第6話
朝食後、リビングにあるソファーで賢哉を除いた三人とすいのことについて話すことになった。ちなみに今はすいと楽しく遊んでいる。おじさん呼びには納得し受け入れているようだった。この後バイトだから行くまでに話終わらせとけってさ。
亜耶に一連の話を一通り話終えた。
「そう。事情はわかった。で、どうするの?あの子」
「どうするって?」
「賢哉の察した正体と関係は今の話で大体わかった。でも、これからどうするの?あの子をどうしたいの?」
「どうしたいってそりゃずっと一緒にいるに決まってるだろ。なあ、みなみ」
「そ、そうだよ。寝るところは私のベッド使えばいいし」
「わかった。でも、あなたたちはあの子が何者でここにいる原因が何か知りたくはないのかしら」
「「…」」
俺とみなみは二人して黙ってしまった。本当のことを知りたい気持ちはもちろんある。でもこの世界にいる以上この子もまた俺の一部なんだろうということを思った。何か原因があって増え、解決したら消えてしまうそんな可能性があるのかもしれない。確証はないし、ただの想像・妄想でしかない。俺よりこの世界に詳しいみなみですら黙ってしまったのだ。より、何かあるのではないかとも思ってしまう。
「しばらく、考えなさい」
「おーい。そろそろ俺バイト行くからすいちゃんの相手してあげろよー」
すいと遊んでいた賢哉の声でハッと現実?でいいのか、いやちょっと違うな。我に返ったんだと思う。
「すいちゃん、何して遊ぶ?」
みなみがすいに問いた。
「んーとね。ゲームしたい!」
「いいねー。ボードゲームにトランプゲーム、テレビゲームあたりかなみんなで出来るのは」
既にみなみとすいの会話になり、置いてけぼりの俺だがみなみがしっかりと人数に入れてくれていた。
「すいは全部やりたーい!」
「「え?」」
二人して思わず困惑してしまった。なるほど全部かー。
「じゃあ、何からやるの?」
「ダイヤモンドゲーム!」
ダイヤモンドゲームとは六芒星の形の盤面の六つの角のうち三か所に各々三色の駒15個を対角の場所に運ぶゲームである。駒の内訳は王が一つ、残りが一般。一般の駒は同じく一般の駒を一つ飛び越えることができる。一方、王は連続していればいくつでも飛び越すことができるうえ、誰も王を飛び越えることはできない。さらに、連続して一つずつ(複数ずつ)飛び越えられるときは飛び越えることができる。飛び越えて移動し、すべての駒を対角のゴールに持っていくというのがこのゲームのルールだ。
「もう一回やろ?」
すいがおねだりする。
今回のゲームはみなみが一番早くゴールした。負けたすいは悔しがってリベンジに必死だ。
「わかった。やろうか」
「あ~、また負けた~」
「もう一回やる?」
「いい。次のやる」
すいはどうやらまた負けてこのゲームに飽きたみたいだ。ちなみに二回ともみなみが勝って俺が一番そろってなかった。
「次はなにやるの?」
「んとねー。大富豪!」
「じゃあ準備しなきゃね。ルールはどうする?」
「簡単なやつだけでいいんじゃないか?」
俺が口を挟む。
「そうだね。じゃあ、スぺ3、七渡し、八切り、イレヴンバック、革命だけ。すいちゃんこれでいい?」
「うん!」
みなみがトランプをどこからか出して繰り始める。というか三人で大富豪って大丈夫か?
今回もみなみがあっさりと勝っていた。そして、すいが悔しがる。その構図は既に複数回起こっている。
「というか、崇弱すぎじゃない?」
「言ってろ」
すいの前で負けてあげてるだなんて言えるわけがない。みなみの方こそ大人げないと俺は思っている。この後も数回やったがすべてみなみが一番に勝ち抜けていた。すいはというとつい先ほど疲れたのかみなみの膝の上でぐっすりと寝ている。
「なんでお前勝ち続けてるんだよ」
「崇が弱くて私が強いからに決まってんでしょ」
「すいに勝たせようってのはないのかよ」
「それは…」
「俺はずっとわざと負けてたぞ」
「嘘でしょ、どうせ。負けたから言い訳でそういうなんてサイテー」
「お前になんと言われようがいいが、みんな勝ちたいだろ。特に子どもだったら。みなみは大人げないな」
みなみの顔がかあっと赤くなる。
「崇のことなんて知らない!」
怒りを爆発させ俺に言い放つ。
「んっ、ん~…」
みなみの膝からそんな声?が漏れる。
「ごめんごめん、すいちゃん」
当のすいはギリギリ起きなかった。
「っふうー。とにかく、私は負けてあげないんだから!」
みなみは寝ると言ってすいも抱っこして連れて行った。
その後は俺一人がリビングに残された。みなみの去り際の言葉が耳に残り続けた。
「ったっだいまー」
しばらくして、夕食前に賢哉が帰ってきた。
ちなみに昼ご飯は全員忘れていて食っていない。
「どうした、どうした、崇~」
「いやさー、あの後ゲームやったんだけどさー……」
俺は帰ってきた賢哉に出来事を順番に説明した。
「なるほどな―。多分それ、みなみも気づいたんじゃないか。すいちゃんの正体に」
「えっ?」
「なんだーお前、まだわかってねーの?」
「う、うん」
はあーと深い溜息をついた賢哉は説明という名の答えを教えてくれた。
「まず、みなみをなんて呼んだ?」
『ママ』
「崇のことは?」
『おじいちゃん』
「俺と亜耶のことは?」
『おじさん、おばさん』
「いいか?すいちゃんとのここでの関係は呼び方が正しい」
『え?』
「俺たち、三人はここで生まれた。つまりお前から生まれた同時期の子どもみたいなもんだ。そして俺たちは兄妹みたいな関係ということになる」
『だから、すいから見るとおじさん・おばさんか』
「そ。で、なんでみなみがゲームに勝ち続けてるかなんだけど。すいちゃんは何故ここにいる?」
『それはまた俺から新しい人格が生まれたということだよな?』
「半分正解。みなみからだよ」
『だからってなんでそれがみなみが勝ち続けてることになる?』
「すいちゃんが“みなみの子どものように遊びつくしてみんなに勝ちたいという欲望から生まれたから”」
『⁉』
それはつまり、みなみにすいが勝ったら願望が叶って満足するってことで。そのあとは…どうなるんだ?
『すいはその後どうなるんだ?』
「さあな。みなみ次第なんじゃないか?」
このときはまだ、賢哉がまた面白がって流したのか本当にわからなかったのかわからなかった。
みなみの部屋にて。自身のベッドに女の子を寝かせる少女がいた。
「ママか…」
少女は溜息をつくかのように思いつめた声でそっと呟いた。
少女は困惑していた。朝目覚めるとこの女の子が自分の布団の中にいてさらにこの女の子が自分をママと呼んだ。身に覚えのないことが一気に押し寄せパニックになった。それでもこの子のことを知らないといけない気がなぜかした。理由はない。ただの衝動。朝ごはんのとき、みんなと話していくうちに一つの可能性に少女は気づいた。自分のことをママと呼び、それに伴ったみんなの呼び方。特徴がありすぎた。オリジナルである崇以外はみんなここで生まれた。多少のずれはあるがほぼ同時期に生まれた三人。オリジナルゆえにこの世界のことを詳しくは知らない。なぜなら、記憶にないから。何があったのか。なぜできたのか。さらに詳しくいうと三人に核となる記憶を分け与えたから。二人の核は少女も知らない。知っているのは自分のことだけである。だからこそ、この可能性の信憑性が増す。
“自分から分かれた存在ということ”に。
だが、少女はまだ女の子をそう捉えても自分のどの記憶を核にしているのかまではわかっていなかった。崇の通りだと少女からはあの女の子の核はわからない。自分から無意識に分け与えた記憶の内容はわかることはない。少女はしばらく考えふけっていた。
いつの間にか少女はベッドの上にうつぶせて寝てしまっていた。
これは夢だったのかもしれない まれ @mare9887
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