第25話「メアリー、通信容量が尽きる」

 ログインしてギルドハウスで処理をしていたところ新規ログインがあったのでメンバーがそちらを向いた。キラキラしたパーティクルが発生してログインしてくるはず……なのだが、なかなかログインエフェクトが消えずキャラもログインしてこない。


 いつも通りのメンバーがいつものアバターにしているのでここに居ないとなると、メアリーあたりがログインしようとしているのだろう。しかしアイツ、古のISDNでも使っているのだろうか? とっくにサービス終了した回線のはずだし、そもそも電話線がファイバーになって久しい現在においてこの速度の遅さは異常だ。そこでマクスウェルが一旦ログアウトすると言った。


「ちょっとメアリーちゃんがトラブってないかチャットで聞いてくるわ、簡単なトラブルシューティングなら出来るしね」


「ああ、じゃあマクスウェル、済まんがちょっと手助けしてやってきてくれ」


「はーい」


 そこへ妹からのチャットが入った。


「お兄ちゃん、まだキラキラ状態で止まってますよ。ログイン途中で回線障害でもあったんですかね?」


「それもあり得るな、あとはログイン途中でマシンがフリーズしたとかだな」


 ノンリアルファンタジーオンラインは基本的に重いゲームだ。親機の方に負担がかかるので多数のアプリケーションを開いた状態で起動しようとすると『リソースが足りません』と起動がリジェクトされることがある。その場合はログイン処理までいかないのでこうしてログイン中で止まるようなことはないはずなのだが……


「メアリーさんあんまり詳しくないみたいですし、何かトラブルが起きたのかもしれませんね」


「あり得るな。なんにせよマクスウェル待ちだな。さすがに文字チャットが出来ないほど固まっているわけでもないだろうし、そっちで症状聞いて解決ってところだろ」


「そうだと良いんですがねぇ……私の勘がなんだか面倒なことに巻き込まれていると告げているんですよねぇ」


「そう言うフラグを立てるのはやめてくれないかな? お前、自分の勘がそこそこ当たることは自覚していないのか?」


「言うてログイン途中まではいってるんですし、そこまで深刻になることはないんじゃないですか?」


「そうだと良いんだがなぁ……」


 そこへログアウトしていたマクスウェルが再びログインしてきた。俺たちにメアリーの状況を告げる。


「通信容量の上限にいったそうよ」


「は?」


「ふぇ?」


「メアリーちゃん曰く『テラがつきました~!!』と送られてきたわ」


 予想外の返答に俺もなんと言っていいのか分からない。


「アイツ、モバイル回線でこのゲームをやってたの?」


「家庭の事情で固定回線を切り替えるのにモバイルでもいけると思ってやったそうよ。昨日アプデがあったしね、上限にまで張り付いてテキストくらいしか通信出来ないそうね」


「回線切り替えかぁ……確かに固定回線が使えなくなると辛いな……」


 そこへ妹が割って入ってきた。


「マクスちゃん! 私、通信容量の詫びテラをまだ持ってますから分けてあげられませんかね?」


「クーポン? そういえばそこそこまえに配布されたわね。私の方に番号を送ってくれる? メアリーちゃんに使えるかどうか聞いてみるわ」


 妹はモバイル端末の画面を出しスクリーンショットを撮影してマクスウェルに送信していた。見えないようにプライベート通信を使っていたが、おそらくクーポンの画面だろう。


「じゃあちょっと見てくるわ」


 そう言ってマクスウェルは再びログアウトをした、それから十分くらいしてメアリーはマクスウェルと共にログインをしてきた。


「フォーレちゃん! ありがとね! うぅ……こんなにテラを消費するなんて思ってなかったよ……」


「このゲーム、結構重いですからね、ただ世の中にはもっと重いゲームが普通にころがっているあたりがホラーなんですけど……」


 多少のトラブルはあったものの、妹のため込んでいたクーポンでなんとか、メアリーの回線切り替え工事が完了するまでの通信容量は持たせることが出来そうだ。


 俺はその日、ログアウトしてからギルドへの貢献のお礼に少し高めのアイスをコンビニで買って『因幡へ』と付箋付で冷凍庫へ入れておいた。翌日、『ありがと』と書かれた付箋が部屋のドアに貼ってあったので円満にトラブルは解決したようだった。

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