5章:笑う人と光の羽

ー俺はもうすぐ死ぬ。

遺伝性の病気。親が原因。

中学生になってすぐの頃、朝起きた瞬間ぶっ倒れた。

目を覚ましてすぐだ。「一命は取り留めました」そう言われたのは。

今度こそ、倒れた時にはもう俺は目を覚まさないだろう。つまり死ぬ。

別に、死んだって今のところ悔いはないし、もうどうでも良かった。

親に恵まれず、親のせいで病気になって、もうすぐ死ぬ。

どうせ、なんの取り柄もない自分なんだから、別に死んだって誰にも迷惑はかけない。

今までずっとそう思ってきた。

絶対に変わらない、と。

ーあの子に心を奪われるまでは。

その子は、よく俺のクラスに来る。明るくて目の大きい女子。

初めの頃は、何となく気になっている程度だった。

でも今は、後戻り出来ないくらいにー大好きだ。

もうどうしようもないくらい。よりによって死を覚悟しているときに。

自分の弱さ、愚かさにゾッとして、彼女の気持ちから逃げようとした。

でも彼女を見るたびに、心は落ち着かない。

ー本当に、このままで良いの?

彼女は、俺の心に訴えかける何かを持っていた。

真偉から聞いた。彼女の名前はー本田光羽という。

光羽。心に留めておく。死んでも忘れたくない名前。

よくクラスメイトの香織と、たまに茉莉と、話しているのを見かける。

あと最近、俺の近くにくる男子がいる。

ー雄大だ。

雄大は光羽の事が好きらしい。なぜ、俺に話してくるのかは分からないけど、俺も光羽が好きだから、話は心を無にして聞いている。

真偉からの情報では、後期中間テストで光羽は数学の点数が97点だったという。

その時、俺も光羽みたいに数学は頑張ると誓った。なんて単純なんだ。

それよりも雄大だ。雄大は、俺に必要以上にベタベタしてくる。

何が目的だ。毎日光羽のことを話してくる。

いつの日か、光羽が心の支えになっていた。

そして、死にたくない、なんて思い始めてしまった。

雄大は楽しそうに光羽の話をしてくる。俺だって、こんな風に楽しく語れれば良いのに。恋愛を自由に出来る人生でありたかった。

光羽の事は好き。でも恋愛はしない。

だって、恋愛をするという事は、いずれ来る未来を受け入れにくくするから。

矛盾しているかも知れないが、これ以外の考えは浮かばなかった。

真偉と俺、七星と光羽で帰った日、スゴいドキドキして何も話せなかった。

マイナス2って言ったのは、俺が七星に対して嫉妬した数を表したんだ。

俺だったら絶対にしないのに、って事を七星がしてたから。それなのに光羽は七星と楽しそうに帰ってたから。少し意地悪してしまった。

でも次の日、また具合が悪くなって休んだ。怖くて、もう死ぬのかな、なんて考えた。

絶対に恋愛はしないと決めたのに、光羽への想いが消えない。

死んでもいいと思ったのに、死にたくない。このまま死ぬのは耐えられない。

ずっとそうだ。体育祭が終わった頃くらいから、ずっとそんな感じだ。

光羽が笑顔なら良い。でも雄大とは付き合ってほしくない。

そんなワガママが心で疼いていた。

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