3章14話 「あの風環さんが……」「地雷系から清楚系になってる!?」


ʚ斗真ɞ


「た、ただいまあ」

「「天詩ーっ!!」」


俺たちが、天詩を今か今かと待っていると、二十分後ほどに青い顔をして天詩が戻ってきた。


「どう、どう、どうだった??」

「告白されちゃったりしました?」


告白だと? 

俺はぎょっとして天詩を見る。


と、それに気づいたのか、天詩は俺の反応に目ざとく気付き、


「あれれー、どうしたの悪魔さん? 聞きなれないワードに驚いているのかな?」

「い、いや! まさか! 俺だってそんな言葉くらい……」

「へえ、つまり告白されたことがある、と」

「……っ、まあ、そこそこ」

「「嘘ですね」」


二人から白々しい目で睨まれる。おい、言うなそれを!(小声)


「ふふん、まだ私が優勢のようね? ……ちなみに、隼くんには、なんとか言っといたから」


そう、ついでのようにして言い、天詩ははにかむ。

俺は咄嗟に、背中に隠していたペットボトルを天使の頬に当てた。


「んひゃっ!?」

「……これ、お前の好きなジュース」


天詩の帰りを待っていた時に、二人に言われて(というか脅されて)ジュースを買っておいたのだ。

ちなみに、俺のおごりである。あいつらは、一銭も献上してくれてない!


まあいい、天詩だって、珍しく頑張ってたんだし、な? 


「……なまたまごーやジュースだぁ……!!」


喜々としてペットボトルを受け取る天詩。



「なんか、イメージが違うよね」

「天詩さんならもっと、ソーダとかタピオカとか飲んでそうなのに……ギャップ萌えでしょうか……」


いや、萌えてないから。萌えないでしょ。写真映えもしなさそうなジュースだし。

なんて考えながらも、俺はある作戦に出ることにした。


「……おい天詩、買ったのは俺だ。礼を言え」

「ほんとにありがとう! ……はっ」


勢いのままに天使スマイルで言った後、天詩は俺の顔を見て硬直する。


この時を待っていたんだ……!

俺は悪魔スマイルを浮かべ、


「あれれー? お前の方が優勢だとか言って、あっけなく礼を言うんだ? ……それは、俺の方が上、ってことでいいんだな?」

「違……っ! う、上の立場だから、あなたみたいな下の立場の人を褒めて遣わしたのよ!!」

「じゃあその天使スマイルはなんだったんだ? とにかく、今日から俺が上ってことで」

「いいわけないでしょっ!? ふざけないで、しかもさっきのお礼は勢いで!!」


「はいはい、そこまでそこまでー」


と、ひなたが俺に抱き着くようにして飛び掛かり、ずりずりと距離を取らせた。


「もう斗真くん、天詩のこといじめちゃだめ、だからねっ!」


そう俺に抱き着きながらも、上目遣いでひなたが見つめてくる。

相乗効果か? 上目遣いって、こんなにかわいいのか……!?


「んむむう……」


顔を赤くする俺を見て、黒花が頬を膨らます。


「みんな、斗真さんから離れてくださいよぅ!! 元々、斗真さんは私のペットであり……!」

「なんで今更その話持ってくるかなぁ!?」

「もうペットじゃない、って話になったでしょうが!」

「むう……」

「……あれれ美雨、もしかして嫉妬してるのー?」

「ちちち違いますっ! し、嫉妬なんて、元ペットにしませんよ!」


三人がらんらんと言い争いを始め、俺はおろおろとする。こいつら、ついさっきまで仲良かったよな? なんでこうなるの?



と、修羅場が繰り広げられる中、女子の二人組が渡り廊下を渡ってきた。



「――それでさ、国語は完璧なんだけどね、数学がマジやばい」

「それな? そういや私、理科のテスト平均以下だったからさあ、もう理科につきっきりー」

「テスト、あと二週間でしょ? 頑張らないとー」

「二週間か、大詰めだね」



し―ん。

さっきまで言い争っていたのが嘘のように、三人が黙りこくる。


俺も、ひなたに抱き着かれたまま、ぴたりと硬直。


やがて、黒花がポツリと一言。


「……免除とか、効くわけない……ですね」


天詩をいじめから守ってました!! なんて理由、テストに通用する方がおかしい。

……俺の場合、黒花の二十倍ほど大丈夫じゃないが。


「勉強、しよう」

「そ、そうね」

「自由時間はあと十分ほどあります。早速図書室へ行きましょう。最善を尽くさないと、1位の座を隼さんに奪われてしまう……!」

「あーのだな、俺はちょこっと休みに……うっ!?」


三人から有無を言わせない視線を受ける。


「へえ。つまり、斗真は罰ゲームを進んで受けたいと。そう言うのね?」

「う……そういえば、そんなゲームしてた気が……」

「てことで、時間がもったいないです!! はい、行きますよ!!!」

「勉強、嫌だあぁああ!!」


そう雄たけびをあげながらも、俺は図書室へと連行されたのでした。





ʚ姫ɞ





朝起きて、私はコテにもメイク用品にも手を付けずに、きちんと制服を着ました。

ゴスロリ類はクローゼットにしまい、封印したのです!


鏡をもう一度見ると、やはり中学生の頃の私なのです。

ストレートヘアに、装飾がない顔。


――でも、これがいいのです!!


「隼様、待っていてください。私、隼様をもう傷つけませんからっ!!」


意気込みながらも女子寮を出て、いつもは隼様の部屋の前に張り込むところをぐっと抑え、通り過ぎます。


「えっ、あの風環さんが……」

「地雷系から清楚系になってる!?」

「しかも、いつもの張り込みもしてない……っ!?」

「地球滅亡の危機……」


周りからぎょっとされ、私は少し得意になります。

うんと驚けばいいのです! 今日の私は、私であって私ではありません!


一人で朝ごはんを食べ、その後隼様に絡みに行くところを足を踏みとどまらせ、教室へ直行します。

席につき、机に伏せ、周りのざわめく声を遠巻きに聞き流していると、



「おはよう」

「「「きゃー!!!! 隼様!!!」」」



教室の扉が開き、隼様が来ました……!!

おっと、振り向きそうになりました。私は放課後まで、隼様に話しかけないと決めましたので……ここは歯を食いしばって我慢しましょう。



「……」


ものすごい視線を感じるのですが、私は深呼吸して落ち着きます。

ああ背後からでもわかる、隼様が私を見ています! この感覚と視線、間違いありません! うう振り向きたいのです……。


「……風環さん」

「っひゃ!」


と、いきなり知らない女子に声を掛けられ、私はびっくりして目を見開きます。

な、何事でしょうか、悪口を言われるのでしょうか!?


「え、ええっと、黒髪、巻かなかったら違う印象だね。えっと、顔も、メイクしてなかったら清楚というか」


そうもじもじしながらも、その女子は言ってくれます。

……悪口じゃ、ないのです!?


「あ、はわわわわわっ」

「風環さん!?」


しまった、コミュ障が出ました……いきなり知らない人と話すのは、私にはレベルが高すぎます……!


「あ、ありがとうございます……」


ようやく絞り出すと、女子はほっとしたように息をついたのです。


「いつも風環さんって隼くんといたから、みんな話しかけづらかったし、その……隼くんへの告白とかも、全部妨げてたらしいから……」

「え、えへへへ……」


全ては隼様のために! と思ってて、自分の評価など気にしてませんでしたが……。今考えると、いい迷惑ですね。自分のエゴで、告白を止めてましたから。


「でも、今日はなんだか雰囲気が違って! その、話してみたいなって思ったから……!」

「……嬉しいです……!」


隼様といる時とはまた違う『幸せ』が体を駆け巡ります。

自分を認めてもらったような、肯定してもらえたような、そんな暖かな気持ちなのです。



……はっ、隼様は、このことを私に気付いてもらうためにああ言ったのでは!?


わざと悪役に回って、それで自分を否定されるのではなくて、みんなから愛されて、好かれるような人物になってほしかったから?


――自分を大切にしてほしかったから、とかでしょうか!?!


「うううう……隼様ぁあああー-」

「えっ、ええ、なんで泣いて!?」


感動なのです! 感無量です!! もうダメなのです!!!


「ありがとうございます、ありがとうございます」

「ちょ、土下座しないで!?」


女子が焦って私を止めますが、気にならないのです!


放課後が待ちきれません……。




――授業が終わり、チャイムが鳴るなり、私は部屋を飛び出しました。

私は用意していた手紙を靴箱に入れに、靴箱へと向かいます。


ちなみに、『寮なのに、靴箱はあんまり使わないんじゃないの?』と思うかもしれませんが、それが使うのですよ!

この学校は、校舎に入る時用と、寮内に入る時用、そして外に出る用の三つの靴を使うのです。


まあ、校舎と寮内を分けない人もいますが……それはごく少数派なのです。


何が言いたいかというと、靴箱は使用率が高い、ということなのです! つまり、気づいてもらいやすいのです。




『放課後、いつもの屋上に来てください』


字体だけでも、隼様は私だと気づいてくれるので、名前は書きません。




「隼様に、一万回のごめんなさいと、一億回のありがとうを伝えるのです」


片手で握りこぶしを作りながらも、私は隼様の靴箱の中に手紙を入れました。



――ただひたすらに、放課後になるのを待つのです!!

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