第3話

 あれからしばらく何もなく夏休みを過ごした。

 気づけばもう九月だ。

 俺自身友達がいないので特に遊ぶこともない。

 そのせいかここへ来るための条件である俺に何か起こるということがなく、久しぶりに来た。

 前回来た時は確か亜耶のことを知るために部屋に行っていろいろ話したんだよな。

 ゲームもしたな。ボロ負けだったけど。

 今日も部屋に行けばゲームできるかな。

 俺は自分の部屋を出て同じ階であり隣の隣の部屋へ向かった。

 ノックを二回してみる。

 だが反応がなかった。

 まだ寝ている可能性もなくはない。

 悪いとは思いつつも彼女ももとは自分だと誤魔化しながらもう一度ノックしてから入った。

 左にはデスクトップのパソコンが一台。

 右には女の子らしいぬいぐるみの置いてあるベッドがある。

 ベッドの掛布団はきれいにたたまれていた。

 つまり、亜耶が部屋に居なかったのだ。

 部屋を出て階段を降りリビングに来た。

 部屋にいないだけでリビングにいるのかもと思ったのだ。

 そこにいたのはみなみだけだった。

「あ、おはよー!崇」

 このタイミングでこっちに気づいたらしい。

「おはよ。みなみ。亜耶知らないか?いないみたいで」

 気になったこともついでに訊いておいた。

「あーなんかどうしてもほしいゲームがあったらしく買いに外に出たよ」

 珍しいというのはまず最初に出た言葉だった。

 あの引きこもりの彼女がだ。

 それにみんなに見せない設定にして外へ出たみたいで。

 俺が言うのはアレだが大丈夫だろうか。

「というわけでわたしと遊ばない?」

 みなみが遊びに誘ってくれた。

 自分が暇だっただけだったかもだけど。

 だが、俺は断った。

「なんで?家にいるでしょ?むー」

 顔をふくらませて理由を問いてきた。

 かわいい。

「今、亜耶が外にいるってことは部屋に賢哉いるんだろ?あいつとそうそう話せないからな。いるときにやらなきゃいつできるかわからないからな」

「そうかもだけど。わたしも混ぜてくれてもいいじゃん!」

 すねてるなこれ。

「悪いな、二人きりでしゃべりたい。今度来たときみなみと遊ぶから」

「ほんと?」

 疑いの目を残しつつ訊いてきた。

「本当だ」

 俺は断言する。

「約束だよ?」

「もちろん」

 そういうと、みなみはすぐに嬉しそうな顔に変わった。

「あ、そういえば。賢哉の部屋ってどこ?」

「賢哉の部屋はね。あそこ」

 そう言ってみなみは指をさした場所は俺の部屋の真下の部屋だった。

 隣にも部屋があるのは知っているがどっちかわからなかったのだ。

「ありがとう」

 お礼を言って、俺は賢哉の部屋のドアをノックした。

「あ?」

 なんかこわい声が聞こえたような…。

 やっぱりやめておこうかな。

 冗談。行きますよ、ちゃんと。

 こわい。




「どうしたんだ?崇?」

 漫画を読んでいた。

「二人で話したいなーと。何読んでるの?」

「これか?お前の部屋にあったやつ」

 俺のかよ。

 彼が読んでいたのは少年雑誌で連載されているバトル漫画の単行本。

「崇なんか聞きたいことでもあったじゃねーの?」

 図星だった。だが、そんなに動揺しなかった。

「そうなんだ。賢哉、一番外に出てるからよく知ってるんじゃないかって思って」

「確かに一番外出てるなバイトやってるし。だがな、たぶんみなみの方が詳しいんじゃないか?」

「え?俺がどういう理由でここに来るのか訊いたかったんだけど」

「確かに変わった後どういう状況か把握しているから状況はしているが、みなみはお前の生活基本的には学校のときずっとそこのスクリーンで観てるぞ」

 何それストーカーじゃん。

 それにみなみの闇を見た気分だ。

「まあ、そういうことだからさ。一緒にマンガでも読まねーか?ほれ」

 いやそれ俺のだから。

 



 それからしばらく、俺は賢哉と賢哉の部屋で俺のマンガを読んでいた。

 内容はよくある王道ファンタジーバトル。

 主人公がある少年と出会って、魔法を駆使してともに歩む物語。

 読むスピードは俺の方が少し早いくらい。いずれ追いつくかもしれない。

 ここら辺で一度訊いておきたいことを訊いた。

「俺がここに来る条件なんだが、何があってここに来ているんだ?」

 もちろん次いつ来れるかはわからないのだが、知っておくことに損はないだろうというのが俺の意見だ。

「はあ?確かに何があったかは知ってるがそれをお前に教えるわけねぇだろ」

 一蹴された。

「だいたい、お前が……あ、やべっ」

「?」俺がどうしたって?

「とにかく!まだお前に今のお前には教えられない」

 なぜ?と思ったが彼には彼の考えがあるのだろう。

「いつか教えてくれるんだろう?」

「ああ、俺が大丈夫だって判断したらな」

 なら、待つしかないようだ。

「あ、それともう一つ!」

「なんだ?」

 彼は呆れ交じりの声色で応えた。

「部屋によく置いてある“お金”使っていいのか?」

 前からよく身に覚えのないお金が勉強机の上に置いてあることが多かった。

 理由はわからなかったし、母親に訊いても「最近バイトしてるしポンと机に置いてんじゃないの?」って返されていた。

 もちろん俺にバイトの記憶なんてものはないしただただ怖くて使えなかった。

 だが、この世界に来て賢哉と会ってこれは賢哉が置いたものだとわかった。

 毎月決まった日に机に置いてあるお金つまり給料だ。

「そのつもりなんだけど、え?何?使ってなかったのか今まで」

 だってなんかこわいじゃん。

 身に覚えのないお金が机にあったら。

「まあ、自分の分は絶対わからないところにあるから、気にせずお小遣いにしてくれ」

 と、言われたがイマイチほしいものはない。

 また今度考えるか。

「他、俺に訊いておきたいことあるか?あるなら今のうちだぞ」

 うーん……、これと言って……あった。

 しょうもないけど、気になるやつが。

「賢哉さ、なんのバイトしてんの?」

 俺にまでお金を渡せるほど稼げるバイトって一体……。

 俺はゴクリと唾をのんで待った。

「それはあれだそのー秘密だ」

「いや訊くの促しておいて全部教えてくれねーのかよ!」

「冗談冗談」

 いや、冗談言うぐらいコイツと仲良くなった覚えないんだけど。

 なんかやっぱウザいし。

「聞く気失せたわー。ないわー(棒)」

「ほんとごめんて!ただ条件があって……」

「条件?」

「うん。みなみと亜耶には俺がやってるバイトのこと言わないでほしいんだよ」

「え?なんで?

「いや。恥ずかしいからに決まってんじゃん」

 はあ。ただただ訊く人間を間違えた気しかしない。

「わかった。わかった。言わない。言わない」

「ほんと⁉絶対だよ?大丈夫?」

 はいはいとテキトーに俺は頷いた。

「引っ越しのバイトやってんだ!」

 ほう。でも隠すよう内容のものか?わりと普通のバイトな気が。

「ってか、俺そんな力がある方じゃなかったと思うんだけど」

「何がってか何?まあいいや。お前とは力の使い方というか身体の使い方が違うんだよ。持ち方と道具の使い方で変わるし」

「でも引っ越しのバイトってそんな稼げるの?」

「まあシフト次第で化ける。深夜時間は高校生じゃ働けないから工夫は必要だけど。でも普通に時給いいところもあるから」

「へ、へえー」

「あれ?訊いておいて興味なさそう……」

「いや、熱に押されてただけだから、気にすんな」

 そんなこんなでマンガを読みながら話していると玄関からガチャと音が聞こえた気がした。

「なあ、今玄関の方から音しなかったか?」

「んあ?亜耶が帰ってきたんじゃないか?こんな時間だしほれ時計」

 そう言って賢哉は目覚まし時計を俺に向かって放り投げてきた。

 突然のことでびっくりした俺はキャッチできず賢哉の目覚まし時計を落としてしまった。

「おいっ!落とすなよ!壊したら弁償な」

「ごめんて。というかここ俺の世界なんだろ?壊れるとかないだろ」

 賢哉はバレたかみたいな顔をして笑ってる。

「それよりそろそろ戻った方がいいんじゃないか?」

 賢哉に言われてすぐに時間を見た。

 表示されている時間は“19:17”。

「は?」

 そろそろ夜ご飯の時間だった。

 あまりにも時間が経ちすぎてて意味が分からなかった。

「なあ賢哉」

 俺はあることに気が付いて賢哉の名前を呼んだ。

「俺ら昼ご飯食ったっけ?」

「あっ……」

 二人してほんの少しの間沈黙してしまった。

 本当にやばいやらかしをしたとき人間は思考が停止するらしい。

「今日の昼当番って崇だったよな?」

 そう賢哉に言われ一気に身体が震えだした。ガタガタというより気持ちガッタンガッタン。古い機械人形のように。自分の身体なのにうまく身体が動かない。

「みなみやばいよな?」

「間違いなくブチギレていやがるだろうな。謝っておけよ?なだめるのは俺がやってやるから」

「うん。ありがとう。そのまま帰るわ。またな賢哉」

「ああまたな崇」

 俺は賢哉の部屋を出た。

 出るとみなみがソファーに寝転がっているのが見えた。

 俺は全力疾走の準備をして息を吸った。

 何をするのかというと、全力疾走しながら大声でみなみに謝りながら玄関を出て捕まる前に逃げ切るのだ。

 準備は整った。みなみはまだ気づいていない。

 静かに走り出した。

「ごーめーん‼みなみ~」

 みなみは突然の大声にびっくりしていたがすぐに気づいて追いかけてきた。

「まあーーてーた~か~し~」

 この世界の玄関のドアには鍵はない。防犯上いらないためである。

 俺はそのままドアにタックルする形で飛び込んだ。

 いつのまにか追いつきかけていたみなみは飛び込んだ俺の足をつかもうとして腕を伸ばした。だが輪を作ったみなみの手は足を捕らえられず、例の見えない壁に腕と顔をぶつけたような音がして目が覚めた。






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