4章12話 へんたあああああいっ!!!!!
ʚ天詩ɞ
――体育祭、三日前になった。
体育祭がとうとう三日先だからか、みんなそれとなく生き生きとした顔になって、練習に取り組んでいる!
私は二人三脚の朝練があるから、眠い目をこすって、ひなたを起こさないようにしてジャージを羽織り、部屋を出る……これも体育祭ならではだよね、我慢我慢……うう眠い……。
靴箱でだらだらと靴を履き替えていると、足音が響き、私はゆるゆると顔をあげた。
見覚えの有りすぎる顔。
「堕天使じゃないか。遅刻すると思ってたが」
「……あら、そっちこそ寝坊しなくてよかったわね、悪魔」
運悪く、いや、運良く……んんっ、運悪く斗真と鉢合わせ、私たちは言い合いながらも校庭の真ん中に集合する! 最近ますます意地悪になったのよね……ふん!
「はーい、みんな揃ったかな? さて、体育祭まであと3日!! つまり、練習もあと3日!! 気合い入れていこう!!」
「「「おー!!!」」」
先生が掛け声をかけると、みんなが目を輝かせて返す。
さっそくみんながペアに別れだし、私はぷいと顔を逸らしながらも斗真に近寄った。
「今日はあなたのハチマキ使ってよ?」
「そう言って、いつも使ってるじゃないか! お陰様で、汚れすぎて自分の名前が見えなくなるくらいだ!!」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと巻いたらどう? というか、私のハチマキは部屋においてきてるから使えないわ」
「確信犯……!!!」
斗真は悔しそうに顔を歪めながらも、いつも通り私の足と斗真の足をハチマキで結ぶ。
指が足首に触れるたびにドキドキしてた私だけど、今は……うう、今だってドキドキしてるわよ!! もう!!
「じゃ、行くぞ」
「今日はグラウンド一周できたらいいわね……」
「「無理だろうけど」」
私たちは小さく息を吸い、
「「せえのっ!」」
結ばれた方の足を前に出す。が、斗真の歩幅が大きくて、私は転びそうになるっ!!
「ちょ、わ、わわっ!!」
「危なっかしいな……」
斗真に抱きかかえられ、私はかあっと頬を染める……何よ、距離も近いし、そんな密着されると!!
毎日練習してても、これだけはなれない!!
「~~~~~っ、さっさと行くわよ!」
「お、おう」
「「せえのっ」」
今度は斗真が配慮しすぎて歩幅が小さく、斗真が私の方に倒れてくるっ!
「ちょっ、ばかあ!!」
「ごっ、ごめん」
……絶望的。
先生からは「ぺ、ペア、変えてもいいんだよ……?」と何度か問われたけど、プライドが許さなくて、「「大丈夫です!」」と答え続けた結果……こうなった……!
こんな風に私たちは、毎日他のみんなが進んでいく中、一歩も踏み出せずにおろおろとしている。
……いや、一歩も進めてないことは、ないかな……色んな意味で!! なんて!!!
「……はああー」
「な、なによ、ため息なんてついて」
「や、堕天使と俺は合わないなあと」
「うっ! うるさいわね!! 悪魔と天使、そりゃ合わないわよ!!」
「……はあ、最終手段だ」
「へ?」
と、斗真が息をつき、私の手を……つっ、繋いだぁ!?
「ふゎああああっ!?!?」
「動くなって!!」
斗真にもう片方の手で受け止められ、なんとか踏みとどまる、けど……手、つ、つつ繋いで、どういうつもりよーっ!?
すると、斗真が頬をほんのりと赤らめながらも私を見る。
「べべ別に、嫌なんだがな! こうした方が有利なんだよ!」
「ど、どういうふうに有利なのよ!?」
「なんにでもだ!」
「はああ!?」
と、斗真が顔を逸らし、掛け声をする。
「せーの」
「!!!」
同時に、私の手を少し強く握り、私は押されるようにして足を踏み出した。
こ、転ぶ……あれっ!?
「い、一歩目が進めた……!」
「有利だと言っただろ?」
「……み、認めてあげるわ」
「とりあえず、これからもこの方法でいくからな」
斗真がぎゅっと手を繋ぐたびに足を踏み出す……そそそうね、名案だわ!!
「わ、分かった」
「よし、グラウンド一周目指すぞ!」
「お、おーっ!」
ぎゅっ……ぎゅっ……ぎゅっ……。
「……ああぁーっっっ!!」
「どうした?」
顔を覗くようにして見つめてくる斗真。
……し、心臓がもたないよーっ!?!? 斗真のあたたかな柔らかい手……あああ、何考えて!!
「な、なんでもないわよっ……んわ、ひゃあっ!?」
「うわあああ!?」
ま、まずっ!?
テンパったせいでバランスを崩し、私は勢いよく前に倒れるっ!!
さらに、斗真の覗き込んだ顔に顔がぶつかりそうになり、私は慌てて顔をそらす……けど。
むにゅ。
胸に何かが当たり、私はますます慌てて、地面にひっくりかえ……らない!?
「ご、ごごごごごごっ、ごめん!!」
「……??」
支えられる体。……ん? 斗真、どこ触って?
ゆっくりと状況を読もうと試みる。
繋いでいない方の手……ん?
斗真の右手が、私の胸を……!?!?!?
「ごっ、ごめんって……!!!!!」
私は斗真の手を勢いよく払い、そして。
「へんたあああああいっ!!!!!」
ぱちーん!!! と乾いた音が、校庭中に響き渡った。
ʚ斗真ɞ
「それはご愁傷さまー。てか斗真ってほんと不幸体質だよねー、ラッキーなのかそうじゃないのか」
「俺は慰めてほしいんだが」
「乙なのです、斗真さん」
カフェテリア。
俺は、隼と姫に全てを話し終わるなり、ぐだーっと机に突っ伏した。
「もう、気まずいのなんの……顔についた手形も取れないし……」
「そりゃ、胸を触られるんですからね! 誰だってそうなります! まあ、私は隼様になら……」
「はい姫そこまで。とにかく斗真、気にしない方がいいって」
隼がキャラメルマキアートのストローに口をつけながらも微笑む。くっ、イケメンが……。
そんな中、姫がぐいっと胸を突き出してみせる。
「隼様、私の胸、揉みますか!?」
「姫は黙ろうね」
「天詩がそれくらい寛容だったら良かったのになあ……」
「えー斗真、日岡さんの胸を揉みたいの?」
「いや、そういうわけじゃ!!」
「ふうーん? なのです」
にやにやとからかうようにして微笑んだ後、姫はふわりと立ち上がる。
「そろそろ休み時間が終わるのですよ。この3日間は、とにかく練習練習、練習なのですよ、疲れるのです! ズル休みも効かなくなりました!」
「ズル休みすな!!」
俺のツッコミをスルーして、姫は短いスカートを揺らしながらも隼の手を引いた。
「では斗真さん、また後でなのです。おつーなのです」
「辛辣だなおい!!」
「わお姫ったらー」
と、姫はふと立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「……天詩さんの好きなものを献上する、とかは、アリだと思うのです」
「姫……恩にくる」
さりげない優しさが胸に染みながらも、俺は自動販売機へと向かった。
ʚɞ
「……先程は、すみませんでした」
「許さないわ」
……姫のやつうおおおお!!!
授業開始前。
『なまたまごーやジュース』を天詩に突き出し土下座したのだが、天詩は冷たく見下ろしてくるだけ。
「どうか」
「嫌よ、もう嫌!」
「すみませんでしたああ!!!」
「ひゃあっ!?」
逃げようとする天詩の靴を抑え、俺はジュースを突き出す。
「どうか受け取ってください……」
「……じゅ、ジュースだけじゃ許さない」
「じゃ、このドーナツを……」
「どーなつっ!!」
俺が休み時間に食べようと思っていたドーナツを献上すると、天詩がぱあっと声を輝かせた。
「どうか、これで許してくださいな……」
「ふ、ふん! 許してあげないこともないわ! いいからどーなつを渡しなさい!」
許してくれるらしい。
天詩にジュースとドーナツを渡すと、俺はゆっくりと立ち上がった。
その際に天詩の胸が視界に入り、思わず注目してしまう。
むにゅ。
リアルな感覚が蘇り、俺は勝手に赤面する。
何考えてるんだ、俺!! バカか!!
「んんんーん!」
「よ、よかったな……」
赤い顔を隠すようにして顔を逸らそうとし、天詩の顔に釘付けになる。
ドーナツを美味しそうに頬張る天詩。一安心だ。
やっぱり、幸せそうな天詩の顔が一番かわいいな……って、おい俺!!
「なあに、見とれちゃった?」
と、いたずらげに微笑みかけてくる天詩。
「なな、バカな! 誰が、ただ爆食いしてるだけのお前に見とれるか!!」
「ばっ、ばく、ぐい……!!」
天詩が口をぱくぱくとさせ、すぐにばっと顔を赤らめる。
「お、おいしいんだもん……そんな見ないでよ、悪魔!!」
「うるさい堕天使、さっさと食べろ」
「だから見ないでって言ってるでしょ、意地悪悪魔……」
「見ないから食え、授業が始まる」
いつも通りの会話。
でも、嫌じゃない。むしろ、幸せな気分になる。
こんな時間が幸せ、だと思っている自分にびっくりしながらも、俺はこっそり微笑んでしまう。
「……よかった」
「なにが?」
「なんでも」
怪訝そうに眉をひそめる天詩。
しかし、何も言わない俺を見て、天詩は諦めたようにして拳をつくってみせた。
「とにかく二人三脚、絶対に勝たないとなんだから! ……練習、頑張ろ」
「ああ、そうだな」
天詩は立ち上がり、俺たちはグラウンドへと足を向けた。
みんなが揃い、先生が声を上げた。
「では、午後の練習始めるよー!!」
「「「「はいっ!!!」」」」
そうして三日間、練習を重ね。
――体育祭当日がやってきた。
―――――――――――ʚɞ―――――――――――
投稿ばちくそ遅れて本当に本当にすみませんでした。土下座
これからは、物語全て、均等に書けるよう頑張ります(´;ω;`)
寮の部屋に空いた穴から、ツンデレ美少女天使さんが侵入してくる~当たり前みたいに入ってくるけど、ちなみにこれ校則違反ですよ!?~ 未(ひつじ)ぺあ @hituji08
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