第4話
賢哉と話してからもう三週間が経った。この世界に来るのは久しぶりに感じる。
短いようで長いような。
そういえば、前に次来たときはみなみと遊ぶ約束だったか。
「みなみー。来たぞー」
現在の時刻、なんと十四時。真昼も真昼。だが、いつもリビングにいるはずのみなみがいなかった。
「みなみなら部屋じゃないか?」
賢哉がキッチンで洗い物をしていた。どうやら今日のお昼当番は賢哉だったらしい。
「みなみがリビングにいないの珍しいよな」
「たしかに。もうちょっとしたら洗い物終わるから、みなみに誘われたらその後に混ざるて言っておいてくれ」
わかったと賢哉に言って俺はみなみの部屋に向かった。
みなみの部屋は二階にあり階段上ったところにある俺の部屋の隣だ。
コンコン。
「みなみー。入るぞー」
そう言って俺はみなみの部屋に入った。
だがその部屋はもぬけの殻だった。
女の子らしい部屋だったがそんなことは頭に入ってこないくらい驚いて突っ立ていた。
「賢哉―。みなみ部屋にいないんだけど」
俺は一階にいる賢哉に聞こえるように少し大きな声を出した。と言っても二階の廊下からリビングとキッチンは見える。二階の部屋は一階にある部屋の真上に作られているので見えるってだけ。
「まじかー。他の部屋も探してみてくれ」
二階には俺とみなみと亜耶の部屋しかないので一階から探すことに。一階でまだ探してないのは俺の部屋の真下にある賢哉の部屋、その隣の物置部屋、そのまた隣にある洗面所と風呂場くらいだな。
手始めに賢哉の部屋!…は当然いなかった。
「そこにいるわけないだろ!!」
そんな声がキッチンの方から聞こえたが無視した。
次、物置部屋。一番いない人がいそうな場所。ドアを開けると真ん前に大きな段ボールの山があった。一応脇の方にギリギリ人ひとり分の隙間があった。そこを通っておくに進むとまた段ボールの山が出てきた。これ以上進むのもめんどくさいのでここで呼んでみることにした。
「おーい、みなみー、いるかー、返事してくれー」
ただただ静寂な空間がしばらく続いた。よし、出るかーと小声で言いつつこの部屋の出口を目指す。一体この大量の段ボールの中身は何なのだろう。どうやって奥のものを取り出すのだろうか。もしかして全部部屋から出すのかそんなことを考えている間にドアの前までたどり着いた。ドアノブに手をかけ引いた。あれ?この段ボールが地震とかで崩れたらここに閉じこまれるんじゃ…。怖くなってすぐに部屋を出た。がよく考えるとこの世界に地震なんてあるのかいやそういう問題じゃないなと頭をぶるぶると横に振り考えるのをやめた。
次の場所へ。洗面所とお風呂だが。もしかしたらたまたま入ってて、たまたま出てきたところでワンチャンあるかもしれない。そんなドキドキの胸いっぱいの気持ちで洗面所のドアノブを握った。
ドキ、ドキ、ドキと鼓動が大きくなっていく。いざ、ゆかん!
ドアを開くとそこにはただ鏡に映る自分の姿があっただけだった。
いや、まだチャンスは残っている。風呂場からは音もしないうえに脱いだ服も換えの服もないがもしかしたらのぼせているかもしれない。そうなったら大変だ。今度は勢いよく風呂場のドアを開けた。
そこには水の溜まっていない浴槽に乾いた床があるだけだった。燃え尽きた。俺のユートピアがあぁぁぁ。
「何、そこで膝を折ってんだ?」
「俺のゆーとぴあぁぁ」
は?という顔をした賢哉にユートピアとみなみはいなかったことを伝えた。
「まったくどこにいったんだか、亜耶にも訊くか」
そう言って賢哉は亜耶の部屋に行ってしまった。俺はまだ風呂場にいる。
「な!みなみが外にいる⁉」
そんな賢哉の大きな声が一階のふろ場にいる俺に聞こえてきた。その声で我に戻った俺は亜耶の部屋までダッシュで向かった。
「はあ、はあ、はあ、どういうこと?」
息切れした俺はとりあえず亜耶に訊いた。
「あくまで可能性よ。まだここにいるかもしれないけど、あの子外に憧れてたでしょ?だから出たじゃないかって話」
「いや、でもあいつ外出たこと一度もねぇじゃねーかよ。さすがに連れ戻さないと危険だ」
「なんで?」
賢哉が慌てているのに対し俺はなんでそう思うのかさっぱりわからなかった。
「あいつ、世間の常識を知らなさすぎる。そのうち補導されるかもだし逮捕される可能性も。そうなったらつらいのはみなみじゃなくて俺たち全員だ」
「確かにそれはまずいわね」
「でもさ、外には一人しか出れないんでしょ?どうやって戻すの?」
「それはみなみに対してだけ使える必殺技が俺にはあるんだよ」
賢哉は自身満々に言ってのけた。
「ま、その前に、だ。本当にみなみのやつが外に出てるか確認しないとな」
「じゃあ、私出てくるわ。すぐ戻ってくる」
「頼んだぜ」
一階に降りてきた俺たち三人は玄関の前まで来た。もし、みなみが外に居れば亜耶がはじかれる。いなければはじかれずに外に出れる。
亜耶はゆっくりとドアに近づきドアノブに手をかけ外側へ開いた。そして、出れた。
ということはみなみはここにいることがわかった。しかしどこにいるのかわからない。全部の部屋を探したしどこにもいなかった。見てないのは亜耶の部屋ぐらいだが亜耶自身が行方を知らないとなるといないのは確実。本当にツんだ。二人で頭を抱えていると後ろからドアの開くような音がした。
「え?」
二人は目を大きく開いた。同時に口も開いた。
だって、彼女は物置部屋から出てきたのだから。
「どうしたの?二人ともそんなところに突っ立って」
「いや、おまえ何でそんなところから出てくるんだよ。つーか何してたんだよ」
「え?お昼の後、物置部屋で探し物してたらそのまま寝ちゃって今起きた!」
「崇、奥の方まで見なかったのかよ」
「ごめん、出れなくなりそうで。でもちゃんと声はかけたよ。大声で」
「それでも起きなかったのかよ」
みなみはあはははと笑いながらも全部右から左へと聞き流してるように見えた。
「ただいまー。中にいたのね。これお土産」
「亜耶ちゃんどこかに行ってたの?」
事情をなに一つ知らないみなみはのんきにそんなことを言った。
「みなみが外に出たかもしれないと思って試しに出たついでにみんなにお土産でも持ってこうかなと」
「え?何私、外出るチャンスあったの?」
みなみは独り言で、え?え?と困惑したり、悔しそうにしたりしていた。
「みなみも見つかったことだしそれじゃあ、みんなで遊びましょうか」
「やったー亜耶ちゃんすきー」
「亜耶が言い出すなんて珍しいな」
とまあ三者三葉に反応を見せうれしそうで楽しそうだった。
それからしばらくみんなで久しぶりにじゃないな。初めて一緒に遊んだ。
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