第26話「マクスウェル、魔法のカードを全力で使う」
「マクスちゃん……その辺にした方がいいですよ……」
「マクスウェル、プリカで済ませているなら文句は言わんが……まさか禁断の支払い方法に手を出していないよな?」
禁断の魔法、『リボ払い』に手を出していないか心配になってくる。マクスウェルが社会人であると自称しているので
現在マクスウェルが手を出しているガチャは『フォトンソード実装記念ピックアップガチャ』だ。見た目がかっこいいという理由で大量の金を突っ込んでいる。天井はあるものの、現代の新卒社会人がもらう給与の半分くらいの金額となかなかにえげつない金額だ。
「ここまで来たら退けないのよ! 絶対に負けられない戦いがここにあるの!」
ガチャの負けが込んだやつの考え方だな……本当にいいのか? 俺だってこのゲームは好きだがそのために生活を持ち崩して欲しくはないぞ。
「私は運命の神に愛されているから絶対に引ける! この装備で私は最強に見えるようになるのよ!」
このゲーム、装備の効果は見た目が七割、性能が三割くらいだ。時々ぶっ壊れの武器を実装してナーフしているが、基本的に武器の比重よりもプレイヤーのスキルとレベルの方がダメージに影響する。
「マクスちゃん、借金生活だけはしないようにね?」
妹の言葉にマクスウェルの返答は……
「大丈夫、心配ないわ。資金が底をつく前に天井につくから」
それは大丈夫とは言わないんだよなぁ……実質出るまで引く宣言じゃねえか……お前本当にそれでいいのか?
幸いとしては限凸システムが採用されていないことだろう。月額課金で搾っているのにガチャであまり搾取するとユーザ離れをするかもしれないという判断だろう。運営の温情とも言えるがそもそもピックアップの確率が低い。
「あと三十連……天井……」
そこでガチャに課金ウインドウを開いてじゃぶじゃぶ課金していくマクスウェルを止める言葉は俺には思いつかなかった。
シャキーン!
「お! 確定演出じゃん!」
これは天井前に当たるかな?
「マクスちゃんやりましたね! これはピックアップが来ますよ!」
微妙にフラグのようなことを言い出す妹に不穏な感じを覚えながらマクスウェルの方を見ると、手を合わせて必死に祈っていた。そして出てきたアイテムは……
アバターだった。レアものであり需要も大いにあり皆さん垂涎の品なのだが今欲しいのはこれじゃない。
「なんというか……ドンマイ」
「うぅ……私が何をしたっていうのよ……チートもせずにガチャを引いてるだけじゃない!」
結局、天井までガチャを回すことになった。最高レアの演出は残酷にも天井まで出てくることはなかった。肩を落とすマクスウェルに肩を叩いて『運ってものは流れみたいなものがあるからな、この先はたぶん運気が上がっていくと思うぞ』と励ました。
天井まで回すと出てくる専用ガチャメダルを天井ガチャのマシンに入れて無表情で『フォトンソード』を手に入れていた。結局、マクスウェルの給与事情は知らないが、たぶんそれなりに生活に影響するであろう金額をかけてようやく目的のものを手に入れたのだった。
「なんなのよぅ……私が何か悪いことしたっていうの!」
俺と妹はマクスウェルにビールを奢っていた。あのままログアウトするにはあまりにも哀れすぎたので、俺のクレジット残高から少し課金してビールを一杯買ってマクスウェルに差し出した。
仮想アルコール機能を最大限有効にしているようでビール一杯ですっかり酔っぱらってしまった。しかし俺たちはその酔っぱらいに付き合うことを決め、夜まで延々と愚痴を聞いたのだった。
フォーレは途中でマクスウェルに絡まれていたが我慢してなだめていたあたりさすがに気の毒だと思ったのだろう。こうしてガチャは怖いものだと俺は改めて思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます