第3話

 達弘に用意された取材は本格的なものだった。靖国から徒歩圏内にある立派なホテルに部屋を借りており、カメラマンまで用意しているとのこと。写真を撮影させて下さいとの申し出は断らなかった。

 彼にとってホテルは、進学塾の夏期講習に参加する際、宿泊場所として親が選んだのと、高校生のとき従兄の結婚式に出席したのと、合わせて二回利用したきりだ。良い思い出も悪い思い出もなく、到るところに金をかけているのが目についた程度だ。同じレベルの飲食店に通いつめるほど達弘の実家は裕福であり、特に気後れすることもなかった。


 目的のフロアに着き、鷹栖の案内で部屋に入った。そこはベッドルームとリビングに分かれた広い部屋で、豪華な花が置かれており、壁には抽象的な絵画が飾られている。


 鷹栖の紹介で達弘はカメラマンの名前を知った。【西野】という男だ。彼は口数が少ないのか、自己紹介の台詞をぶっきらぼうにつぶやくと、すぐに押し黙った。パッと見た感じ、年齢は自分よりだいぶ離れているように見えた。先に会った鷹栖も、社会人としての貫禄みたいなものが感じられ、サークルに顔を出す二十代の先輩より上か、ともすればもっと上に見える。


 達弘は椅子に腰を落ち着け、アイスティーを口にした。ルームサービスが来るのは迅速で、その速さがこのホテルの価値であるように思えた。対面の椅子に鷹栖が座り、西野という男は数歩離れた位置にカメラを構えて立つ。鷹栖はホテルの部屋に着いてからはせっかちな様子を見せず、ゆったりとした構えをとっている。

「ちょっと良いですか」と達弘はいい、グラスを置いて鷹栖を見た。

「どうしておれだったんですか。鷹栖さんが発行している『エコノミスト』をネットで調べましたが、保守というか右寄りの人たちが購読しているように見えました。おれは政治的な偏りがないうえに、経済の動向に関しては素人ですよ。大学も法学部ですし」


 達弘は事前に、鷹栖とメッセージのやり取りをしたが、特集記事の趣旨に合致したためインタビューを依頼をさせて貰ったという程度しか事情は伝えられていない。彼自身、そのことに不満を抱いていたわけでなく、当日聞けば良いと割り切っていて、それをいま尋ねたわけだ。


「次の特集が【富国強兵】なんですよ」と鷹栖はいう。

「テーマ上、各分野に散らばる愛国者の話を伺っていて、達弘さんは【本物の】愛国者を名乗ってましたし、普段の発言を見るかぎり自分の考えをしっかりお持ちで、なおかつ若かった。確か大学生でしたよね」


 鷹栖の話し振りだと、彼女は達弘の交流アプリにおける言動をある程度認知しているようだ。その真偽はともかく、どこまで見透かされているのかは気になる。

「さて、のんびりはじめますか」


 リラックスした様子の鷹栖はアイスコーヒーを軽く飲み、机の上にタブレット端末を置いた。そこに取材の段取りが書かれているのだろうか。


「先ほど達弘さんは、愛国は心の支えだった、ほかに楽しみがなかったと仰ってましたが、その真意を教えて貰えますか?」

 鷹栖は穏やかな顔をして聞くが、眼球が動かないためか、いまさらだが少し不気味な印象がある。


「文字どおりの意味ですよ。ほかに楽しみがないから、愛国が趣味みたいなものです。普段の行動は周りに合わせてますし、彼女が好きだから野球観戦に行ったりしますけど、自分から行きたいとは思わない」

「でも心の支えというのはインパクトありますよね。たんなる趣味にとどまらない重みを感じましたよ」


 いいまわしの問題だろう、と達弘は内心思った。けれど相手の問いかけを突っぱねるのは避けたく感じ、斜め下を睨みつつ質問に答えた。

「あんまり他人にいったことないんですが、おれ悲惨な小学生だったんです。さらっとまとめちゃうと大したことないように聞こえますが、本当に悲惨で、まず友達がいじめっ子でした。そいつに弄ばれるのが日課になっていて、両親もけっこう最低でした。外面は良いけど家では頻繁に暴力を振るって、毎日体にできた痣を隠しながら登校してました。何というか、救いがなかったんです。そんなある日、神に出会いました」


「神ですか?」と鷹栖は合いの手を入れる。

「はい。おれは母がたの祖父が好きだったんですけど、小学四年生の頃に亡くなってしまって。自分的に唯一の味方って感じでしたから、喪失感がすごかったんです。そんなある日、死んだ祖父と会話ができないか、空にむかって問いかけてみたんです。言葉を発しながら念を唱えて。そうしたら、かわりに神が応えてくれました」


 達弘はこうした話をだれかに語ったことがない。高校に進学したのをきっかけに人間関係がリセットされ、いじめの対象から解放された一方で、他人と距離を置く習性が身につき、人と腹を割って話すことは一度もなかったからだ。当然明美に打ち明けたこともない。


「じつはけっこう霊感のある人間なんですよね。そのとき、神が多くの啓示をもたらしてくれたら、おれは教祖になっていたと思います。あいにくそんなことはなくて、啓示は個人的なことにとどまりました。いじめは中学までしか続かないから、それほど悲観しないでやり過ごしたほうが良い。両親の暴力も彼らが酒を飲み、理性をコントロールできないのが原因なため、酒の量がすぎた日は先に寝るか、友達の家に避難しろ。神の教えはカウンセラーの助言みたいで、逐一具体的でした。そんな神にある日、おれは問いかけたんです、自分は将来何になれば良いのかと」


「進路に迷っていたのですか?」

「そうですね。中学受験をしていたから、そういうこと考える時期が早くて。ちなみにその神は、神道における神々とは異なる存在だとおれは捉えています。いわゆる一神教的な雰囲気がありました」

「なるほど。達弘さんが出会った神は進路相談に乗ってくれましたか?」

 鷹栖は相づちをうち、軽い身ぶりで先を促す。達弘は頷き返し、その動作に応じた。


「とにかく考えろ、といわれました。その結果、ある日、電撃が走るようなショックがあって答えに気づけました。愛国者としての目覚めです。おれは国が好きだったんです。日本の歴史や地理を勉強するのが楽しかったし、そういうものの一部になりたいと心のどこかで思っていた。だからめざすべき進路は単純でした。国に尽くすような仕事をすれば良いと理解しました」

「つまり国益のために働きたい?」と鷹栖は掘り下げてきた。


「はい、結論からいえば。ただ、具体的な職業に固めるまでは時間がかかりました。最初は国を儲けさせられる人になりたいから、投資会社を運用する腕利きのトレーダーになりたいなんてことから出発しました。ちょうど愛読していた小説の主人公がトレーダーだったんです。でも詳しく調べていくにつれ、投資会社のほとんどは外資で、扱うお金の大きいところほどそうだとわかりました。腕利きのトレーダーになれば良い、そんな簡単な話ではありませんでした。まだ盤石な確信とまではいきませんが、現時点の第一志望は官僚です。文字どおり国益のために働くわけですから」


「国家に貢献するイメージは官僚にありますね。わたしの知る官僚は、そういう国士と普通の人が半々な印象です。突っ込んだ聞き方になりますが、官僚になってやりたいことはありますか?」

 大学生にとって将来像はおぼろげだが、達弘には最低限のビジョンがあった。

「難しいですけど財務省で経済運営がしたいです。巨大な予算を扱って国を動かしている感じが半端ないですから」

「そういうダイナミズムに惹かれる?」

「はい、夢は大きく持たないと」

「じゃあ、もし財務官僚になったとしたら、どんな仕事をなし遂げたい? 達弘さんにしかできない仕事をしたい、そんなふうには思いませんか?」


 立て続けに、スケールの大きな問いを投げ込まれた。けれど達弘は、秘密のアカウントでは日頃からつぶやいていることがあった。それはこの国をもう一度豊かにしたいという切実な思いだ。

「もう一度、日本を経済成長させたいです。一人のトレーダーが稼ぐお金には限界があるけど、一人ひとりの所得が増えれば全体が豊かになれます。そういう政策を立案して、政治家を動かし、国を根底から変えてみたいです」


 鷹栖の態度はまるで就活の面接を思わせるものだったが、達弘は物怖じするそぶりさえ見せない。これには鷹栖も驚いたのか、目を丸くして肩をすくめた。しかしひと呼吸置いたあと、壮語した達弘を質問攻めにした。


「日本は少子高齢化が進んでいるからもう経済成長できない、身の丈にあった生活をすべきだという意見がありますけど、どう思います?」

 彼女は視線をそらさず、眼差しが達弘にむけられる。しかし彼にとってその問いは想定内だった。


「鷹栖さん、確か投資家でしたよね。釈迦に説法になる気がしますけど、それでもお話すべきですか」

「こう見えて不勉強なことも多いという自覚があります」

「そうですか。ではお話しさせていただきますね」

 テーブルに置いたアイスティーを飲み、気持ちを落ち着けたあと、達弘はいった。

「日本を経済成長させることは可能です。方法もシンプルです。ここ三十年ほど低迷し続けた所得を上げるのです。GDPは所得の総和ですから」


「仰るとおりですね」

 鷹栖の相づちに頷き、達弘は話を続ける。

「GDPですけど、普通の国は十年経つと二倍近くにはなるんです。おれ、これを経済学部の友人に手伝って貰って調べたことがあるんです。国家において所得が増える要因は何なのか。そうすると先ほどいわれた少子化、高齢化は無関係でした。そういう状況に置かれた国でも普通に所得が上がり、経済成長してましたから。唯一関係のある指標はお金の増加率でした。国内のマーケットに流通するお金がどれだけ増えているか。日本が経済成長しないのはお金の供給量が少ないからなんです。極論扱いされますけど、お金をもっと刷れば良いのは事実です。政府がお金を使うべきなんです。給付金を渡しても良い」


「お金をたくさん刷ればハイパーインフレになりませんか?」

 耳馴染みのある問いを鷹栖は口にした。しかしそれもまた彼には想定内だった。

「デフレを脱却しなくてはいけない局面でなぜハイパーインフレが心配になるか意味不明です。異次元の金融緩和をしてもインフレにすらならない。友人とシミュレーションを使いましたが、政府が年間数十兆円支出してもまだ足りないくらいでした」


「なるほど。とはいえ財政支出を増やすと財政破綻になる。その可能性を心配する人もたくさんいますよね」

「いたら何だっていうんですか」

 正面から投げつけられた問いに答えていくうちに、達弘は弾みがついたようだ。アイスティーで濡れた口の端を拭い、視線を鷹栖の目許に合わせる。

「財政赤字を減らさないといけないことが前提にあるから破綻が議論されるんです。国家が永続体であるかぎり、その都度、国債の借換をしていけば良いんです」

「借換?」

「前に借りたぶんの国債を返済したら、新たに借り直すんです。そうすれば、財政赤字を減らさないで国家運営ができます。しかも経済成長すれば税収もあがってGDP比の債務残高は減ります。プライマリーバランスの黒字を追及しようとして成長を阻害するほうが借金はむしろ増えるわけです」


 投資家である鷹栖がこれらの情報に無知であるとは思えなかったが、彼女は新鮮な情報に触れたかのごとく目の輝きを失わない。

「それでは、達弘さんのいいぶんでは、政府やマスコミが主張するプライマリーバランスの黒字化は無意味ということですか?」

「仰るとおりです」

「しかしそうなると、国債を発行し続けた結果、長期金利が上昇に転じる可能性がありますよね。この問題はどう扱われるつもりですか?」


 金利が上がれば国債の利息が増え、財政にダメージがある。鷹栖はそういうことがいいたいのだろう。だが達弘は理路整然といい返した。

「財政赤字によって金利が高騰することはありません。国債が投げ売りになり、デフォルトになるようなことは起こらないからです。自国通貨建て国債が債務不履行にならない理由は、鷹栖さんご自身が発行するお金を鷹栖さんが返済に使っていると考えて下さい。足りなくなれば新たに発行するだけです。日本の国債は元本保証だとご理解下さい。もし投げ売りなんてことになれば、むしろ買いが殺到するでしょう」


 達弘の言い分は筋が通っており、反論は難しく思えたが、それでも鷹栖はそれが義務であるかのように反論をくり出してくる。

「今はデフレだからいいけど、景気が回復したら金利が上がるでしょう。そうしたら借金で首が回らなくなりますよ」

「ああ、そういう話ですか」と達弘はいい、話を続ける。

「確かに景気が良くなれば金利は上がりますけど、それは良いことですよね。利息は増えますけど、それと同じかそれ以上に税収が増えていき、財政赤字は減ります。だから国債をたくさん刷って、景気がよくなるようにしたほうが良いんです。それがなぜか実現しません、理由はわかりますか?」


 今度は達弘のほうから質問を放ったが、鷹栖は首を振った。仕方なく達弘は正解を口にした。

「資産家と金融機関のためですよ。インフレになると資産が目減りしますから。年金生活者も嫌がりますよね。彼らの献金と票を目当てに、与党が手を抜いているんです。デフレを脱却するというのは口先だけで、本当はずっとデフレを維持しているんです。少なくともおれはそう考えていて、だから財務官僚になりたいんです。デフレは解消すべきだという人は省内に必ずいるはずです。そういう官僚の人たちと政策を立案して、政治家を動かし、国を変えてみたい」


「最初の志と話がつながりましたね」と鷹栖はいった。そしてすぐさま「実現可能性はありますか?」と疑問を投げかけた。

「省内の空気、政治の方向性が変わるのを待ちます。それまでは雌伏のときです」

「変わらなかったら?」

「人脈をつくって四十歳前後で国政に出ます」

「与野党はあんな具合ですよ? インフレになったら困る人たちが票田の政治家ばかりです」


 表面的には淡々と議論を続けていたが、ここで鷹栖は急に同情するような顔をしていった。

「それに政治運動の無力さは、この国に政権交代可能な野党が根づかないことで骨身に沁みています。与党の脱デフレ派の議員は党執行部による粛清に遭いました。達弘さんの考えは正しくても、現実は八方塞がりですよね」

「それは……」

 財政赤字がいかに安全かを説いてみせた達弘だが、具体的な政治の動きになると勢いが鈍る。しかしここで、カメラマンの西野が口を挟んできた。


「お前の話したことくらい、与野党の政治家は知ってるのさ。足りないのは知識じゃない、国を変える勇気だ」

「そのとおりですね」

 変則的な話を引き取って、鷹栖は達弘に向き直る。

「あなたが説いてみせた政策を実現させるには越えるべきハードルがあります。デフレに慣れ、財政支出をためらう人たちを目覚めさせねばなりません。しかし選挙で変えられると思いますか?」

「すぐには難しいと思います。だからおれは財務官僚になって内側から政治を変えたい」

「いったい何年かかると思ってます? その間に日本の没落は進み、取り返しのつかないところまで落ち込みますよ」


「確かにそのとおりですが……」

 鷹栖の口調は厳しく、達弘は言葉を失った。彼は正しい政策を突き止め、将来それを実現させる具体的な考えを持つに到ったが、国家はすでに二十年以上の時を無駄に浪費してしまった。そしてその状況を反転させねばならないという強い意志を既存の政治家からは感じられない。


「おればかり責めないで下さいよ。状況の悪化を許したのは鷹栖さんも同じでしょう?」

 ついに達弘は頭に来て、鷹栖のことを睨み返してしまった。

「年上の人が責任転嫁しないで下さい。こっちはまだ学生ですよ」

 自分の若さを言い訳にすることは子どもじみているが、彼にはほかに開き直る手段がなかった。

「見た感じ、鷹栖さんも西野さんもお若いみたいですけど、富国強兵を実現できなかった時間は十年以上あるんじゃないですか。GDPが伸びなかったせいで防衛費はずっと横ばいです。その間に中国は軍備を増強させ、米国を凌駕しつつあります。いくら雑誌で立派なことをいっても現実を変えられないのだとすれば意味はありません」


 腹立ち紛れに辛辣なことをいい放つ達弘だが、鷹栖はじっとこちらを見て奇妙なことを口にした。

「達弘さんのいうとおりですね。ですが方法は考えてあります。雑誌の取材というのはそのための方便でした」

「方便?」

 何のことかわからない達弘は眉をしかめるが、鷹栖はうっすらと笑みを浮かべて話を続ける。

「政治を変える手段はあるし、それを実行に移す算段はつけています。ただし、そのためには協力が必要でした。もしあなたの力を貸していただけるなら、先に述べた政策は現実のものとなるでしょう」

「ちょっと待って下さい。いまのおれにそんな力はないです」

「ありますよ」


 ずいぶんきっぱりと鷹栖はいい切った。彼女は少し前のめりになり、瞳を爛々と輝かせた。それを見た達弘は少し怖く感じた。その直感は驚くほど的確だった。

「政治を変える手段は古今東西同じでした」

 鷹栖の口調に不穏なものを感じ、達弘は黙りこくる。その隙間に鷹栖は刃を差し込んだ。


「ロシア革命はどうやって実現しましたか? その発端は?」

「……テロですけど」


 世界史で学んだ知識に依拠する達弘だったが、その言葉に浮ついたものを感じとる。政策を実現する手段として、その方法はあまりに非現実すぎると聞こえたのだ。

「達弘さん、いま怯みましたね。でもわたしたちは本気です。この国に革命を起こすつもりでここに集まり、あなたの協力を求める気でいました」

「テロって殺人ですよ」

「そんなことわかってます。あなたは日本経済を立て直すやり方を語ってくれましたが、それは与党の中枢にいる政治家とその側近に阻まれています。そのことを国民は知らず、日々一歩ずつ、亡国の底へと歩みを進めています。これは若者が自己実現を図る通り魔事件とは一線を画しているのです。日本を救うという高尚な目的のため、財政を緊縮させてきた連中を殺し、国民を真実に目覚めさせることが目的ですから。テロは民主主義の欠陥、民意の失敗を補う補完要素です。完璧な民主主義はテロを必要とするのです」

「……冗談でしょ。本気ですか?」

「もちろん本気ですよ。長年練り上げてきた思想ですから」


 鷹栖は流れるような口調で語り出し、テーブルの上に乗り出した。

「民主主義下の国民は、自分に釣り合った政権しか持つことができないというけれど、あれは嘘。道具を選挙に限定するからそういう結論になるのです。現在の不完全な民主主義は、テロの抑圧の上になりたっています。テロを解放すれば、民意のレベルは向上し、政治のレベルも上昇する。正しい政治をしなくてはいけないという緊張感が出ますから」


「だれを殺すっていうんですか。本気なら教えて下さいよ」

 達弘は鷹栖の語気に圧され、声をうわずらせたが、彼女は最初からプランは決まっていたとばかりに計画を語り起こしていった。

「まず地ならしで石井清光議員を狙います。石井議員は与党の税調会長で、新型コロナによる支出を増税で賄わせようとしている主導者です。国民も反発をはじめており、波及効果は高いでしょう。けれどゴールはべつの人物です。財務大臣の相沢直勝議員を暗殺しましょう。彼を呼んで大学で講演させる。達弘さんは交流アプリでそうつぶやいていましたよね?」


「……おれの個人情報を調べていたんですか」

「きっかけは偶然でしたけどね。わたしたちはより確実な方法を求め、達弘のさんのつぶやきに行き当たりました。相沢財務相は財政を緊縮に導いた政治家の親玉です。大学の先輩だけど尊敬はできない、あなたはそういっていました。デフレが続くのは人為的で、政治家が資産家や金融機関、そして米国のために放置しているのだと」


「そこまで知っているんですか」

「達弘さんの意見は炯眼ですよ。日本の政治家は最終的に米国のために政治をおこないますからね。デフレが続けば日本から買った資産は目減りしませんし、金利が低いままだと円を安く借りることができて、そのお金で潤沢な投資ができます。わたしたちもその答えに行き着くまでに長い時間をかけてしまいました。日本は財政破綻の瀬戸際にいると思い込んでましたから。でも違う。本当の経済は何十年もかけて、日本人から富を吸い上げじわじわ涸らしていくのです。これからもずっと」


 奇しくも鷹栖の主張は達弘の考えと一致していた。二人ともすべての裏に米国の影を見ていた。

「決行日は再来週を予定しています。実行はわたしか西野のどちらかで。よければ達弘さんも現地に行きませんか。あなたには相沢大臣を殺って貰いたいですが、本気と覚悟がより固まるでしょうから」

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