7話 言ってよ、私が大事だって



なんかこれ、やばい状況じゃない??


俺は、黒花の柔らかい指を唇に感じながらも固まっていた。


初日から今までを一言で言うと、「散々」である。


黒花の『管理宣言』があってから、毎日朝から夜まで管理される日々。一度、男子トイレの中までついてこられそうになり、慌てて説得したこともある。


「男子のだれに会っても、絶対に言っちゃダメですからね!! 私、トイレの前で待ってますから!! 口はずっと閉じてること! 斗真さんの声が聞こえたら、引っ張り出して袋叩きにします!!」


とストーカーや犯罪まがいのことも言われたりした。



が、俺は別に嫌だとかは思わない。

むしろ、心地いい、という方がしっくりくる。


これまで散々ぼっち生活を積んできた俺にとって、ずっと一緒にいられる相手というのは正直嬉しかった。

こんなことを言うと、天詩に変態だとか言われそうだが。


初めはどうなる事かと思ったが、今はいい意味の「散々」なのだ。ようやく認められたというか何というか。


黒花の存在を、俺はどう表していいのかわからない。

暖かくて、例えこれが間違ったものでも構わない。


俺は、愛というぬくもりが欲しかった。



「っあのね……黒花さん、彼氏でもない人の唇に触れるのは……っ」

「なんですか? 私のペットに触れるのは、悪い事ですか?」


黒花は俺の頬をぷにぷにと触ってくる。

そして、俺の首を回し、正面から目を合わせてくる。


「く、黒花さ……!?」


ひなたが言葉を出せずに口をパクパクとさせる。

なんだ? 急に声音が変わったが……。


「……っ!?」


俺も遅れて息を呑んだ。


俺の頬に、黒花が口づけをしていた。

柔らかな唇に、自分の顔がばっと赤くなるのを感じた。


「斗真さんは、私の秘密を知っているんです。もし誰かに知られたら……私は……」


黒花が目を潤ませ、黒髪を両手で乱す。


――授業をさぼってしまった事が、そんなに大切な「秘密」なのか?


ずっと思っていたが、そんなわけがない気がする。


「黒花さん! やりすぎでしょ……!」


頭を回す俺をおいて、天詩が赤くなりながらも講義をした。


「とにかく、離れて……!」

「んきゃっ!?」


ひなたが黒花を引っ張り、無理やり俺から離す。


――嫌だ。


気付けば俺は手を伸ばし、黒花を引き留めていた。


「斗真っ!?」


「……例えどんな形でも、俺は黒花の存在が大事なんだ。一緒にいてくれるような、そんな存在が」


束縛でも、ペットでも、手放したくない。

そんな考えは、天詩の言葉で砕け散った。


「なら!! 私が、黒花さんの代わりの、もっと素敵な……になってあげる!!」


テーブルに手をつき、ぐいっと身を乗り出し、天詩は理解しがたい言葉を発した。


……ともだち?


「そんな偽物の愛なんかじゃダメでしょ! 黒花さんじゃなくて、私が大事な存在になる……っ!!」


そういうと、赤い顔を隠すように天詩が俯いた。


「だから言ってよ……私が大事だって。例え天使と悪魔でも、友達にはなれるよね……?」


わからない。

なぜ、俺なんかと友達になってくれるのか。

悪魔と天使は真逆なはずなのに。

敵対するはずなのに。


「私、これでも頑張って言ったんだから!! 次は斗真の番! 言ってよ、私が大事だって。友達になりたいって!」


ぎゅっと俺の手をつかみ、天詩は言う。

天使のように、優しい笑みを浮かべながらも。


「……と……」

「うん」


天詩は、俺を待つように見つめてくる。


もしかしたら。



「と、友達に、」



俺が求めていたのは、



「な、なりたい……」



友達という、暖かさだったのかもしれない。



「よくできました」


天詩が優しく頭をなでてくれる。



(……!?!?!)


そこで意識が覚醒、俺は目をむいて天詩を眺めた。



待て、天詩ってこんなやつだったか!?


次々と回想される天詩との時間。


俺を敵対視してて、隙あれば暴力をふるってくる、やばいヤツじゃなかったか!?


どこをどうすればこうなる!! なんだ、この天使感は!

嫌な予感がし、ゆっくりと天詩の顔を見上げる。


そこには、にやりと笑う天詩の顔があって。


「また私の勝ちね!!」


「んぐ……!!!?」


騙された……と気づくのにはもう遅い。


「『友達になりたい』だって!! それを斗真から聞けるなんて……!」

「や、やられた……!」


にやっと笑う天詩。しかし、ふと表情を和らげると、顔を耳に寄せてきた。



「でも、友達になったっていうのは、本当だからね??」

「…………っ」


「ちょっとー、私も混ざてよーっ!」


そこにひなたも乱入し、かけられた体重によりカフェテーブルがミシミシと音を立てる。


「ばっ……やめろ、頼むからこれ以上俺を問題児にしないでくれ!!」

「もう遅いでしょ、安久麻くん」

「そうよ、いっそ全力で悪魔になってみたら?」


くそぉ……友達になった途端二人共、毒舌になりやがって……。


「いいじゃない、友達の特権でしょ? まあ、友達になったからには、ぼこぼこにしてもいいってことよね?」

「していいことと悪い事があるだろ!?」



と、がたん、という音が響き、俺たちは音がした方向を見る。



「な、んで……私は…………みんなのように…………」



黒花さんが、顔を真っ白にしながらも、よたよたとテーブルから離れていく。


「黒花」

「もう、私は……どうすればいいか……っ!!!」


そういい、黒花がクレープ屋さんをよろめきながらも出ていった。


「……………」


何も口にしていないのに、同時に俺と天詩は足を踏み出した。


遅れてひなたも足を踏みだす。


「二人共、そろい過ぎでしょ! まさか……」



「友達だから、たまたま合っただけよ」

「友達だから、偶然合っただけだ」



ますます気まずくなり、俺たちはぷいとそっぽを向く。


「はいはいラブラブなとこすみませんねー。黒花さんのこと気になるし、急ごうよ」


納得のいかない言葉が出てきたが、ひとまず俺たちは黒花を追いかけることにした。


むず痒い気持ちが体中をめぐり、俺は脳をめぐらし、どうしてこんな感情になるか考える。


そして、俺は黒花と友達になりたいのだと自覚する。


ペットじゃなく、管理されるでもなく、友達に。

だって友達って、こんなにも胸が弾むから。幸せな気持ちになるから。



黒花は屋上へと姿を消し、俺たちも後に続く。


屋上のドアを開けると、ぶわっと風が吹いた。


「ひあっ」


慌てて短いスカートをおさえる天詩。

なかなかかわいい所もあるじゃないか……って、俺何考えて……!!


「変態、何考えてるのよ」

「うるさい、何も考えてない!」



「んちょ……く、黒花さん!?」



ひなたの声が上がり、俺は慌てて意識をひなたに向ける。


そして、ぽかんとした。



「んんにゃああぁぁぁあーっ!!」




そこには制服を脱ぎ捨て、下着姿で泣き喚く、黒花の姿があった。



――――――――――――――――――――――



わけわかめ展開(੭ ᐕ))

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