3章16話 また明日、同じ時間な

ʚ天詩ɞ


「ふあぁ疲れたっ! お風呂、どっちから入る?」

「じゃ、私先入ってくる!」

「いってらー」


斗真の部屋に侵入すると決めたからには、万全で行かないとね! あの悪魔さんの顔を赤くしてやるんだから……!


私はすこし長めにお風呂に入り、出てからはお肌のケアを十分にし、さらに体にクリームを塗ってうるつや肌をキープ!

髪にも念入りにオイルを馴染ませ、輝く髪を一層光らせるっ!!

んー、おろしてるだけだとつまらないから、緩めのポニーテールでもするか。


四十五分ほどかけてケアをして、ようやくお風呂場を出ると、ソファーに転がっていたひなたが絶句した。


「ちょ……っ、天詩、神々しすぎるっ! やめて、私を殺さないで?! 目がやられるよぅ!!」

「大袈裟ね……大したことはしてないわよ」


ただ、ちょこっと丁寧にしただけなのに……でも、効果はてきめん!


「殺人計画なんだね!? それとも心を奪う盗犯計画……」


両目を抑えてうなるひなたを置いて、私はベッドの上で足のマッサージを始める。


「あーひなた、私、夜は勉強する予定だから、先寝ててね」

「おまけに頭脳明晰、優秀ときた……やっぱり犯行予告……」


悶絶するひなたを他所に、私はこっそりガッツポーズ。

私は柔軟体操をしながらも、考え事をする。


……そういえばひなたに、斗真の部屋に繋がる穴、バレてる疑惑があったんだっけ……?

どうにかして探りを入れたいところだけど……あ、今日斗真に聞けばいいのか。


とりあえず、ひなたには寝てもらわなくちゃ困る!


「とりあえずひなたはお風呂入ってきなよ。今日疲れてるでしょ?」

「ああ気遣いもできちゃう……天詩、大好きだぁああ!」


むぎゅっと抱きしめてくるひなた。


――数十分後、ひなたがお風呂から出てきた。

すかさず、夜食のために買ってきたカレーパンをひなたにパス!


「んわぁっ」

「今日のご飯買っといたから、食べに行かなくてもいいわよ」

「ああ私、最高な彼女をもらって幸せだあ……」


ひなたの彼女になった覚えはないんだけど……?

でも、今夜のために買っておいて本当に良かった!


そうして、私も買っておいたチーズパンをほおばる。んー、最高……って、素直に堪能しちゃってた!


「ごちそうさまーっ!」

「歯磨いて寝な」

「うう、最高の嫁だぁ……」


なんか勝手に嫁にされてるけど、いいや。


「おやすみー」

「おやすみ、大好きー」

「うんありがと」

「適当だ……」


愚痴を言われた気がするけど……ひなたは相当疲れていたらしく、五分後にはすうすうと寝息を立て始めた。


私はその瞬間立ち上がり、教科書をわきに挟んで、押入れへ直行っ!


……一応、誤解を減らすために言っておこう! 

これは、夜這いではありませんっ!!


私は押入れを開け放ち、斗真の部屋側へと侵入! 

そして、爪を立てて斗真側の扉を、勢いよく開く。



「「…………え???」」


見えた光景の意味が分からなくて、私は目を見開く。



……一センチ先に、同じ姿勢をした斗真の顔。


お互いに固まり、視線を重ねる。

そういえば、綺麗な目をしてるわよね、斗真って。



……ん?



「っんわああぁぁあ!!!」

「いわあああぁぁあ!?!」


同時に悲鳴を上げ、私たちはずさっと距離を取った。


「ななななんでそこにいるの!! 変態! 変態!」

「お前、うるさい! ひなたが起きるだろ……」


ううっ、正論……。てか、いつの間にひなた呼びになってるのよ!!

なんていうのを頭の片隅に私は恥ずかしさで顔を赤くする。


「……とりあえず、こっちに着たらどうだ」

「えう……」


手を引っ張られ、私は勢いのままに斗真の部屋にダイブする。そして勢いに負けて、二人して倒れ込む。


……てか、斗真に床ドンしてるみたいになって、恥ずかしいんですけど! 


「……っ」


慌てて身を離し、私はとりあえず押入れの扉を閉じる。


「お前なぁ……何しに来たんだ、変態」

「わっ、そ、そういう変態悪魔はどうなのよ!!」

「俺は、押入れから教科書を取ろうとしただけだが?」


は、はあーっ!? それじゃ、私がただの変態みたいじゃ……っ!?


「なんだ、お前は何をしてたんだ? まさか、俺の部屋に入ろうと夜這いしてきたわけではないだろうなぁ?」

「は、はあ!? バカ言わないで! これは……偶然よ、事故よ事故!」


うう、恥ずかしすぎるし、言い訳もボロボロだぁ!!

そんな私を見て、にやにやとする斗真。くっ、悔しい……!


「こ、こう偶然なったわけだし、一緒に勉強、してあげないでもないわよ!?」


もうしょうがない! ここはこうするしか!


「偶然なら、なぜ教科書とノートを持参している?」

「き、気のせいよ……っ」


まずい、顔が熱い。やっぱりこんなこと、しなけりゃよかった……!!

そんな私を見て斗真は、ほんのり頬を赤く染めながらも、


「まあ……勉強なら、教えてもらうことに別にそんなに苦しゅうないが?」


……ふ、ふうん、素直じゃないの!


「しょうがないわね!! 特別の大サービスに、教えてあげるわ!」



うん。なんてツンデレなんだ。

後で客観的に思い出し、私はそう突っ込むしかなかった。



「じゃあ机、借りるわよ」

「うむ、やぶさかではない」

「あれ、椅子、一つしかないじゃない……」

「ああ、そうだな」


絶対に、立って勉強なんて嫌よ……!

私たちは同時ににらみ合い、そして、


「私が!」

「俺が!」


同時に、椅子に飛び込んだ。


「あ、あなたが譲りなさいよ」

「そういうお前がだ」


体が密着して、心臓が跳ねに跳ねるっ!!


「……私は譲らないから」

「俺も譲らん」


むぐぐ……!

こうなったら、無理やりにでも勉強を始めてやるんだから!


「じゃあ、何から始める? 社会でいい?」

「ああ、折り合おう」


斗真も譲らず、そのままを維持する。

くっ……! なかなか手ごわいわね……。


「俺は、社会に関しては弁慶の立往生なんだ」

「……さっきから昔の言葉、なんで使うわけ!?」


すると、よくぞ気づいてくれたとでも言うようにして斗真が胸を張る。

……その姿勢だと、ますます密着することになるんだけど……!


「ふふん、効いて驚け。この俺が、社会を少し勉強していたんだ!」

「斗真にしてはやるわね。私の足元にも及ばないけど」

「な、なんだと……」

「罰ゲームはあなたのためにあるのよ、大体100位になるのが条件なんだから」


すると、なにかを決心したようにして、斗真が教科書を開いた。


「俺、お前には負けないからな」

「よく言うわね……」


そこでちらりと斗真の横顔を見て、どきっとする。


気付かなかったけど……、さっきまでお風呂に入っていたのかな、しっとりとした髪が頬に落ちてる。


……なるほど、男子は水に濡れたらかっこよく見えるって本当なのね。


んああ!! かっこいいとは別に思ってないけどね?!(手遅れ)


「天詩、集中した方がいいぞ? でないと、俺があっけなく抜かすけど」

「っ、そうはさせないわ」


あ、危ない、勉強で負けるわけにもいかないし!!


……でも、斗真のぬくもりで、全く集中できないよお!! 

しかも、たまに当たる足にドキドキするし! どどどどうしよう!!



「もーむり! ギブアップー!!」


とうとう私は両手を挙げ、ギブアップする。

ノートには、いつの間にか落書きがびっしり! だめだこりゃ!!


と、斗真が頬杖をついて、私をにやりと見上げる。


「ふうん、俺にドキドキして、集中できなかった?」

「はあ!? なわけ!」

「心臓の音が聞こえてたぞ」

「んううわあああ!!!」


も、もう帰るっ! 心臓がおかしくなる!!


急いで押入れの前にかがんだ時、後ろから斗真の声がする。



「また明日、同じ時間な」

「ん、ええっ!?」


振り向かずに声をあげると、、斗真が声に笑みを含ませ、


「どーせ、明日もそうやって来るんだろ? なら、堂々としようぜ? 天使さんよ」

「~~~~~っ、全く、しょうがないわね!!」


私はそう叫ぶようにして言うと、押入れの中に潜り込んだ。


「ふん! おやすみ! 悪魔め!」

「はん、おやすみ、天使野郎め」


ばたん! 後ろ手に扉を閉め、私はその場に突っ伏した。



いろんな意味で、私は今日が命日かもしれない……!!

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