4章10話 奇跡の心友……!!!


ʚ姫ɞ


「ぐ……ぐぬぬう……っ!」


一部始終を見ていた私は、美雨さんと隼様が拳をぶつけた瞬間、思わず声を漏らしてしまいましたっ!!


「こっ、拳をぶつけて!? 距離も近く、二人っきりですとっ!?」


練習をこっそり抜けてきて良かったのですっ、美雨さん、許しませんよお……。


今日はせっかく、隼様のためにポニーテールをして、ブラウンメイクに変えて、さらに赤チームなので赤いリボンを付けてたのに……美雨さんのせいで、全部台無しなのですっ!!


それにまず、隼様を狙うライバルが多すぎるのですよーっ?!!

全校の女子、そして特に天詩さん! それに、美雨さんが追加っ!


変な手は絶対に使いませんが……こうなったら、直談判しかないのです!!


私は茂みに隠れ、授業中、不穏な動きをしていないかじっくり観察します。




――数時間後、ようやくランニングを終え、生徒たちが荒い息をつきながらも挨拶をします。

見たところ、そんな不純な行為はしていなかったのですが……話していた事実が憎らしい……!!



「「ありがとうございました!!」」



そうして練習が終わり、美雨さんが一人で更衣室に入ったのを見て、私も更衣室に飛び込みますっ!! 

びっくりしたような表情を浮かべ、美雨さんが振り返りますが、もう遅い!


「……え」

「うりゃ!」


私は中から鍵をかけ、密室を作ります!!



「わ」

「美雨さん……ごきげんようなのですよ……」



と、美雨さんは、ぎらりと汗を光らせながらも、私にじとりとした視線を向けてきます。


「あなたは姫さんですね……あのときはよくぞ、天詩さんを虐めてくれましたね!? 許すわけないんですから!!」

「うっ……それは申し訳ないと思うのです……でも! 私も腹が立っているんです! それはもう、めらめらに!!」

「なんですか、どっかで転びでもしましたか? ドジですね」

「違うのですーっ!!」


美雨さんは、ジャージのチャックを下げながらも、怪訝げに私を見てきます。

下着と透き通るような白い肌が垣間見え、私は内心焦りながらも美雨さんを睨み続けますっ!!


「じゃあなんですか?」

「み、美雨さんあなた……隼様と、何をしてたのですかっ!?!?」

「わっ」


私が美雨さんに飛びかかろうとすると、美雨さんはさらりと横へ避け、すました顔で見下ろしてきます……これは、慣れてやがるのです!!


「何をしたか聞いてるのです……でないと、一生ここに閉じ込めるのです」

「別に、変な話はしてませんよ? てか、ここを密室だと思ってるんですかー? 上に窓がありますし、下に空気口だってありますが」

「う、うう……」


なななっ……本当にムカつくやつなのです!! 見た目と中身がそぐわない!!


「ふふ、悔しそうな顔、いいですね! かなり好物だったりします」

「へ、変な趣味なのです……っ!」


でも、少しわかるのです……なんて言えず、私は慌てて顔を引き締めます。


「もー、そんな顔しなくても、別に話しますって。どうやら私たちは似ているようですし」

「まあ、それは、そうなのです」


それは確かに感じてましたが……でっでも、隼様と話していた内容によっては地獄に落とすことになるのですからねっ!!


「いーから教えなさいなのです」

「しょうがないですね」


と、美雨さんは顔を寄せて、小声で続けました。



「実は、借り物競争のくじ引き」

「くじ引きい?」


目を丸くしていると、美雨さんはいたずらげに笑いかけてきます。


「はい。……隼さんと話し合って、少し、細工させてもらうことにしたんです」


ど、どういう……??

眉を寄せると、おかしそうに美雨さんが微笑み、さらに詳しく説明してくれます。


「くじ引きの内容は、代表委員が決めることになってるんです。それで、そのくじに……おっと、ここからは秘密です」

「なぬっ! 教えてくださいなのです!!」

「だーめ、です! これは秘密じょーほーといったやつですのでー。いい子なので、我慢ですよ?」


そんな気になる言い方されたら、後に引けませんのですよ!? それに、私をペットのように扱うなんて……っ!?


しかし、本当に何も言うつもりがないというように、美雨さんは口を閉ざしてしまいます。


うぬ……仕方ないです……。

私は顔をぐっと美雨さんに近づけます!


「じゃあ、お願いなのです。私と隼様がくっつくようなお題にしてくださいませんか!?」

「なんでですか! それにもう、隼さんは……おっと」

「なになになになになになになにですかっ!?」


目を泳がせる美雨さん。……これは、他の女の香りがするのですよっ!?


「うう……こればっかりは言えないのです」

「言わないと、そのきれいな髪を全部抜きますよっ!?」

「嫌ですっ! どうせ抜かれるなら、斗真さんに抜かれたいです!」

「ほえ……」


と、しまった、とでもいうようにして、美雨さんが口を抑えますが……もう遅いのですよ!!


そうですか、美雨さんは、斗真さんを……へえ、ふうん、なら安心なのですね!!


「そうですかそうですか、いやあー、それはそれは」

「い、言っときますけど、絶対に言わないでくださいよ……っ!」

「しょーがないのです、美雨さんに免じて守ってあげましょう」

「んむう……」


これなら、友達になれそうなのです! 

私はますます美雨さんに近づき、まくしたてますっ!


「先程、髪を斗真さんになら抜かれてもいいと言いましたね!! 私も、隼様になら抜かれても許すのです!!」

「私もですっ! それに、つい斗真さんにリードを付けてあげたくなります」

「わかるのです、私のものにしたいのですよお……。できれば同じ部屋で過ごしたかったのです」

「同じくですっ! そうなったら……」


「「隠しカメラ、盗聴器をしかけ、髪の毛をとって、おかえりなさいをします!! ……えっ!?!?」」



声がかぶり、私たちは同時に絶句します……どっ、どういう!? 同じことを、同時に!?

と、同じく息を呑み、固まる美雨さん。



「っ、わ、私たちは、想像以上に同じ感性だということが分かりましたよ……」

「は、はいなのです……」


こんな、世界に二人といないだろう奇跡の心友……!!!

私たちは目を輝かせるなり手を取り合い、興奮しながら飛び跳ねますっ!!



「仲良くなれる気がしますっ、こっ、これからよろしくお願いしますのです!!!」

「こちらこそですーっ!!!」

「また、語り合いませんか!? 今度、私の部屋にでも……あっ、天詩さんがいるんでした」

「うちにはひなたさんがいますっ」


その境遇まで同じ……奇跡、奇跡でしかないのですよ!!

鼻息が荒くなりながらも、美雨さんが少し声のトーンを下げます。


「二人、けんかしてしまったんでしょうかね……?」

「そんな気がするのです、二人がばったり会った時、天詩さん、わざわざ道を引き返してたくらいですし」

「なら……」


「「仲直り、させましょう!!」」



まっ、またかぶりましたっ!! 

こんな幸せなこと、隼様に出会った時の次に認定されるくらいなのです!!!



「ではっ、考えましょう! 二人で!!」

「おー、なのです!!!」



私たちは興奮、高揚しながらも、額を寄せ合って案を出し合いました。


「こんなのはどうですか?」



美雨さんの案に、私はこくこくと頷きます。



「よ、よおし、それでいきましょう! 少々雑かもしれないのですが……いいのです!」

「無事に仲直りができれば、二人でいっぱい語りましょうね!」

「はいっ、なのです!!」


私たちはもう一度手を取り合い、笑い合いました……幸せなのです、このようなおおらかな心をつくってくださった隼様と、神々しい美雨さんに会えて、幸せなのですよっ!!






――後で、私が更衣室を閉め切っていたために、女子たち全員が着替えられないという大問題が起こり、当然先生に呼び出されたのですが……。


美雨さんの顔の広さと巧みな話術で、あっさりと許されてしまいました! 持つべきものは、心友ですっ!!


私はその後、作戦通りに進めるために、急いで部屋に戻りました。頑張れ私、なのです!





ʚ天詩ɞ





「もう泊めません! でてけー、なのです!!」


体育祭練習後、風環さんの部屋に帰るなりいきなり風環さんから告げられ、私は面食らう。


いっ、いきなり、なに!? 昨日は普通に泊めてくれてたのにっ!?

しかも、ひなたと出くわすかもしれないじゃん……それは気まずいっ!


「お、お願い……あと一日だけ……」

「許さないのです! そういって、明日も同じことを言うつもりなのですね?」

「んぐっ……」


た、確かに、そろそろ真実を知りたい……それに、ひなたと話せないのは、本当に寂しい。


だけど、事実を知ることが、怖いんだよっ!! もし、「斗真くんと付き合ってるんだ、実は」とか言われたら……でも、実際そうなんだろうしさあ!!


「いいから、頑張れーなのです! 荷物はまとめておきました!」

「ええぇ!? そっ、そんなに迷惑だった、ごめん!?」

「ち、違うのですよ! あああ、許してください!」


と、焦ったようにしてわたわたとしながらも、風環さんは私を部屋から追い出すっ!


「え、え、ええ……」

「詳しい事は、ひなたさんと仲直りした時に教えてあげますので! とにかく、頑張ってください。寄り道せず自分の部屋に帰ってくださいよ!! 約束です!」

「ちょ、ちょ!?」


ばたんっ!! と扉が閉められ、私は呆然として立ち尽くす。



へ、部屋に? そんなの、怖すぎるじゃない!!


でも、他に行く当てもなく、私は重い足を引きずって長い廊下を歩く。


と、廊下で群れていた女子たちにぎょっとされる。


「天詩様、風環さんの部屋から出てきたあ……!? 二人、仲良かったっけ?」

「最近、よく風環さんの部屋から出てくるよね……ひなたちゃんはどうしたんだろ?」

「……まさか、喧嘩とか?」


ちっがーうっ!!!


と突っ込みたいのを慌てて抑え、私は唇を噛んだ。


喧嘩とすら呼べない、すれ違い。

いっそ、喧嘩してたんなら、きっぱりできたのに。


「……よしっ」


こんな曖昧な関係、全然楽しくないし!!

ひなたに話したいことだって山ほどある!


……けど、心の準備が全然ダメだあ……。



と、久しぶりに私たち部屋が見えて、胸がきゅっとしまる。

懐かしい、この感じっ! たった数日でも、こんなにじーんってくる……。


「……よし」


私は小さく息をつき、ラストの一歩を踏み出す。

大丈夫、ただ部屋に入るだけだし!! ひなたは美雨の部屋にいるし、全然大丈夫、ね!



「「…………っ!?」」



目をつむってドアノブに手を伸ばすと、同時にあたたかい指が手に触れ、びくっとする。


がばっと顔をあげると、



「っ、て、てんしい……??」

「ひ、ひなっ……!?」





目を極限まで見開く、ひなたと目があった……っちょ、ちょちょ、こ、心の準備がああっ?!!!?!!

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