4章6話 夜這いなんかでもないよねっ!?

ʚひなたɞ


「ひなたさん、ものすごく足速いね!! リレーが頼もしいよ!!」

「あ、ありがとうございます!!」


空が茜色に染まった時間。

今日は、リレーのアンカーだけが呼ばれ、一日中練習する日!!

先輩から褒められ、私は汗を頬から流しながらも、にっこり微笑んだ。


小さい頃から運動は大好きで、専らアウトドアな私! どれだけ体育祭を楽しみにしていたか!!


「それにしても、うちの学校は特殊だよね―。種目決めの後に、赤白のチーム決めがあるなんて」

「ですよね……そっか、チーム決め、ですか」


そう、うちの学校は色々と変わってて、なぜか種目決めの後に、赤白どちらのチームになるかが決まるんだ!

多分、そうすることで運動神経をはかってるんだと思うけど。


「ひなたさんは、どっちがいいの? 誰となりたいとか!」

「えーと」


私は……斗真くんと一緒のチームになって、もっとお互いを知れたらいいなあ、なんて思ってたりする。

もちのろん、天詩と美雨とも一緒になりたいっ!!


でも、美雨の積極性に悔しくなったり、天詩と斗真くんの仲の良さに嫉妬したり……ああ、乙女心ってほんとに複雑だあ!!


待っててねとか、意味わからないこと勝手に妄想したりして、夢見る少女になってる気がするよっ!! 少女漫画でもないのに、誰も待ってないっての!! あー!!


「えっと……ひなたさん?」


と、地団駄を踏み始めた私を見て、若干引きぎみで先輩が声をかけてくる。


「あっ、すみませんっ!?」

「い、いいんだよー。えーと、じゃ、次の練習もよろしく!」


と、先輩は『やばい後輩と関わってしまった』とでもいうように、慌てて去っていってしまう。


あー、空回りばっかだ! どーしよ!!


頭を抱えていると、校門の外から、四人の人影が現れた。



「隼様、次はどこにデート行きたいですかっ? 次は、二人っきりで行きたいのです!」

「そうだね……ちなみに、このデートは、姫がテスト勉強を頑張ったご褒美なんだからね? 姫、お疲れ様」

「んあー、幸せなのですーっ!! もっと頑張っちゃいますのです!!」


あれは……私の天詩を虐めてた、地雷女、風環帝姫じゃないかっ!?

むあーっ、許すまじ!! 罵倒!! べーっだ!!!

警戒心むき出しで、私はその様子を観察する。


「にしても、ダブルデートは考えたね。実際楽しかったしねー」

「はい……隼様がどう思うか、少し不安でしたけど」

「大丈夫だよ。……やっぱり優しいね、姫は」

「だからっ、そういう思わせぶりな態度はよくないって言ってるのですっ!! でも好きです!!!」


ああー、はいはい、いちゃいちゃはいいの! なんかすっごくムカついてきた!!

私が頬を赤らめていると、その二人に続くようにして人影が現れ、私は目をむく。


「あー、今日はさっさと寝よう。眠い」

「ええ、誰かさんのせいで」

「俺は何もしていない! いいとばっちりだ!!」

「誰もあなたとは言ってないけどー??」

「うぁあ!! そういうとこが悪魔なんだよ!!」

「本物の悪魔に言われたくないわよ!」

「うるせえ堕天使!!」


てっ、天詩と……斗真くん!?!?


グラウンドで固まる私をよそに、二人は親しげに校舎へと進んでゆく。


「お二人とも、遅いのです! 早くしないと、夜食はなしになってしまいますよ?」

「「げっ」」


四人は、固まる私をよそに、校舎の中へと駆けていってしまった。



……ダブルデート、って言ったよね??



四人……並楽くんと、風環さん、天詩、斗真くん。



組み合わせは、一通りしか考えられない。





「なっ、なんでえええぇぇええっ?!?!?」


私の絶叫は、グラウンドだけではなく、校舎にまでもこだましたという。




ʚɞ





「あー今日は疲れたわ。ひなたも一日中練習だったんでしょ? お疲れ」

「ん、うん、ありがとー……」


夜食を済ませ、部屋に戻ると、天詩が普段と変わらないような顔をして話しかけてくる。

精神的に辛いから、話しかけないでっ!! ううう!!!


「どうしたの? 顔色悪いわよ?」


そう言うと、天詩は私の顎を指で持ち上げ、こてんと首を傾げる。……反則! 反則だあ!! かわいすぎるよっ!?


「だ、だいじょーぶっ! 元気!!」

「そう??」


と、ほっとしたようにして、天詩が顔を緩める。天詩ファンに知られたら、暗殺されかねないな……。


「えーっと、天詩は今日何してたの?」


と勢いあまって尋ねると、天詩が顔をばっと赤らめる。


「き、今日は……少し、でかけてたのよ」

「ふうん、そう……」


誰と? となぜ聞かない! デート? となぜ言えない!! 私の意気地なしっ!


と、天詩の押入れから、僅かな生活音が聞こえ、私はつい意識してしまう。

あの穴のこと、天詩は知ってるのかな? その奥に、斗真くんがいること……。


「ねえ、あの押入れ……」

「…………っ!?!?」


そこまで言いかけると、天詩が今度は顔を真っ白にして、目を見開いた。


「あ、あの押し入れが、何?」

「えっと! あ、あの押し入れ、前Gが出たよねー、とか、あはは」

「あー、そ、そんなこともあったわね」


どうにかして誤魔化すと、天詩は愛想笑いを浮かべ、軽くうなずいた。

あっぶない……でも、さっきの反応から……穴のことは知ってるの、かな?


なら、天詩が、穴をくぐって斗真くんに会いに行けたり?

夜、こっそり会えたり? 二人だけの時間? 空間??



「わっ、私、お風呂に入ってくるわ……ひなたは、先に寝たらどう?」

「っ、そ、そうだね……」


天詩が風呂場へと入っていったのを見て、私はうるさいくらいに鳴る心臓を抑え、ぎゅっと目をつむる。

しいんと静まる部屋。私の鼓動だけがいやにうるさく響く。




……いい、よね?

一回、入ってるんだし。やましくなんて、ないよね? 夜這いなんかでもないよねっ!?




――よし。



私は深呼吸し、天詩の押入れの扉へと手をかけた。


ぽっかりと開いた穴をそうっとくぐり、体当たりをするようにして、斗真側の扉も蹴破る!



「っとと……あれえ……!?」



入ったはいいものの、電気は消えていて、静まり返った部屋に、私はぽかんとする。

主不在!? どっ、どうしよう!?



慌てる中、ベッドから物音がし、私はゆっくりとベッドへと近寄る。



「ふえっ……寝てる……?!」


ベッドを覗き込むと、布団にくるまり、すうすうと寝息を立てる斗真くんの姿が!?


「こ、これは……いろいろとまずいね……」



去ろうとし、私はもう少しだけ、寝顔を眺めていたいという欲にかられる。

へ、変態とかじゃないよ!? 純粋な乙女心なんだから!!


私はそっとベッドに腰掛け、しばらくじいっと顔を見つめる。



「……意外とまつ毛、長いんだぁ……」


かっこよくて、どきっとして、心臓がきゅっと痛む。

私の初恋の相手のトウくんの、ぼんやりと思い出される顔が斗真くんと重なり、一つになる。


「……同一人物だったらよかったのにね」


それだったら、私は気兼ねなく、全力で斗真くんを好きになってた……ってのは言い訳か。

でも、この嫉妬のもやもやは紛れのない真実で、私の気持ちを正直に表している。


もっともっと斗真くんといたい。

これは、おかしい事なのかな? 浮気になっちゃう? 



「……でも、ここは一人なんだし。少しくらい、いいよね……??」



私は、衝動を抑えきれずにぎしっとベッドに乗りこみ、斗真くんに覆いかぶさるようにして、顔を近づけた。

はっ、恥ずかしい!! 私何してるんだろっ!! 勢いに任せすぎ!!!



でも、この時間を永遠に覚えていたくて、私はゆっくりと顔を近づける。

唇が近づいて、もう一センチもなくて―――。




――物音が響いたのは、その時だ。





「っ!?!?!?」

「ぁっ……!?!?!?」



私は銃に撃たれたように体を跳ねさせ、真っ青になりながらも後ろを振り向いた。





――押し入れから上半身を出し、天詩が驚愕の瞳で私を見ていた。

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