4章8話 てっ、天使命令よ!!
ʚ天詩ɞ
「では、第一回、体育祭練習を始めます!」
――朝。
とうとう、体育祭の練習がスタートした……!
私にとっては、そんな状況じゃないんだけどね!?
「なんだ浮かない顔して。いつものニセ天使スマイルはどこいった」
と、隣で三角座りをしていた斗真が、嘲笑うように、でも少し優しさを含みながらも訪ねてくる。
――昨日、ひなたと何してたの? そんな顔を向けてこないでよ!!
……って言えたらいいのにね、私にその度胸はない。
うーっ、ダメダメ、切り替えなきゃ……!
私は振り切るようにして頬をぱんと叩き、斗真を直視する。
その頭には、赤色のハチマキ……そう、体育祭のチームが発表されたの!!
私も、斗真と同じベアだから、当然赤。
ちなみに、ちらりと見たところ、ひなたと美雨は白、隼くんと風環さんは赤!
……そういや、ひなたは美雨の部屋に泊まってるらしい。おんなじことを考えてたとか、どう反応すればいいのよ!!
と、我に返り、私は斗真の横腹を肘でつつく。
「うるさいわね、しかもニセってなによ!!」
「事実だ」
「ううー、二人三脚のペアがこんな嫌味悪魔なのは最悪よーっ!!」
「お前が言い始めたんだろ!!」
「では、早速二人三脚のペアに分かれて、準備運動をしてください!」
「ええーっ、天詩様と一緒にできると思ってたのに……」
「先生、合同じゃだめですかっ!?!?」
と、私の方をちらちらと見ながらも、二人三脚グループのみんなが抗議している。
「ダメでーす、ペアで行いましょう! ……ペア同士の距離も近まりますし、ね??」
はぁ!?!? ちょっと先生、こっちに向かってウィンクしないで!!
「じゃ、やるぞ」
と、顔を赤くしている私をちらりと一瞥し、斗真がさっさと屈伸を始めてしまう。
もうっ、分かってるわよーっ!
私は屈伸を始めながらも、話題が続かずに、私は慌てて話を振る。
えーと、斗真に起こった変化……んー、あ!!
「学校配布の、抹茶色のジャージ……斗真にしては、意外と似合ってるじゃないの」
「は……はあ??」
ぎゃーっ、やっ、やっちゃったよお!! つい、目に入ったものをそのまんま……っ!!
慌てる私を他所に、かあっと顔を赤く染め、斗真が私を睨んだ。
「ななっ、なんだ急に! しかもジャージに似合うとかないだろ!!」
もっ、もう後には引けない!! 私はぎゅっと眉を寄せてみせる。
「わ、私も言ったんだから、言いなさいよ!!!」
「はああ!?」
……ひゅっ。
私は小さく息を呑む。もう戻れないわよ……!!
「ジャージ、似合ってるって、言いなさい」
「なっ、なんで言わないといけない!!」
「私が恥をしのんで言ったからよ! これは……そう、てっ、天使命令よ!! 言いなさいっ!!」
「おいむちゃくちゃだぞ!?! てか天使命令ってなんだ!」
「もし言わないと……あなたのパンツをグラウンドのど真ん中にさらすわよ!!」
「最低だあっ!!!」
ふんっ、こうとなったら言わせるしかないもんね! ねっ!?
「ほら、どうするの?」
すると、追い詰められた斗真が目をそらしながらもぶっきらぼうに言う。
「……あ、あー、ジャージ、いいと思う、ぞ」
「で?」
「だから、ジャージ、いいと思うって!! ……それに今日は、ヘアピン、つけてるんだなー、とか」
「~~~~~~~っ!!!」
ななななっ、なななっ!?!?
私は頭に手を這わせ、ちょこんとついたヘアピンに指を触れさせる。
そ、そういえば、今日は風環さんからヘアピンを借りたんだっけ……??
「……その、似合ってると、思うけど」
「…………」
……ううう……!!!
うあああああぁぁぁあーんっ!!! 反則だよーーーーーーーーっ!!!
「もっ、文句があるなら言えよ」
「な、なんにもっ」
ダメダメ、ほんとにダメ!! 無理!! 無理だよーっ、耐えられない!!!
と、ジャージの袖で顔を覆っていると、隙間から、ちらっと先生と目が合う。
「青春だねぇ……」
「…………っ!!!」
はっ、恥ずかしすぎるでしょ!! この先生、どんだけ観察してるのよーっ!!
「はっ、進めないと。おーいみんな、準備体操は終わったね! 二人三脚の練習始めるよー!!」
「「「はーい!!」」」
「は、はぁーい……」
私は頬を両手で覆いながらも、先生の方へと近づく。
「じゃ、ペアのどちらかのハチマキで、ペア同士の足を結びましょう」
「お、お前のを使えよ」
「わっ、私の!? 汚れちゃうじゃない!!」
「俺のだってそうだ!!」
「じゃ、じゃんけんで!!」
「「さいしょはぐーっ、じゃんけんほいっっ!!」」
拳を向けると、斗真はピースをして固まっている……勝ったぁ!!
「じゃ、遠慮なくー」
私は斗真の頭に手をやり、するするとハチマキを取る。
そして、二人の足を結ぶんだけど……これがもう、照れるっ!!
少しでも動くと、手が斗真の足に触れちゃいそうでさあ……!!
「おい、もたもたすんなよ。俺がやる」
「わ、わっ!!」
急に斗真がしゃがんで、びっくりして私は尻もちをつき、咄嗟に斗真の足首を掴んでしまうっ!!
「っ、っ、っ!!」
「ご、ごめっ!! わああっ!!」
と、さらに私はひっくり返ってしまい、斗真もそれにつられて引っ張られ――。
「「…………っ!!!??」」
ざざっ!! と斗真の手がじゃりを押し……顔が、息遣いが、すぐ近くに。
そして、体中にかかる体重とぬくもり。
「……わっ、わりっ……」
……の、乗っかられてるっ!? ゆ、床ドンっ!?!?
「やっ、いやあぁ!?」
「う、動くなって!!」
足が中途半端に結ばれてるから、下手に動くと……ますます体に触れられちゃうっ!?!?
「あちょっ、ここでそれはさすがにやりすぎだよー!」
「せっ、先生、た、助けて……!!」
と、慌てたようにして駆け寄ってきた先生が、状況を読むと、にっこりと微笑んだ……すんごく嫌な予感しかしないよお!?
「うんうん、起き上がるのも、二人三脚の練習! 頑張ってね!!」
「「先生ーッ!?!?!?」」
先生に見捨てられたぁーっ!!! 斗真がっ、近い近いっ!!
「っとにかく、起き上がるぞ。せーので腰を起こす」
「えぇっ、わ、わかったっ」
「せーの」
あっ、タイミング早かったかな……ぎゃーっ!?!?!?
「「~~~~~っ!!!!!!」」
さっと頬と頬がかすめ、その焦りで体重を支え切れずに、私は斗真に抱き着いて、二人で転倒する。
うぅ、ううううううあああーっ、最悪だああーっ!!!
端から見たら……かなり、まずいよおーっ!!!
「と、とにかく、うらああーっ!!!」
斗真は、掛け声とともに跳ねるようにして身を起こし、どてんと腰を地面におろす。
そして、私の背中に手を回し、ぐいっと持ち上げてくれる……ふあっ……。
「て、天詩ーっ!?!?!?」
も、もう、ゲージが、空っぽです……。
私はくらりと後ろに倒れ、すうっと意識を失ったのだった。
ʚ斗真ɞ
――ま、まずくないか、ちょっとこれ!!
天詩がくたっと倒れたのを見て、俺は慌てて足に結ばれたハチマキをほどき、それから少し迷う。
……抱っこ? おんぶ? 引きずる??
個人的には後者がいいのだが、それは悪魔すぎる。
でも、他の選択肢だと、後で天詩に何を言われるか……ああもう!
俺は思い切って、天詩の腰と足に手を回し、勢いをつけて立ち上がる。
「と、斗真くん!? さすがにお姫様抱っこはやりすぎだよーっ!?」
「先生、天詩のやつが意識を失ったんで、保健室連れてってきます」
「い、いしきーっ!?」
と、先生が目を白黒させ、俺と天詩を交互に見る。
「頭は打ってないし、とにかく保健室行ってきます」
「あ、おおっ、ありがとう!?」
俺は天詩を抱えなおし、保健室へと急ぐ。
「……ん……?」
と、天詩がうっすらと目を開き、ぼんやりとした視線を俺に向けてくる。
「え……?」
「あ、目、覚めたのか……うっ」
気が付けば、俺にお姫様抱っこされてるとか……天詩にとっては、地獄絵図なんじゃないか!?
「は、え、ええぇ!?」
「ごめっ、すぐおろす!! おろすから殴るなよ!!」
「あっ、いやダメ、おろさなくっていい!!」
はあ??? こいつは何を言ってるんだ??
と、天詩は慌てたように両手を振る。
「そのっ、ま、まだ調子が回復してないから、おろさないで」
「そりゃそうか、ごめん」
なぜか赤い顔をしてる天詩を腕の中に、俺はとりあえず保健室へと足を向かわせる。
校舎の中に入ると、ちょうど外へ出ようとしていたひなたと出くわした。
「え、へっ、へえぇえ!?」
「ああ、ひなた。これは色々とあってな」
「そっ、そうなんだ!? でも……っ、え、ええ!?」
と、なぜか目をつむって意識がないふりをする天詩を見て、ひなたがしばらく固まる。
「どうした? こいつは早く保健室に連れて行かないとで」
「はっ、そ、そうだよね!! ごめん!!」
そう言うと、ひなたはジャージを翻して、校庭へと駆け出していってしまった。
「……ううう……」
「どうした?」
両手で顔を覆う天詩を怪訝げに見ると、天詩は俺を儚げな瞳で見る。
が、こらえたようにして、開きかけた口を閉じた。
「……やっぱなんでもない」
「?? そうか」
天詩が、そしてひなたがどんな感情を抱いているのかを知らずに、俺は保健室へと足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます