7章:似たもの同士
私は不登校になった。
原因はクラスメイトからのイジメだ。
何でこんなタイミングで、こんな目に遭わなきゃいけないの。
ー私はあんまり家にいたくないのに。
私の両親は離婚していた。それからは、お母さんとおばあちゃんの3人暮らしだった。
でも私は、おばあちゃんが大嫌いで、ほとんど口を聞いていなかった。
大嫌いな理由なんて決まっている。
「お父さん」を家から追い出したからだ。
お母さんも仕事、仕事でろくに私を見ていない。仕事にこだわる理由は知っているけれど、それでも何となく寂しかった。
ー私には、誰も信頼できる人がいなかった。
笑人と会えなくなった。それだけが、私の心を締め付けている。
イジメなんて正直どうでも良かった。どうでもよくはないけれど、笑人への気持ちの方が上回っていた。
少なくとも2年の間は学校へ通えない。今は9月の中旬だから、これから半年以上もこんな思いを抱えなければいけないのだ。
もう忘れよう。忘れられればラクなのに。そう思っても無理だけれど。
ーイジメは絶対にダメだ。あってはならない残酷なものだ。
その思いが強く芽生えた瞬間だった。
※ ※ ※ ※
「そんなに好きなら、チョコレート渡せばいいじゃん」
お母さんはお酒を飲みながら笑う。
「でもまぁ、人を好きになるっていうのは良いことだよ」
お母さんは呑気に笑った。
不登校になる前日、私は家族に思いの丈をぶつけた。
最初は怒っていたお母さんも「じゃあ学校行かなくていいよ」とキレ気味に言ってくれて今に至っているのだ。
仲が悪かったおばあちゃんとの関係も、以前みたいに無視しようとは思わなくなっていた。
家族仲がありえないくらい良くなった。
そうだ。お母さんに恋愛相談をしていたんだ。
「ママも渡したよ。小6の時だったかな」
お母さんの話を聞いて決心したー笑人にチョコレートを渡す。
「2月14日はバレンタイン。大好きなあの人に…」
数日後にバレンタインを控えた今日は、お父さんとショッピングモールに来ていた。
久しぶりに会ったお父さんとのお出かけは新鮮で、なぜか泣けてきた。
たくさんおねだりして、本をたくさん買ってもらった。
そして、チョコレートも。
数ヶ月前にお母さんに言われた言葉と、先月「青生に言われた言葉」が、今だに頭から離れなかった。
お父さんと笑人にチョコレートを渡すことに決めた。
色々悩んだ末の結果だった。
ー私はもう後悔しない。
「もう残りわずかかと…」
病院の医師は申し訳なさそうに呟いた。
俺の寿命は後1カ月。そう宣言された。
もう伸びることはない。俺に1ヵ月以上先の未来は訪れない。
光羽が学校に来なくなってから、5ヵ月が過ぎていた。もう顔さえ鮮明に思い出せないくらいに、存在が薄れていた。
一向に薄れないのは「好き」という感情だけ。
顔も声もろくに思い出せないのに、自分の感情だけは覚えているなんて不思議だ。
それくらいに大事な存在だったのだ。それなのにもう会えないかもしれない。
光羽が今年学校に来なかったら、俺は二度と彼女を見れない。
そんな残酷な事があって良いのか。
天葉から聞いた。光羽がどんなイジメに遭っていたのか。彼は言いたくなさそうだったけれど、無理やり聞き出した。
光羽がイジメられて不登校になったことは、人数が少ない学年ではすぐに広まった。
たとえ戻ってきたとしても中3からだろう。でも俺には中3はこない。
来月、命が尽きるのだー。
クラスではたまにバレンタインの話題が上がっているが、知ったことか。
俺が今一番欲しいのは、チョコレートなんかじゃない。光羽でもない。命でもない。
ー光羽の未来が幸せだという確証だ。
※ ※ ※ ※
青生の言葉ー「多分、笑人と光羽はまた会えると思う」
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