3.虐げられ天使様と白馬の王子様、地雷少女付き。

3章1話 ゴスロリ地雷系と爽やかイケメン


ささささっ。がさ。ひょい。どてっ。


昼休み。

俺は、ある人物をつけていた。


この文だけだと、俺はただのストーカーだが、違う。別にストーカーじゃないぞ! ただつけているだけだ!


「あのっ……! はやくん! これ、受け取って欲しいです!」

「隼くん! ずっと前から好きでした!」 

「隼くん、付き合って!!」 


チッ。おっと、本音が出てしまった。


つけている的の彼は、この学校で『超』が何個もつくほどの人気者、それこそ天詩と並ぶほどのスター、並楽隼ならくはやという。

悔しいほどのイケメンで、性格も優しいの塊、らしい。

なんだあいつ……と俺を含めた男子は思っているだろう。


しかし、俺は別に恨みがあってつけているわけではないのだ! 俺はそんな男ではない。善良な男子の代表として、そんなことはしない。


「ごめんね、僕、好きな人がいて……でも、ありがとうね」


チッ!! おっと、またもや本性が出てしまったようだ。

俺は茂みの中、自分を落ち着かせる。


俺が彼をつけている理由、それは、彼の名前にある。


彼の苗字、『並楽』。言い換えると、『奈落』。

俺と同じ香りがする名字なのだ。

俺は『安久麻』ーー『悪魔』、この苗字のせいで、散々な目にあってきた。彼だって、そのような扱いを受けているはず……なのに!


「隼くん、私は諦めないから! 好きにさせるからね!」

「うううっ、隼様ぁ……隼様は私のものなのっ……!」


なんだ、この有名人みたいな有様は!(叫)

俺は、彼に物申したい! そして、聞きたいこともあるっ!!


……くだらない、なんて思ったそこの君。考え直せーっ!


こほん。とこのような理由で、彼をつけているのだが。


「じゃあ、僕は裏庭を散歩してくるよ。本当にごめんね、また話そうね」

「「「きゃーっ!!!」」」


女子たちの熱いエールに、爽やかスマイルで返した後、並楽は学校の裏庭に足を向けた。


うちの学校の裏庭は、それは豪華なもんで、植物園のようになっている。植物のアーチが頭上に広がり、噴水までもある。宮殿の庭のようなありさまに、誰もがやりすぎだと思うが、あえて突っ込んでいない。

広さも、小学校の校庭くらいあるんじゃないだろうか。


並楽は、一人で裏庭を歩き始める。とにかく、これはチャンスだ……!


声をかけようと、恐る恐る茂みから顔を出すと、


ばこぉん!!


と頭に衝撃が走った。


「なあに、今度はストーカー? 悪魔を超えて、犯罪者になりたいの?」


この嫌味な感じ、一人しかいない。

俺が顔を上げると、案の定、丸めたノートを掲げた天詩が、眉をひそめて俺を睨んでいた。

神出鬼没野郎……どこにでも現れるではないか!


今日だって、実はこのためにお昼は一人で食べた。もちろん、俺の行き先や目的がバレないように、だ。

だというのに……っ!


「お前には関係ない。どけぃ!」

「わっ、ちょっと、斗真!」


俺は天詩を押して、裏庭を突き進む。


「私、先生に言おうかしら? ストーカーへ変態悪魔がいますって」

「うるさい、そこまで言うならお前もついてこい」


俺は天詩の手を引き、『道連れ共犯作戦』を決行することにした。


「ちょっと……手……っ!」


天詩は焦ったように、俺に手を引かれるがままについてくる。よしよし。


「も、もう……手を繋ぐなんて、斗真じゃなかったら殴ってるわよ……」

「ん? 何か言ったか?」

「んわっ、やっ、だ、誰をつけてるのって言ったのよ!」


慌てたように言う天詩に、俺は親指を立てて、先にいる並楽を指した。


「あいつ。聞きたいことがあってな」

「ふぅん……?」


周りの花や木、植物に足を取られないようにして、俺は並楽を追う。

そして、一直線の道に入るとペースアップし、天詩の手を繋いだままも小走りになる。


すぐ近くで小さな吐息をもらす天詩に心臓を高鳴らせながらも……いや、この言い方だと、天詩にドキドキしているようになるのか……久しぶりの運動に心臓を高鳴らせながらも、俺は並楽目指して走る。

そして、ようやく並楽に追いつく事に成功した。

が。


「なんだ……あいつ、一人じゃなかったのか……?」


並楽の後ろ。

ゴスロリを着て、長い黒髪をぐるんぐるんに巻いている少女が、並楽の後ろにくっついていたのだ。


「あからさまに生徒ではないよな……並楽も気付いてないのか、あれは?」

「もっ、もしかして……幽霊?!?!」


天詩が顔を青ざめさせて尻込みする。


確かに、そう言われたらそんな気がしてくる。

後ろ姿しか見えないが、肌は真っ白で、髪にはアクセサリーなのか、小さなハートが散りばめられている。

そして、足跡もなく、歩く並楽の後ろにぴったりと付いているのだ。


この校舎には、生徒や先生、関係者以外は入れないし……やっぱり、これは……。


「うぅ……とうとう私にも幽霊が見えるようになったのね……」

「怖ぇ……」


曲がり角にさしかかり、俺たちはぶるぶると震えながらもその曲がり角を曲がろうとし、


「なにか用なのですか?」

「「いやあ゛ぁぁあぁあ゛あああああ!!!!!」」


角で、ゴスロリ幽霊が、俺たちを待ち構えていた。


「ひっ、のっ、呪われるーっ!!」

「殺される……あぁ母さんーっ!!」


「なんの話なのですか。うるさいのです」


天詩はぴゅんと俺の後ろに隠れる。おい、俺を盾にするなっ!!


一方で、ゴスロリ幽霊は、はぁとため息をついた。


「隼様、どう致します?」

「あぁ……君は……安久麻くん、だったかな?」


並楽が近づいてきた。イケメンオーラが俺を刺す。

ゴスロリ幽霊は、並楽に絡みつき、俺を警戒心丸出しで睨んでくる。


「噂はかねがね。あの、始業式で叫んでた人でしょ?」


そんな印象、嬉しくねぇー!!

心の中のひなたを存分に呪いながらも、俺は並楽に向き合う。


と、怖々と天詩が俺の後ろから顔を出した。


並楽は天詩を見た途端、一瞬目を見開いた。そして淡い微笑を唇に浮かべ、



、日岡さん」


久しぶり……??

首を傾げ、俺は視線の先の天詩に顔を向ける。


天詩は真っ青になっていた。

ただ小さく体を震わせ、大きく見開いた目で並楽を見ている。


「まさか……そんな……」


何だ? 二人は知り合いだったのか?


「隼様、私を置いていかないで欲しいのですっ」


ゴスロリ幽霊が並楽の手を掴み、並楽ははいはいと言って顔の緊張を解いた。


「……そいつ、幽霊じゃないんだな」

「失礼なのです! 死ねばいいのにです」


俺は震える天詩を軽く抱きしめながらも、話題をずらす。

と、むっと俺を睨むゴスロリ幽霊。


「こら、姫。……こいつは、風環帝姫ふわみひめ。俺に問答無用でくっついてくる困ったちゃんだ」

「はい、私は隼様の体の一部なのです♡」


ゴスロリ幽霊ーー風環は、嬉しそうに並楽に抱きついた。


風環は、俺からしたら『地雷系女子』である。

髪だけではなく、目尻にもハートが付いている。瞳孔がハート型で、さらに、耳にピアスが何ヶ所か空いている。


1番ツッコむべきは、ゴスロリだ。

いやそれはやりすぎやろ、と言いたくなるほどの量の白いレースが付いていて、地は紺色。胸元にはハート型の穴が空いていて、胸が丸出しだ。


「あのだな、その服はなんだ?」

「軽い口を聞くななのです。これは、学校側が認めてくれてるので、いいのですよ!」


いや、許してくれんの?!

驚く俺を他所に、風環はてててと俺に近づいてき、人差し指を俺の顔に突き刺した。いや、刺さってます。


「男子であろうと、隼様が好きな方は許さないのです!!」

「いや、好きじゃねぇよ! むしろ人気すぎて嫌いだ!」

「うわーあ、傷つくなぁ……」

「はっ、隼様っ!! そんな、心に傷など……私の責任なのです……」


何だ、このゴスロリ地雷系と爽やかイケメンのコンビは……。

風環が、並楽の頭をなでなでしている。


俺は冷たい視線を向けながらも、腕の中の天詩を見る。

震えは止まっておらず、がくがくとする天詩。


「おいお前、天詩と知り合いだったのか? 何があったんだ」

「おっ、お前呼ばわりなど……許さないのですよ?!」

「姫、静かに」


風環を止めると、並楽は少し首を傾げた。


「昔に、少しね」

「昔? っていうと……」


「と、うま……」


天詩が俺に弱々しく抱きついてくる。

これは異常事態だ。俺の心臓が色んな意味で警告音を鳴らす。


「お前にちょっと物申したいことがあったんだが、一旦撤退だ。……じゃ、また来るからな」

「ふぅん、愉快でいいね。……君の部屋番号、教えてくれるかい?」

「……001だ。じゃ、また」

「隼様には敬語は絶対ですのにーっ!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ風環と並楽を置いて、俺は天詩を半ば抱っこして裏庭から離れた。


「どうしたんだ、天詩」

「っさ、先戻ってる……っ!」


そう言うと、いきなり天詩は俺の腕から逃れ、校舎の方へ走っていってしまった。


「何があったんだよ、本当に……」


俺はため息を付きながらも、校舎へと向かった。





ーーーその頃。



「日岡さん……


並楽が小さく呟いていたことは、風環でさえも知らない。

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