真ん中で俺がフォーレに聞く。


「リアリティの追求ってやつじゃないですかね? あとは体が錯覚しているとか」


 このエリアではHPが自然回復しない、回復薬を飲みながらの戦闘になる。


「じゃあお兄ちゃん、ログアウトしてください」


「いきなり戦力外通告!?」


「いえ、この大会は個人戦ですしお兄ちゃんにはリアルの方の私の面倒を見るという使命があるのでそっちに集中してもらおうかと」


「分かったよ……ただし限界が来そうならさっさと一時ログアウトしろよ?」


「ええ、あとスポドリを冷蔵庫で冷やしているので持ってきておいてください、耐久戦なら必要でしょうし」


「準備のいいことで……」


 こうして俺と妹の耐久戦は幕を開けた。空いた瞬間にログアウトさせられた俺としては何も出来ることがないのでスポドリを持ってきて部屋でヘッドセットをつけている妹の隣で本を読んでいた。時折トイレにログアウトしていってきてはスポドリで水分を補給して再びログインしていった。コイツはリンゲル液の点滴があったら喜んで飛びつきそうだなと心配になってしまう。


 驚くべき事に本当に一切眠ることなく夜を過ごしていた。俺に数杯コーヒーを淹れさせて、それを一気飲みしてログインし直すようなことはあったものの、二十四時間休むことなくログインを続けたのだった。そして日曜の正午になったので俺は部屋に戻り結果確認のためにログインをした。


 砂漠からギルドハウスへのポータルを開いて移動すると、大喜びしているフォーレと顔色を悪くしているマクスウェルがいた。


「やりました! 無料で十連分の石をゲットしました!」


 喜んでいるフォーレの方は置いておいて死にそうな顔をしているマクスウェルに話しかけた。


「大丈夫か?」


「大丈夫……じゃないかも……ゲーム内で徹夜するってスプレッドシートに延々スクショ貼るよりキツいわね……フォーレちゃん、私の負けね。そういうわけだから私は寝るわ、それじゃまた」


 そう言ってログアウトしていった。フォーレの方はウインドウを開いて自分のランクを見て楽しげにしている。俺も大概眠かったので徹夜テンションになっている妹をおいてログアウトした。


 そして大会は終了したのだが、フォーレが十連引いたところ、全てノーマルであり、レア枠の最低保証もないガチャチケットだったことから運営は炎上をして、大会参加者全員にガチャチケット十連分を配布したのだった。

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