6話 私が斗真をなんて、絶対、ない!


……気になる。


気になる気になる気になるーっ!!



「て、天詩……」


ひなたが恐る恐る私の肩に手をおいた。



寮初めての朝ごはん前。

私の視界には、二人の主要人物が映っている。


一人目。新入生代表の、黒花美雨。

そして二人目。問題の、安久麻斗真。


なんと二人が、同じエレベーターに乗り込んだのだ。二人っきりで! 同時に! 楽しそうに会話しながら!!

なんなのよ、昨日から! まさか彼女なの?!



「んんんんなあああぁぁ……」

「いったん落ち着いて!? 何? 何があった!?」



私がうなっていると、ぺしぺしとひなたに背中を叩かれ、なんとか自我を取り戻した。


「なによこの気持ち……っ!! もやもやするんだけど!!!」

「ええぇ?? それってもしや……!」


私が悶々と唇を噛んでいると、ひなたが短いスカートをぱたぱたと乱しながらも、私に飛びついてきた。


「おめでとう! 高校生活二日目にして、恋、しちゃったんだー!」

「こ、恋ぃ??」


ひなたの言葉にぎょっとする。


「誰が、誰に?」

「そりゃ天詩が、安久麻くんに、でしょー?」


はあぁ!?

私が? 斗真に? 恋いぃ!?


「わっ、私が斗真をなんて、絶対、ない! ないないないない!」

「えー、そんなの恋愛経験からわかるでしょ?」


ぎく。

一瞬の沈黙に、ひなたは私に抱き着いたままも鋭い視線を向けてくる。


「どした? ……まさかとは思うけど、恋愛経験がないとか、言わないよね?」


うう…。

図星です……。


「だ、だって! いい人いなかったし! 告白とかは山ほどされたけど、好きとかわかんなかったし!」


じとーとした視線を向けられ、私は自分を制止する。


「あのねー……まず、さらっと山ほど告白されたとか言わないでよー、うらやましいじゃん! しかも……!! 恋愛経験無し!? ゼロなの!?」

「あはは……」


私がうなだれると、ひなたは私の周りを指さす。


「ほら、振り返ってみなよ! 天詩の彼氏になりたいって人が星の数ほどいるのに!!!」


そう言われて振り返ると、いつの間にか私の後ろにずらっと人が並んでいた。

何事?!


「「「天詩様が振り返って下さったぁ!!!!」」」

「「「天子様、彼氏にしてください!!!!」」

「「「天詩様の彼女にしてー-!!!」」」



「うん、これは急いだほうがよさげだね!」


ど、同感……。

ひなたの声で、地響きを立てて追いかけてくる集団から全力ダッシュ。



……これ、毎日こうだったら大変かも……。


誰か私を守ってくれるような人、できないかな……?

真っ先に浮かんだ斗真の顔を、私は急いで吹き消した。


まさか、そんな、ね……。



ʚɞ



「ねねね、このクレープ屋さんやばくない!? 太る、太る、やばいー!」

「生クリームがふわっふわあ……」


我が学校は、食事が豪華なことで有名!!

朝と昼は、フロアいっぱいに並ぶお店でご飯を食べ、夜は食堂で食べる。

この学校は私立だし、だからか豪華さにこだわってるから、美味しいものばっかり!


ずらっと並ぶ店の中で、私たちはクレープを選んだ。

それが大当たり! めちゃくちゃおいしい!!


「ああー、幸せ……っんげ!!」


幸せを噛みしめていると、ひなたにべしべしと背中を叩かれ、私は涙目になって顔を上げた。


「なにって……げ」



「フルーツクレープ二つお願いします」

「お願いいたしますっ!」



よりによって、黒花さんと斗真が、同じ店に来た……!

ひなたがやや険しい顔つきで、二人を見る。


「ほら、アピールタイムだよ! どーんといっちゃいな、どーんと! 黒花さんに負けないで!」

「だから、別に好きとかじゃないって……!!」


昨日の夜こともあったし、気まずいでしょ!!

しかも、黒花さんもいるし……。


「じゃあ、二人がどんな関係か、知れなくていいの!?」

「んんぅうううーっ……!!」


それは気になる……!!


こそこそと耳打ちしあう中、斗真たちは私たちに気付かずに、一番端の席をとった。



「私は手を洗ってきますので、斗真さんは誰とも話さずに、口を開かないでくださいね。ちゅーこくです」

「はいはい、いってこい」


仲良さそうで羨ましい……はっ、今私なんて!?


「とゆーかー、今の感じ、束縛じゃない??」


ひなたが不躾に二人を眺めながらも言う。


「え、そなの??」

「そうでしょ。誰とも話さずにとか……口を開くなとか……んあああー! 納得いかないっ!!」


だんだん怒りが溜まっていったのか、ひなたはいきなり立ち上がった。


「っちょ、何を……?」

「そりゃ、安久麻くんにガツンと言ってやるのよ!! 天詩、着いてこーい!」

「ひっ!?」


私は腕をつかまれて、ずりずりと引っ張られていく。


斗真がようやく私たちに気付いたというように、目を丸くさせた。


「あなたねーっ! さっきから聞いてると、束縛されっぱなしじゃない! あんなの彼女にしちゃダメ! 別れなさい!!」

「ぴああぁああぁー!? ひなたのバカー!!」


人差し指を斗真の顔に突き付けるようにして、ひなたは言い放つ。


「ひなた、声大きい! しかも何言ってるの!?」

「いいの! どーせ彼女にするなら、天詩がいいよっ!」


ぴぁああああぁぁぁぁぁあ!!!


と脳内が悲鳴を上げる。

ななななななにいってるの!?!?


「何言ってるのかわからんけど……誰の事?」


斗真が、きょとんとした顔のまま尋ねてくる。


「そりゃ! 黒花さんに決まってるでしょ!」


「黒花……?」


ますます目を丸くして斗真は尋ね返してくる。


いやいや、彼女の名前忘れたの!? 頭大丈夫?


「黒花は、彼女じゃないけど……」

「じゃーなんだっていうのよ! 友達!? 友達かあ!?」

「ひなた怖い怖い!」


ひなたがますます目をとんがらせ、斗真に突っかかる。


一方で、彼女じゃないと分かった瞬間、安心している私がいる。

この感情って……?


そんな私をおいて、斗真は口を開く。


「だから違うって……黒花曰く、俺はあいつのペットってだけだけど……」

「ペットぉ!? 束縛以上の問題!」


ひなたがぶるぶると震え始める。

私も同じく固まる。ペットって……どういう事……!?


「そ、それで安久麻はいいわけ……?」

「ん? 別にいいけど」


斗真は全く気にしないとでも言うように頷く。


「……ならばとにかく、その心、叩き直すしかないっ!」

「ひなたーっ!?」


ひなたが斗真をぶんぶんと振り回す。周りの生徒も見てるし……!!


私がひなたを止めようと手を出したその時。

その一瞬先に、斗真に伸ばされた手が、ひなたの動きを封じた。




「斗真さん……よ、よくできました♡」




後ろから斗真を強く抱きしめる少女。

さらに斗真の唇に、自分の人指し指を当てる黒花さんが、にこりと私たちに微笑みかけていた。


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