4章9話 斗真くんはみんなで等分できない、と……!


ʚひなたɞ


「って、なんなのーっ!?!?!?!?!」


斗真くんがいなくなった瞬間、私は首をぐるんと回して絶叫する!!


なっ、お姫様抱っこっ!? 女子の夢じゃん!! なんでええ!?

羨望と嫉妬がぐるぐると渦まき、私はグラウンドの砂埃りに目を凝らしながらもしゃがみ込む。



「わっ、私だって、お姫様抱っこしてもらいたいーっ!!!!!」

「とうとう狂いましたか」


後ろから冷めた声が聞こえ、私は涙目で振り返る。

と、あきれたような顔をして、美雨が私を見下ろしていた。


「今から練習ですよ? ひなたさんは障害物レースですよね? 何やってるんですか」

「美雨うううぅぅうう」

「いやーっ、絡みつかないでください、気持ち悪いですーっ!!!」


今こいつと関わらないでおこうオーラを勘で感じ取り、私は反射的に美雨に抱き着くっ!


「聞いて、聞いて聞いてっ!! 逃げないでっ!!」

「わっわかりましたから! 逃げないので、離してくださいーっ!!」






――こうして、私は美雨を引っ張り、自動販売機のそばのベンチに座り込んだ、よし!



「で、何ですか? あと顔やばいですよ、しぼんだ風船みたいな。いや、雑巾……?」

「毒舌っ! 顔とセリフが一致してないんだってば!」

「よく言われます。家族とかに」

「なら変えようよ!? 中身無理ならせめて外見変えて?」


童顔にさらさら黒髪……普通きゅるるんヒロイン系でしょうがっ!

毒舌系なら、風環さんみたいに派手じゃないとさぁ……!


「無理です、私、この髪と顔に自信持ってるんで!」

「あっそお……」


嬉しそうに毛先をつまむ美雨。

私はそこで本題を思い出し、慌てて美雨の肩を掴んだ。


「それより聞いてっ!! 天詩がっ!! 斗真くんに、お姫様抱っこされてたのっ!!!!」

「ちょっと天詩さんやってきますね」

「殺るに聞こえるからやめて!!」


怖いよっ!! あふれださんばかりの殺気!!

美雨は目をらんらんと光らせ、私を睨みつける。

キャラ崩壊の危機、てかもう崩壊してるし!! 優等生感はいずこへ?!


「だってそうでしょう? だから私に教えてくれたんですよね? 報告ありがとうございます」

「ちがうっ!! ただ、話を聞いてほしくてっ」


すると、美雨が地団太を踏み、ばたばたと暴れだす。


「いくら友達でもペットでも! 斗真さんに、お、お姫様抱っこなど、許すまじき出来事っ!!!!!」

「そ、そうなんだけど……私も、お姫様抱っこされたい! って事なだけで……許すとか許さないとかそんなんじゃ……」


なんかしどろもどろになっちゃうんだけど!? 私相談する側なのに!! てかまず、美雨に相談するのが間違ってたかも……。


と、正気に戻ったのか、美雨が目をぱちぱちとさせながらも熱を冷ましていく。


「確かに……私も、お姫様抱っこ、されたいです……」

「美雨はどちらかというとかつぐ側というか」

「何か言いました?」

「言ってないです」


つい美雨が、斗真くんを犬を抱くようにしてかついでいる所を想像してしまい、私は笑いを堪えるのに必死になる。


と、美雨ががばっと身を起こし、嬉しそうに目を輝かせた。


「私、いいこと思いつきましたっ!」

「へ? どんな?」


すると、美雨が自信満々にほほ笑んだ。


「それは、体育祭当日のお楽しみ、です! 私には、告白も待ち構えてますし? ハチマキも渡さないとですし……ああ、体育祭が楽しみになってきましたーっ!」

「こっ、告白……」


そうだった、美雨、告白するんだった……。


私は一瞬落ち込んだけど、案が浮かび、すぐに顔をあげたっ!


「は、ハチマキ!!」

「え?」


ハチマキ……斗真くんに、わ、渡しちゃうっ!?

いいよね? 体育祭くらい、勇気出さないとねっ……よし決めた!!


と、心を見透かしたようにして、美雨がじとっとした瞳を向けてきた。


「まさか……斗真さんに、ハチマキ渡す気ですか?」

「うっ、うん!」


頬を赤らめながらも頷くと、美雨がむっと頬を膨らませた。


「渡すのは自由ですけど、交換するのは私ですよ?」

「いーやっ、私っ!」


睨みあっていると、ふとイベントの詳細を思い出し、私は恐る恐る美雨を見つめる。


「……そういや、一度渡したハチマキって、返された場合も含めて、それ以降交換できないんだっけ? でないと、恋愛の神様が、自分から大切な人を離してしまう、とか!」

「らしいです。みんなで仲良く交換、とかはできないってことです。それに、取り消しも不可、と」


じゃあ、斗真くんはみんなで等分できない、と……!

私、美雨、それにもしかしたら天詩……分けれないよお!!


と、美雨が意気込んで拳をつくる。


「私が一番初めに渡しにいきますっ! で、交換しちゃうんです!」

「でも、一度交換を申し込んだら、それ以降誰とも交換できないんでしょ? 恋愛の神様が怒っちゃうとか」


あーっ、恋愛の神様、めんどくさいっ!! いちいち怒らないでよっ!!



と、少し思いつき、私は辺りを見回してから声を潜める。



「でもさ……恋愛の神様にバレなかったらいいんじゃない?」



と、美雨がバカにしたような目を向けてくる。


「神様は神様なので、なんでもお見通しなんじゃないですか? ……てか、単純バカですよね、ひなたさんって。そういうの信じるタイプですか」

「だって、怖いじゃんっ! 本当にそうなったら……嫌だあっ!!」


神様はすんごい力を持ってるんだから!! 実際、占いが当たったことも数え切れないくらいあるし、おまじないだって効くし!!


「お守り常備してる系ですね」

「バレたぁ!?」


リュックや筆箱に五個くらい、幸せのお守りつけてるの見られたかな……?!


「まあ、それはそれです! ……結論から言いますと、ハチマキの裏に名前が書かれてるので、証拠は一発で残ります」

「げ」


慌てて頭に付けたハチマキを裏返すと、確かに『横山ひなた』とくっきりと記されていた……ダメじゃん!!


「じゃ、正々堂々といきましょう!」

「あ、あの、交換はできなくても、受け取ってもらうことはできるもんね?」

「はい。でも、大切な人と交換する、ってのがイベントのメインですから!」


た、確かに……うううっ、頑張らないと!!


「そろそろ授業が始まっちゃいますっ!! 早く行きましょう!」

「わっ、そうだったぁ!?」


転びそうになりながらも駆け出すと、美雨がちらりと振り返った。



「……天詩さんと、早く仲直りしてくださいね?」

「……う、うん……」


こればっかりは、勘とかじゃどうにもならないよお……。

でも、天詩と話せないのはめちゃくちゃ寂しいし……早く、話しに行かないと。


「ありがと、美雨」

「別に大丈夫ですしー」

「もー照れちゃって」

「照れてないですっ!! 縛りますよ!!」


美雨の不器用なやさしさに心をあたためながらも、私はグラウンドへと飛び出した。



全部、思い通りに言ったらいいな……うん、お守りたちと恋愛の神様が守ってくれるし、大丈夫かっ!!






ʚ黒花ɞ






「遅れましたっ、ごめんなさい!」


私が選んだ借り物競争のグループに駆け込むと、先生が優しげな瞳を向けてきました。


「ああ、黒花さん。珍しいね、大丈夫ですよ!」

「ありがとうございます!!」


ま、猫をかぶってるっちゃーかぶってるんですけどね……バレたらまずいので、私は平然とした顔をつくって見せます。



「わ、黒花さんだ、借り物競争参加するの?」


と、後ろから、少女漫画曰くいけめんぼいす――略してイケボの持ち主が、きらきらスマイルと共に話しかけてきました……これは!!



「なんですか、学年首魁のライバルさん」

「首魁とは失礼だなあ、でもライバルってとこはあってるねー、中間2位さん」

「ばっ、バカにしてますか!? 3位のくせに!!」

「わあ怖い」



私のライバル、隼さんじゃないですかっ!?

私が敵意丸出しにしていると、相変わらずにこにこと笑いかけてくる……むかっときます!


「でも、黒花さんが借り物競争とはねー。かぶるとは思ってなかったよ」

「あんまり気安く話しかけるとはっ倒しますよ」

「僕、謎に嫌われてるんだけど?」


日岡さんだって、僕の事避けてるみたいだし……と隼さんが不服そうにしますが、私は無を貫きます。


「冷たいねー」

「あなたは風環さんにでも愛を乞えばいいじゃないですか」

「大丈夫、少なくとも、借り物競争のみんなは僕の味方らしいし?」


ね、と問いかけると、先生が説明中だというのに、みんなが顔をがばっとこちらに向け、目をハートにしながら頷きます。

ある意味ホラーで、私はびくっと身を震わせる……だから集団は嫌いなんです!!


「そうやって、気を許した人にだけ本性を見せるあたり、ずるいですね。計算高くてやってられません」

「まあまあそう怒らずに」


こそこそと言い合っていると、先生が高らかに声を張り上げました。



「では、借り物競争のくじは、代表委員が作ってくれるので、私たちはランニングをして、運動力を徹底的に伸ばしましょう!」

「「「はいっ!!」」」


げっ、聞いてません! ランニングなんて、最悪じゃないですか……!!


私は集団に押されるようにして校庭をぐるぐると走り始めます……こんなことなら、違う競技にするべきでした……!!


すると、余裕そうな表情で、隼さんが私の横に並びます……くっ!!


「か、からかってるんですか……はあはあ」

「まさか。……それより、話したい事があるんだよねー」


私が息も絶え絶えになっていると、隼さんはスピードを加速させますっ!?


「体育祭で、斗真と一緒に話す時間……欲しくない? あと、借り物競走、斗真と近づきたくない?」

「ほっしいいいですっ!!!!! 近づきたいですーーっ!!!!!」


私は息が辛いのも忘れて猛ダッシュ、勢いをつけてトップに躍り出た隼さんを余裕で通り越し、慌ててスピードを落とします……斗真さんと話せる時間、ほしいですっ!! それに、借り物競走でいちゃいちゃですと……!!


「これが恋の力かあ、凄い」

「あえて触れてませんけど、なんで好きな人バレてるんです?」


恐るべしイケメン野郎です……この様子じゃ、私が体育祭で告白する予定なことも知ってそうです……。


「いやーだって、黒花さん、斗真のことになるとすぐ声が大きくなるからね。それに、態度もあからさま」

「いっ、いーんです! 愛の強さです!! それより……」


私はぐいっと隼くんに顔を寄せ、目に力を込めますっ!!


「体育祭、それに借り物競争で、斗真さんに近づけるチャンス、ですと……?」

「怖い怖い、でもその愛情は羨ましいねー」

「きっもちわるい……です」


女子をたぶらかしてる感じ、それにチャラ男感が半端ないです……正直に言って、気持ち悪いですっ!!


「大丈夫、これは限られた人にしかしてないし」

「その限られた人の中に私を入れないでください。私をもっと大切にしてください」

「まあいつかねー。それよりね」


お互いにヒートアップしてるからか、走るスピードが速くなり、いつの間にかランニングしている集団から半周も離れていて、話を聞かれる心配がなく安心します……それより早く教えてくださいっ!!


「はやくはやくはやく」

「その前に、僕にも協力してほしいんだー。……日岡さんなんだけど」

「天詩さん、ですか」


隼さんはさらりと天詩さんの名を出し、薄く微笑んでみせます。


「僕、体育祭の日、日岡さんに渡したいものがあるんだ。だから、協力してほしい」

「ハチマキですか」

「なっ、別に違うかもよ?」


慌てたのか、走るペースが乱れ、私は呆れます……風環さんというお姫様がいるのに、天詩さんにまで手を出すなんて……やっぱり気持ち悪いです! それに、大切な友達を汚してほしくないです!!


「と、とにかく、協力してほしいんだ。それに、ウィンウィンでしょ? 黒花さんにとっても悪い話じゃないと思うんだ」

「うー……わかりました、乗りましょう」


正直、体育祭のいつに渡そうか悩んでましたし、借り物競争が楽しくなりそうですしっ!

つまり、協力しても損はなさそうですし、乗ってみます……!! 隼さんの頭の良さについては信用してるので、大丈夫だと思います。



「よし。あ、ちなみに、僕のことについては、他言無用だからね?」

「私もですよ! プライバシーってやつです」

「おっけー。黒花さんのことは信用してるからね。……じゃ、どうするかなんだけど……」







二人がささやきあう声は、誰にも届かず、砂埃に紛れて消えてしまう。



やがて二人は顔を上げ、拳をぶつけ合った。








「分かりました……最高になる予感です!!」

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