3章2話 やる気が出るように、みんなでゲーム、してみない?
「報告。三週間後に、中間テストがあります!」
どっかーん!!!
ホームルーム。担任が爆弾発言をし、俺は寝かけていた頭を覚醒させ、目を見開いた。
それは俺だけではないらしく、クラスの大半が面食らったような顔をしている。
「まじかよ……終わったんだが!」
おれが小さく(あくまでも小さく、悪魔だけに)おたけびをあげると、天詩とひなたが同時に苦笑した。
ちなみに、あんなに顔面蒼白で取り乱していた天詩だったが、次の日になると、けろっと元気になっていた。理由をそれとなく聞いたらはぐらかされたが。
「まあ、バカな悪魔さんだし、それは諦めてるでしょ?」
「そうだねえ……ただでさえ勉強してなさそうなのにねーっ」
ぐぬぬ……まあ、事実なんだが……!
「そ、そういうお前らはどうなんだよ! どうせ……」
「「勉強なら、毎日やってるよ?」」
それが当たり前とでも言うように、二人は口をそろえる。
ダメージ一億。俺氏、終了のお知らせ。
受験時は、260人中231位だったが(危ない危ない)、それ以降自主学習を全くしていない!
俺が真っ青になって固まっていると、
「……まあ別に、勉強、教えてあげないこともないわよ?」
と、天詩がそっぽを向きながらも言う。
「ま……マジ?」
「うんうん、私も教えてあげるよー?」
ひなたも、にこにこと微笑んで言ってくれる。
「うぉお……オネシャス、天詩様、ひなた様ーっ!!」
「「よろしい!」」
こうして、二人の美少女を先生に、俺のテスト勉強が始まった!
……この頃は、もちろん地獄になるなんて想像してなかったのだが。
ʚɞ
「ふぐぅ……もう、帰っちゃダメか……?」
「バカなの? アホなの? まだ30分しか経ってないじゃないの!」
「さすがの私も呆れちゃうよっ?」
放課後、図書室で瀕死なう。
授業後、入試テストの成績を見せると、二人揃って『やばいね』の一言。
特に国語がやばいらしく、手の指だけじゃ数えられないほどの数の、国語の参考書と睨み合い中だ。
「もうダメだ! 俺は赤点でもいいっ!」
「確か赤点は、土日の自由時間及び外出禁止、それに一か月間放課後特別授業、だったと思うよー?」
「赤点回避! 赤点回避!!」
自由時間が無くなるなんて、最悪だ! そんな事を思うと、この地獄のような勉強時間も幸せに感じる。
「だけどねー……そのペースだと、絶対間に合わないよ?」
ひなたが机に頬杖をつきながらも言う。確かにそうだ。しかも、俺には参考書は難しすぎる……!
髪の毛をかき回していると、突然、ばーん!! と図書室の扉が開いた。
「わっいた!! 探しましたよーっ!」
「おおぉ、黒花……!!」
息を荒らげた黒花が、軽くむくれながらも俺たちに近づいてきた。
「なんで誘ってくれなかったんですかっ! みんな意地悪です!」
「やーごめん、何しろ急なことだったし……」
「しかも、斗真の脳みそがアリの大きさもなかったから、急いでたのよ。ごめんね」
「なるほどです」
いや、納得しないでもらえる? てか、俺の脳、アリの大きさもないの?
「そういう事なら私も協力しますよー。勉強には自信、ありますし!」
「そういえば黒花さん、新入生代表だったもんねぇ……」
つまり、260人中1位だったわけだ。異次元の存在に、俺はただ身震いする。ぶるぶる。
「斗真さんは、受験の時の順位は?」
「まあ、大体50位くらい……」
「「231位です」」
見栄を張ろうとしたが、女子二人に一刀両断される。くっ……!
「それは……この学校には入れてよかったですね!」
ぐ、ぐささっ!!
心を痛める俺をよそに、黒花は俺の隣に座り、開いていた国語の参考書をぱらぱらとめくる。
「んーん、なるほど……この単元なら、ちょうど昨日ノートにまとめたばっかりなので、貸せますよ!」
「ほんとか!!」
黒花はこくこくと頷きながらも、天詩とひなたに視線を向けた。
「ちなみに、天詩さんとひなたさんは、何位だったんですか?」
「私は260人中7位よ」
「私は42位ーっ!」
ぞぞぞぞぞっ。鳥肌が体を駆け巡る。改めて、俺はやばいんじゃないかという不安に襲われるじゃないか……。
「はい、やばいですよ!」
「相当やばいわよ」
「頑張れーっ!」
しょげる俺に、ぽんぽん、と黒花が肩を叩いてきた。
「大丈夫ですよ! とりあえず、図書室が閉まるまで頑張りましょうか!」
地獄だぁあ!! やる気が起きねぇ!!
すると、半泣きになる俺を覗き込むようにして、ひなたが顔を伸ばしてきた。
「ねえ……斗真くんのやる気が出るように、みんなでゲーム、してみない?」
「「「ゲーム……?」」」
「そう! 斗真くんが……例えば、100位以内になるかならないかで勝負するの! もし斗真くんが勝ったら――つまり、100位以内になったら、私たちが罰ゲームを受ける。斗真くんが負けたら、三人それぞれから、斗真くんが罰ゲーム。どう?」
「いいですねーっ! 私、参加します!」
「黒花さんがそういうなら……」
二人がそのゲームに参加する。
俺? もちろん俺も、参加するさ!!
「よーしっ!! んじゃあ、決着は三週間後のテストで! 斗真くん、もう勉強しないでアホになってもいいんだよ?」
「そうね、こうなれば、とことんバカにでもなったらいいのよ! あっ、もうバカなんだっけ?」
「じゃあ、ノート貸し出しの件はチャラということで……」
「お前ら、悪魔すぎるだろっ!!」
にやにやと笑いかけてくる小悪魔たち。俺よりよっほど悪魔なんだが!(こう思うのは何度目か)
まあ、これで俺が勝って、特に天詩に、痛い目を見せてやろうではないか……ふっふっふ……!!
「嘘だよーっ、がんばろーね!」
ひなたがにっこり微笑んで、そしてぱっと顔を寄せてくる。
「……もし斗真くんが負けたとき用に、素敵な罰ゲームを考えておくね?」
「素敵な……」
怪しさ満点なんだが……!!
ひなたは俺から離れ、そしてあざとく舌を出した。
「じゃー、勉強、頑張りましょう!」
「「「おーっ!!!」」」
黒花の掛け声に合わせ、俺たちは拳を合わせ、円陣を組んだ。
よし! 負けねえ、やってやるぅ!!
ʚɞ
――約三時間後。
夕日が図書室に差し始め、俺はふと顔を上げた。
「……もうそろそろ、図書室が閉まりますかねー……」
黒花の声に、教科書を読んでいた天詩とひなたが顔を上げる。
「んーっ! 頑張った!」
「斗真も驚くほどの集中力ね、褒めて遣わしてあげる」
そりゃどうも、とぼやきながらも、俺は参考書を閉じる。
「じゃあ、また明日も勉強会しましょう! ではまたーっ!」
そういうと、黒花はぴゅんと図書室を出ていった。どうやら、代表委員で収集がかかっているらしい。
「罰ゲーム、楽しみだねー? 悪魔に一泡吹かせられそうで」
「ああ、とても楽しみだ。天使を奈落の底に落とせそうで」
三人で寮へ向かっていると、天詩が俺を小突いてくる。
「あはは、天使と悪魔の戦いかー、面白そう!」
ひなたは一瞬傷ついたような表情をし、すぐに表情を切り替えた。俺は、ひなたが何を考えているのかたまに分からなくなる。
「あっ……じゃーね斗真くん、また明日っ!」
「ま、また明日、斗真」
「おう、またな」
ぐだぐだと雑談をしている内に、俺の部屋の前に着く。俺は二人に軽く片手をあげ、部屋に入った。
部屋の電気をつけ、そのまま、ぼふ、とベッドに転がる。
疲れたああぁぁ……!!!
疲れがどすっと体にのしかかる。
よし、今日は寝よう。明日の朝、風呂に入ればいい。うん。ナイスアイデア。
そのまま俺が瞼を閉じかけた時、トントン、とドアが叩かれた。
なんだよ! 例え美少女でもイケメンでもマッチョ先生でも、今日はダメだ! 居留守決定! どうか俺を寝かせてくれ!
「安久麻くん、隼です、お邪魔していいかな?」
「と、姫なのですっ」
「んおっ……?!」
美少女とイケメン。
しかし居留守対象ではない、意外な訪問客が、俺の部屋を訪ねていた。
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