4章11話 ……私、斗真くんが好き、です!

ʚ天詩ɞ


「…………」

「…………」

「へ、部屋に入ろうか……」


きっっまず!!! と叫びたいのをぐっとこらえ、私はそれっぽく話を続ける。

生徒たちの視線も浴びまくってるし、とにかく中にっ!!


「ん、そ、そうだね」

「うん、そ、そう」


きっっまず!!!!!(二回目)ダメだあ……!!


私たちは、気まずさ回避のため我先にと部屋に入り、


「うげっ、げほっ、げほ!!」

「うげええっ、ほ、ほこりっぽ……!!」


薄暗い、閉め切られた部屋に飛び込むなり、むせて涙目になる。

そういや、換気も全くしてなかった、そりゃこうなるよお!!


「げ、げほっ……う?」

「げほっ……ふふっ」


横で涙目になっているひなたがおかしくって、ひなたも同じようにして目を細め、私たちは顔を見合って爆笑する。


ああ、懐かしい、これ、これ……!



「換気、しよっか」

「そだね!」


一通り笑い終わった後、私たちは窓を全開、カーテンをしゃっと開ける。

空気洗浄機もオンにし、私は二、三度頷いてみせる。


「これでいいわね」

「うん、久しぶりだねっ……」



そこで、私たちは同時に沈黙し、


「あのっ」「えと」


「あ、先どうぞっ」「先に言って?」


「あ」「う」


シンクロ三コンボを果たし、私たちはまた笑い合う。


「ちょっと、飲み物持ってくるわね。待ってて」

「うんっ、ありがと……」


私はそういうなり部屋から飛び出し、カフェテリアへと猛ダッシュ!!

テンパっていたからか、夏なのにも関わらずココアを二つ買うと、こぼさないように気をつけながらもそろそろと部屋へと戻る。



「わー、ありがとー」


部屋に戻ると、ひなたは自分の貴重品たちを部屋にセットしているところだった。



「はい、どーぞ」

「ありがと、天詩!」


こうやって呼ばれるのも、何億年ぶりに感じる……!!

ひなたはココアのカップを持ち上げ、口をつけるなり、慌てたようにして舌を出す。


「あっち!」

「あざといわね」

「あざとマスターに言われたくありませんーっ」

「誰があざとマスターよ」


空気がほぐれたその瞬間。

私は思い切って頭を下げたっ!!


「事件についてですがっ、本当に、すみませんでしたぁっ!!!」

「へっ、わっ、私がばちぼこに悪いのに、謝らないでよっ!?」


お互いに土下座をし、しばらく謝罪の儀が行われる。

と、おでこを赤くしながらも、ひなたが顔を上げた。


「……えーと、まず、誤解を解きたいですっ」

「うん、私も」


ひなたは袖と袖を合わせ、すがるような瞳を向けてくる。



「誤解してるかもだけど、あれは、完全な私の暴走ですっ! 誤解させたならごめんなさい!」

「ぼうそう!?」

「そう、暴走! ……実はあの日、こっそり斗真くんの部屋の方に入って……それで、ベッドで……」

「うう……」


ひなたが顔を赤らめるのを見て、私もかあっと頬を赤く染める。


「寝顔が、かわいくて、その、もう、抑えきれなかったんです、ああああああああ!!!」

「もう恥ずかしい、やめて!!!」

「べべべつに、変なことは絶対にしてないからねっ!? キスもしてない!! 天詩が来なかったら、してたかもだけど……」

「なにそれーっ!?」

「うううう、恥ずかしいよっ!!」


でも、なんだ……キスもしてないのかあ……と安心しながらも、私はあの光景を思い出し、赤面するっ!


恥ずかしの儀の後、次は私の番。

ひなたの視線を受け、私はずりずりと頭を地面にこすりつけた。


「えっと、私、ずっと隠してましたことが……実は、過去に何回か、斗真の部屋に侵入した全科があります……!」

「はああー!?!」

「……べっ別に、やましいことはしてない! よよ夜這いなんかしてない!!」

「いや夜這いはしてるでしょーが!」

「つつつまり、それ以外に変なことはしてない、ってことです……ちょこっと、事故があったくらい……」

「その事故が気になる!!」


暴露し終わると、私は赤い顔を紛らわすようにして、ココアに口をつける。あちっ、あつ!!


私も思わず舌を出すと、ひなたが冷たい視線を向けてきた……いや、わざとじゃないんだって!!


「んでー? 変なこと、したんでしょ?」

「べ、別に変なことは、別に、別に……」

「怪しい、逮捕」

「ひーんっ!!」


別に、これまでのあれこれを思い出して照れるなんてことないし!! なんで斗真なんかにドキドキしないとダメなのっ!?


と、落ち着いたらしいひなたが、安堵の息をついた。


「そのことは後で追求するとして、弁明はしゅーりょーだね? ……次に、質問。ある?」



ひなたの振りに、私は小さく息を吸った。ある、ある……!!

私はひなたと同時に口を開き、



「「斗真(くん)とは付き合ってるの?」」



げっ、被ったああ、恥ずかしっ……!!

と、ひなたはあわあわと手を振る。


「わっ、私は、付き合ってない! ……残念ながら!」

「私だって、付き合ってないわよ! って、へえ!?」


残念ながらぁ!? なにそれ!? なに残念がってるわけ、ええ!?


も、もしや……。


すると、ひなたが照れながらも、少し呆れたようなため息を付いた。


「もしかして……天詩、気づいてなかったとか?」

「え、き、気づくもの!? 察せと! 察するものなのそれ!?」

「あちゃー、てっきり知ってるんだと思ってたよっ!」


なにそれ!? 

て、ことは……ひなたは……!?


と、ひなたは真っ赤になりながらも告げる。


「……私、斗真くんが好き、です!」

「ひやぁあああああっ!!」

「うるさーいっ!!!」


告白された気持ちになり、私は顔を覆ってごろごろと地面を転がり回る。


「そっ、そういう天詩はどうなの!! ええ? どうなんだい!?」

「ひぅっ……」


私は硬直し、ひなたはいたずらげに顔を寄せてくる。


「言っちゃいなよー、ほら! 認めるチャンスだよー?」


みっ、みみ、認めるチャンスぅ!? なにをぉ!!

私は真っ赤になりながらも、慌ててまくし立てる。


「ふ、ふんっ……す、好きか嫌いかで言われたら、好き、ってところね!! そ、それだけだからーっ!」

「うおっ、認めたぁ!?」


違うっ、嫌いじゃないってこと! 別に、好きって、別に! 変な意味じゃないからあっ!!

と、ひなたは、吹っ切れたような顔になり、ぎゅっと手を握ってきた。


「とにかく、誤解させちゃってごめんね……」

「私こそ、気まずい雰囲気作っちゃってごめん!」


ひなたはひまわりのような笑顔を浮かべ、私をぎゅっと抱きしめてくる。


「よ、よかったあ……このまま、天詩が部屋替えを希望したらどうしようって、友達やめられちゃったらどうしようって、不安で不安で……」

「うううー……ごめえん、ひなたああ!!」

「私もごめんん……ううーっ……」


二人で抱き合い、わあわあと感動の涙を流す。


……いや、泣き真似。いいシーンをぶっ壊してあれだけど。

心が泣いていた。うん、それ、その言葉よ!



――こんこん。



不意に、ドアがノックされ、私はよろけながらも立ち上がり、扉を開けた。

誰よ、いい時に……っ!


ドアを開けるなり、私は思いっきり顔をしかめる。


「げ」

「人の顔見てげ、はないだろ、堕天使……て、おい閉めるな!?」


今一番来てほしくなかったやつが立っていて、私はぱたんとドアを閉める。


「とっ、斗真くんっ!?」

「ええ。空気読みなさいよ、ざこ悪魔」

「なんだって!?」


くぐもった声が返ってくる。


「てか!! 男子は、女子寮に入ることが許されてないはずよ!? きも!!」

「それは、イケメンの力と語彙力を借りたんだ、ふっふ」

「……ああびっくりした、自分のことを哀れにもイケメンだって誇張してたのかと思ったわ」

「はあ!? 違え、隼のことだよ!」


「と、とにかく入れてあげたら??」


ひなたの声に、私は渋々歩を進め、扉を開ける。


と、しばらく部屋にいなかったせいか言葉を交わしてなかった、斗真の顔をつい凝視してしまう。

……久しぶりだからね、こうもかっこよく見えるのは!


「よ、用はなに?」

「……これ、返そうと思って」


差し出されたのは、絡まった赤色のハチマキ。……ああ、気絶した二人三脚の練習の時、持っててくれたんだっけ……そのあと、今日まで体育祭の練習もなかったし。


と、斗真が赤い玉と化したハチマキを解こうと躍起になる。


「あれ、こっちか? 絡まりやがって、ハチマキのやつ……」

「は、早くしなさいよ」

「わーってるって! ……よし、はい」


絡まった状態のまま持ってきたのが意味わからないわ……どうせ、ハチマキの存在に今気づいて、その足で来てくれたんでしょうけど……! 斗真のことだし、優しさはあるのよね……。

よれよれになったハチマキを渡され、私は恥ずかしくなり、そっぽを向きながらも受け取る。


「あ、ありがと」

「ああ」

「「……」」


「ねっ、ねえ斗真くん、なんでわざわざ女子寮まで入って来たの!?」


と、話を続けようとしてか、ひなたが声を上げ、斗真に近づいた。


「い、いや、なんでって……」

「押入れから入ってくるのが恥ずかしかった? そういうことかな?」

「なっ、な?!」


せ、攻めすぎ、ひなたあ!!

と、後ろに手をやり、ひなたは腰を少し曲げ、斗真の顔を覗き込む。


「いーんだよ? 女子寮までわざわざ入ってくるのも大変でしょー? 押入れ、どんどんくぐってきちゃって、いいんだよ?」

「お、おいバカ……」

「そ、そうよ、別にいいのよ!」


私も頑張って付け加えると、斗真はますます驚いた顔をした。


「どどどうしたんだよお前ら……」

「どうしてもないわよ」

「うんうん、通常運転!」

「そこに俺を巻き込むなーっ!!」


こうして私たちの、いつも通りの日常が始まろうとしていた。







――でもこの時、重大な事をしでかしていたことに、私はもちろん、斗真さえも気づいてなかったんだ……んああああっ!!!!

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