序章:君がいた証

中学3年生の冬。私は線路沿いの道をひたすら歩く。

肌に刺さるような冷たい風と、優しい光を放つ太陽が街や人々を守っている。

私が向かっている場所は、ある人の家。

ちょうど1年前の今日、その人は亡くなった。

今日は、その人のお母さんに招かれて、お線香とーあるものを渡しに行く。

それは、「彼」がこの地球に存在していたという、証のようなものになるのだろう。

彼のためにーもしかしたら自分のために「書いた」のかも知れない。

今歩いているこの道も、彼が存在していたという大きな証になる。この道はもう何百回も歩いている。でも同じ1つの道でも、歩くたびに感じている思いは日々全然違った。

嬉しくて、ニヤけながら歩いた日もある。悲しくて泣きながら歩いた日もある。あまりの切なさに苦しみながら歩いた日もあった。

その全てが集まったものが「思い出」なのだろう。

今日は思い出を、彼に伝えようと思っている。私が見えていた世界。彼も知らなかっただろう秘密。私の全てを彼に伝える。

そして、その思い出を伝え終わった時には、彼にー笑人に「また会おうね」と伝えよう。

自分の考えに笑みが溢れる。ずっと私自身が望んでいたことだ。

私は自然と、彼と初めて出会ってから、亡くなるまでの2年間を思い返す。

ふと、気がつくと目元がしっとりと濡れていた。

あ、ヤバいと思ったけれど、誰も周りにいないことをいい事に気にせず歩を進める。


確か出会いはー。

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