3章7話 みんなして置いていくんだもん、悲しかったんだから!
――朝5時。
俺は、こっそりと部屋を出、俺の部屋の前に立った。昨日、『明日の朝5時、俺の部屋の前で、作戦を練ろう』という話になっていたのだ。
というか眠い。昨日のせいか夢に天詩が出てきて、全く寝れなかった……。
待つこと数分、黒花が緩く髪を束ね、「おはよううございまふ……」と眠そうにやってきた。
「早いですねぇ……まだ5分前ですのに……」
「まあな。さっさと犯人を捕まえてやろうぜ」
黒花は、とろんとした瞳に力を込め、「はいっ」と頷いた。
「おはよ、眠いー」
天詩の部屋の扉が開き、パジャマ姿のままひなたが出てきた。
「おい、なぜパジャマ姿なんだ。着替えろ」
「えー、めんどくさいじゃん? それとも、パジャマ姿にドキドキしちゃう?」
うるさい。するかよ。
パジャマの熊の耳の部分をつまみながらも、ひなたがにやにやと見上げてくる。
「見つめ合わないでください! いーいーからっ、会議ですよ!」
と、頬を膨らました黒花に引き離され、ようやく俺は解放される。
「はいはい、美雨は嫉妬しない。……じゃ、二つに分かれよっか。いじめの芽を摘むグループと、天詩の護衛のグループ」
ひなたは切り替えると、素晴らしいリーダーシップを発揮する。そのような力が羨ましかったりするが。
「私は、斗真さんが天詩さんの護衛がいいと思います! まぁそこそこガタイは中の下って感じですし、か弱い私達よりは役に立つと思いますっ」
「それ俺の事弱いって言ってるよね? かなりひどいよね?」
「まあ斗真くんが適任だよね。てことで、よろしくっ☆」
まあいいんだが。そこは任せておいてほしい。
「じゃあ、お前らは、とにかく天詩が気付く前に、いじめの痕跡をなくす、といったところか」
「任せて! 私、体力には自信あるしー」
「私は、昨日、いじめといういじめの事を調べつくしましたから!」
黒花がどうやって調べたかはともかくとして、とても頼もしい!
「じゃ、よろしく頼んだぞ。分かったことや、犯人を突き止めた場合はすぐに言ってくれ」
「「りょーかい(です)!」」
そうして、俺たち『天詩を守り隊』は活動を開始した。
ʚɞ
6時30分。
天詩が部屋から出、女子寮の境目のガラス扉を開いた。
「おお、おは……ひぐっ!?」
自分の部屋の前で待ち伏せしていた俺は、天詩を見た途端あんぐりと口を開き、固まる。
「斗真? なに?」
天詩は不思議そうに俺を見る。――長い金髪をおろして。
俺は天詩の顔を凝視し、ただ固まる。
違う、天詩の顔に血痕がついてたとかじゃないぞ!
あまりの神々しさに、この俺でさえも固まってしまったのだ。
いつもの元気なイメージのツインテ―ルではなく、リアル天使を思い起こすような神々しさ。
悔しいが、輝いて見える。悔しいが!
「なあに、私の事待っててくれたのー? まさかねー?」
「はぁ、そのまさかだよ。ちなみにひなたと黒花は、ちょっとだな、忙しいとかなんとか……」
「……待ってくれるっ?! そんなの反則じゃない……」
後半は聞いてないだろうが、もじもじしながらも呟く天詩の手を引き、俺はずんずんと寮を突き進んだ。
周りから突き刺さる視線を、跳ね返しながらも『無』でいることに集中する!
とにかく、天詩を守る! 以上! 他のことは気にしない!
その精神で行けば、朝食を二人で食べる時も、教室へ向かう時も平気だった。
しかし、天詩は平気ではないようで、
「て、手を繋ぐとか……」
「美雨に、ひなたまで! 二人共、どうしちゃったのよ……すっごく緊張するじゃない……!」
「目立ってる……どうしよう、そんな……」
と赤い顔のまま呟いていた。
教室に入ると、ひなたがげっそりとした顔で親指を立ててきた。
「手紙が数枚、無事回収」
「よくやった」
「わっ、ひなたじゃない! なんで置いていったのよ!」
「ひゃっ! ご、ごめんごめんー」
俺たちが視線と手で会話していると、天詩がひなたに抱き着いたので、テレパシーは途絶える。
「美雨もいなかったし! 何事ーって!」
「ごめんってー、お腹とか、色々とすいてたんだよねーあはは」
嘘が下手すぎる……。
「んーっ、次は一緒に食べよーね?」
「うん、てか天詩……今日、神々しすぎん?」
ひなたが、抱き着いてくる天詩をなだめながらも、そう問う。
だろ! ほら、俺だけじゃなかった! よかった!
「えーそう? 髪をおろしてるだけだけど……」
「それが神々しいのっ! 反則なのっ!」
周りの男子も女子もそれに対して、顔を赤べこのようにして上下させる。
「……この様子だと、少なくともこのクラスで手を出す人は少ないんじゃないか……」
「いや、違う意味で手を出されるかも……」
ひなたと、そうため息をつきながらも話す。
と、天詩が綺麗な髪を揺らし、俺とひなたを睨む。
「二人で何の話してるのよ! ひなた、別に悪魔と話してても楽しくないでしょっ!」
「はいはい嫉妬はいいから、席に着いたら?」
「しっ、嫉妬なんかじゃ……っ!?」
最後まで言い切る前に、ひなたにより席につかされる。
「んむー……」
そう怒りながらも、天詩は恐る恐る机の中を確認した。
そして、ほっと小さく息をつく。
……やっぱり、気にしてるな。
俺たちは目を合わせ、同時に頷いた。
よし、このまま守りを強化していくぞ……!
ʚɞ
――休み時間。
「次の時限は、一時間自由だよねー! ハゲ先の風邪に天晴れっ!」
「ひなた、バカうるさい。それ聞こえたら、やばいんだからな……」
ホームルームと授業を終え、俺たちは他愛無い会話をしながらも、ちらちらと視線を交わした。
「おっくれましたっ! 天詩さん、お久しぶりです!」
黒花が教室に飛び込んできて、クラスメートがざわざわとし始める。
「「「「今日もかわいい美雨様……」」」」
何があったのか知らないが、あれから黒花は「美雨様」と呼ばれている。まあ、それはそれだ。
「美雨! みんなして置いていくんだもん、悲しかったんだから!」
「おい、俺の存在は何処へ?」
俺、一応待ってたんだけど? なにその不平等さ。
「えへへすみません……じゃあお詫びと言っては何ですが、メロンパンをおごります!」
「やったぁっ!!」
甘党だとは知ってたが、天詩は想像の倍ほど喜ぶ。
こういう顔もするのか……意外と、その、かわいいじゃないか。
って、そんなこと考えてる場合じゃないんだが……!
なんやかんやで購買に行き、黒花は俺とひなたにもメロンパンをおごってくれた。
「どうも」
「あっりがとん!」
「このメロンパン、お昼休み用にとっとく! ありがとう、美雨ー!」
天詩は目をハートにしてぴょんぴょんと跳ねた。
「あはは、いいんですよー」
黒花はそう言いながらも、さりげなく俺とひなたに視線を向けてきた。
そして『せんせいにてがみをだしておきました』と口を動かす。
よしよし。計画は順調だ。
後は、この一時間の休みに何か起こらなければいいが……。
「メロンパン、昼休み用にバッグに入れてくるっ!」
そう言って、タイミングよく天詩は教室に駆けていった。
その瞬間、俺たちは額を寄せ合って会議!
「どうする、あるとすればこの時間だ」
「知ってるよっ! 私は、天詩のバッグを見守るつもり。教科書とかノートとかが盗られないようにね」
「私は靴箱を見ます! ……そういえば斗真さん、あの画鋲、今も持ってますか?」
そう問われ、俺はぎょっとする。
やべ、昨日ポケットに入れたままだったわ……! そして、今日の俺は同じズボンをはいている……!
血だらけになっている覚悟でポケットに手を入れ、恐る恐る画鋲を出す。
「……あれ?」
しかし、ズボンには傷一つ付いていなく、血もなし。普通は、針でひっかき傷ができるだろ……?
不思議に思って針を見ると、針の先にはゴム製の小さな丸いものがついていた。新品のボールペンによくついているやつ。
……これは、なぜ……?
怪我をしないように配慮されていたのか? でも、まさか……。
「はい、それです。……うーん、これは掲示板などから取ったんでしょうか……」
それを俺から奪い取り観察すると、黒花は軽く首を傾げる。
「ちょっとまだ分からないので、とにかく靴箱の周りを見てますね!」
「……っああ、よろしく頼んだ」
ひなたも軽く頷きながらも俺を見る。
「じゃあ、私は教室をみてようかな。できれば斗真くんにも手伝ってほしいんだけど……?」
「ああ、天詩は校舎を歩き回るなんてことはないと思うし、大丈夫だ」
俺たちで頷きあっていると、
「メロンパン、置いてきたー!」
と天詩が駆けてきた。
「よし、じゃあ教室に戻るか」
「そだね」
「あーのお、私、靴箱に用事があるので、失礼します!」
黒花が挙動不審になりながらも言い、その場を立ち去る。
靴箱に用事ってなんだ。パーティでもやってるのか?(2回目)
これは天詩に怪しまれるぞ……。
しかし天詩は何とも思わなかったらしく、ふわりと手を振った。よかった、単純バカで。
「じゃあ行くか」
俺、天詩、ひなたで左右をガード。これで、階段の上からバケツを落とされるなんて事もない!
校舎に戻り、階段を登っていると、
「わあ奇遇、斗真だ!」
「何回目でしょうか」
一日一度は会う定めなのか、いつも通り隼と姫にでくわした。
「あぁ……よっ」
「あれ、それと横山さん……? と、日岡さん」
「……っ」
隼や天詩を呼ぶと、天詩が俺の後ろに隠れた。
「……へぇ、あなたが天詩さん」
姫が天詩を眺めまわす。
「なんかわかんないけど、なんで学校一のイケメンと友達なのっ!?」
「いやーぁいろいろとあってだな……」
ひなたが目をむいて尋ねてくる。
まさか、こいつをストーカーしてたなんて言えないよな。俺は正義のヒーローなんだし。うん。
「お前ら、なんでここにいる? 俺たちのクラス以外は授業中のはずだが」
「うちのクラスは国語だったんだけどね。どうやらその先生が、理科の先生の風邪をもらっちゃったらしくて、緊急で休みになったんだよ」
「なるほどな」
つまり伝染病かなにかってことか。気を付けなければ。
「……それで、日岡さん。……またいつか、話せるかな?」
「こ、断ります」
隼が天詩に視線を投げる。
すると、天詩が俺の後ろに隠れたままもそう言い放った。
「そっか。……また、尋ねに行くね」
「早くいきましょうなのです……っ」
姫が顔をしかめ、ぎゅっと隼の腕をつかむ。
「来ないでください! もう、顔も見たくないです……!」
天詩が悲痛な声を上げた。なんだ、やはり昔に会ったことがあるのか……?
「あの時は、毎日のように顔を合わせてたのにね、不思議なものだ。……じゃあね、日岡さん。それに斗真、横山さん」
そのとってつけた感じ、やめてもろて?
「はやく! 行きましょう!!」
姫が悲鳴(ダジャレではない)のような声を上げ、隼を引っ張る。あの嫉妬深い姫のことだ。悔しいのだろうか。
「はぁ、はぁ……」
二人が去ると、天詩が青ざめた顔をして、俺にしがみついた。
……犯人が定まり、いつも通りの日常が訪れたら、関係性を必ず聞こう。今は聞いてもパニックを起こすだけだろうし。
「じゃ、じゃああれだし、教室に戻るとしますか……!」
「そうだな」
震える天詩を引っ張りながらも、とりあえず教室に戻る。
早くいかないと、犯人が教室に入る事、もしくは教室内の誰かが犯行に及ぶ時間が広がってしまう。
急いで教室に戻ると、ひなたがいきなり女子グループの輪に入り込み、「ねえねえ、他のクラスの人が入ってきたりしたー?」と聞く。
ナイス行動力だ。尊敬しかない……!
と、女子たちはきゃあきゃあとひなたをみてはしゃいだ。
「横山さんだ! 天詩様と同じ部屋だよね、いいなぁ!! ……はっ、横山さんの服を嗅いだら、天詩様と同じ空気を吸うことになるのでは……」
「「「「賛成!!」」」」
「ちょっ、やっ、あっ! 服を嗅がないで! ちょっと、男子もさりげなく来ないで!? いあっ、んぁあ!?」
クラス中に服を嗅がれるひなた。かわいそうに。
まあ、こんな人気だと、このクラス内の人が犯人な確率は薄まる。
だとしたら、他のクラスか……。
「っ、斗真、さん! 大変です……!」
と、黒花が教室を開け、俺に小走りで近寄ってきた。
「なんだ? ……何があった」
「ひゃいっ」
天詩に聞こえないようにして、黒花の耳元で囁くと、黒花が変な声を上げる。
「じゃなくて! 捨てられてるんです!!」
「なにがだ」
俺がうんざりとした目を向けると、黒花は息を吸い、そして言う。
「靴箱のゴミ箱に、ついさっきまであったはずの、天詩さんの教科書とノートが捨てられてるんです!!」
―――――――――――ʚɞ―――――――――――
3章暗めでごめんなさい(;´・ω・)
次辺りで、ばっと方向転換する予定ですよ!
天詩、犯人なんかに負けるなー!!
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