第19話 ダグラスを名乗るもの、ダグラスと呼ばれるもの
市井にはダグラスの名を持つ者は大勢いる。
尊敬と敬愛を持って親しまれ、世代を超えて慕われている元伯爵ダグラス。
生涯を通じ民主改革に力を注ぎ、市井では敬虔な祈りを捧げられ慕われている。
すべての権力・財力を奪われても尚、力のない者の為に立ち上がり、流通改革や農地改善、教育支援等を成し遂げ、その死後も大いなる尊敬と敬愛を持って祈りを捧げられている。
孤児院での識字率の向上を図るため、教会を巻き込み、僅かな私財を投じて、司祭や聖姉妹の意識改革を始め、市井ギルドの主だった面々との橋渡しを行ったのも、成し遂げた改革の一つである。
今より昔、随分昔、良政を敷き、善く見、善く聞き、良き指揮を執る、民衆に人気があり豊かな領土をもつ、ダグラス伯爵がおられた。
王国に迫る敵国との戦い『フォルデバンの戦い』において、政敵に罠に嵌められ奮戦むなしく敗戦濃厚となるも、軍の殿となり逃げ伸びた。
その際、敵に国境線を越えられてしまったことから王国領土の一部を失った。
失策となった原因は、王を始め軍略本部でも宮廷内でも承知されていた、それ程、稚拙な罠であり、ダグラス伯爵を擁護する声も高らかであった。
政敵を排除せんと欲した、王より戦況の報告と弁明の機会を与えられたのだが、事実のみの報告を行い、一切弁明を行うことなく、全ての責任を受けいれたのである。
弁明を行わず、王の叱責を受け入れたことが仇となり、貴族社会では、王命を曲解し国土を失う失策を起したと記録される事となった。
それらの事柄から褫爵され、処刑は回避されたのだが、市井に下る事となって以後、貴族社会では、ダグラスの名は『間抜け』の代名詞となった
グログル王国北部国境地帯フォルド子爵領領主
レジュルログ=アルデ・ド・フォルド子爵
と
フォルド子爵領の隣接領領主
ガリグレン=ドュヌバ・ド・サーフェデラ伯爵
(幼年寄宿舎時代の渾名ダグラ)
ダグラスと呼ばれるもの
フォルド子爵はサーフェデラ伯爵の、幼年寄宿舎での5年先輩にあたる。
幼年寄宿舎は下は11歳から16歳までの貴族の子息を教育する学校。
幼年寄宿舎を卒業すると、騎士訓練所への進路と、図書館司書学舎への進路に、分れ進み、武官・文官の道を目指すことになる。
最上級生は新入生を指導する為に、1対1若しくは1対2で半年間寝食を共にし、寄宿舎のルールを教え込む。
フォルドは最上級生として、サーフェデラの指導者にあてがわれ、半年間共に過ごした仲である。
寄宿舎内での家格は意味をなさない、どの様な家格であれ、自身にはなんら爵位は無いため、親の威を借る事は無能者ですと、公言するのと同じである。
尊称はバルレステンと呼ばれ、『尊き方の庇護者』を表している。
現フォルド子爵は、現王都宰相家フォルド伯爵の次男にして、寄宿舎卒業後、騎士団入隊後、自身の勲功により叙爵され、子爵となった。家督継承権を維持するためにフォルド伯爵家領地内に子爵領の分領地を頂いてる。
寄宿舎時代はアルデ・フォルド=バルレステンと呼びかけられている。
アルデの3つ上に兄がいたため、洗礼名を付けて呼び分けされていた。
父爵フォルド伯爵領内では、父爵が健在であるため、兄と共にバルレステンとの
尊称が健在である
現サーフェデラ伯爵は、老いた父爵からヴォーダを指名され家督を継いだ。
サーフェデラは、入学時サーフェデラ=バルレステンと呼びかけられていたが、入学3か月目の秋に校舎の中庭に建つ、第12代グレバリン王(盲目王)の頭に作られた鳥の巣を取り除いた時。
誤って卵を、王像の足のサンダル脇に落したにも拘らず気付かずに立ち去り、掃除せずに放置したとして、王家に卵を投げた愚か者と揶揄され、ダグラス(間抜け・怖いもの知らず・世間知らず)と寄宿舎期はからかわれていた。
本来立ち去る前に、振り返り王像への敬意を示さねばならなかったが、失念したままであったことが主原因である。
尤も、途中脱落していく者が多い中、無事に卒業できれば、難易度の高い学業と剣術を収め優秀さを示した実力者であることを、認められるため、問題になる事はない。
只、サーフェデラの部屋兄として、後始末にフォルドが奔走することになり、同室教育期間終了後も、なにかと後始末にフォルドが奔走することになっただけに、フォルドだけは未だに非公式の場でダグラスと呼ぶことがある。
幼年寄宿舎には女子はいない、貴族の息女には6歳~15歳までは、主に家庭教師が付き、15歳で社交界デビューを果たす。
息女の適齢期は14歳、妻としてのお披露目会として社交界デビューする令嬢が多い。
昨今、未婚のまま社交界デビューし、6歳~19歳まで女学舎に入る貴族子女も増えてきている。
主な学科は、読み書き・ダンス・音曲・詩の朗読を日々こなし、お茶会を開き、派閥を作る事。
女学舎とは世間体をおもんばかった苦肉の学問所となっているが、稀に図書館司書学舎に進み学者になる才女もいる。
特殊な事情を考慮され、女ながら騎士団傭錬所に入り騎士に叙爵される者もいるが狭き門である。
家督は男子継承であるため、女系貴族は婿を取り家を守ることが一般的だ。
平民への学問の道も開かれているが、学費が高額なため、上級平民か、貴族家次男以下が入る。
識字率は王都貴族社会でも86%、平民に至っては23%、完全文盲は46%にものぼる。
地方に広がるほど、識字率は下がる、不利な契約や詐欺に会っているが、理解出来ていないため、貧富の格差はとても大きい。
そのため孤児院育ちで、読み書き計算ができる子供は重宝される、孤児院育ちであることに、一般的に悪感情はもたれないが、ヤッカミから不当な扱いを行う者もいる。
その他、魔力を持つ者は多く、平民にもいる。
魔力を魔術に昇華するためには、魔術学校への入学か、神殿に入る事が一般的。
魔術学校は学費が高額、特待生制度が有り、無料ではないが一部免除され、卒業後返却を求められる。
神殿学校では、無料で教育を受けられるが、在学中はもとより、卒業後も縛りが多く、学びたい魔術を好きに学ぶことができない、主に、薬草学・祝福学・補助魔法学・付与術である。
治癒魔法は祝福学の一部で専門性はない。
防御魔法は補助魔法学の一部で専門性はない
一方魔術学校は、基礎魔術から専門魔術まで学費に応じて学ぶが、治癒と防御と攻撃魔法と全般に扱えるものは粗いない。
孤児院の学力は、掛け算割り算が判るものごく一部いるのと同時に、勉学の怠りから、貴族社会全体での文盲率の推移も問題視されている。
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第十九話 ダグラスを名乗るもの、ダグラスと呼ばれるもの
さて次回は
サーニャと一緒に収穫祭に行くと約束したブルダック爺さん
朝からソワソワ畑仕事もソワソワ、スッ転ぶ
昼飯も食わずに裏庭のカウチでソワソワ、昼を過ぎてもサーニャは来ない
オバケ芋瓜を一緒に作ろうと準備万端ブルダック爺さん
陽が傾き始めて寂しくなってきた、ホロホロホロホロ涙が零れる、
サーニャと呟く声が漏れ出てくる、カウチを揺らしてサーニャを待っている
陽も沈み辺りが暗くなり始めた頃、サーニャの声が聞こえてくる
サーニャが駆けて来る、背中にトンと温もりが嬉しくって
サーニャをハグしようと振り向くブルダック爺さん
涙と鼻水と涎でグッチャグチャ、額には畑で転んで切った血の跡が
収穫祭はまだ先だよ、今日は楽しい花火祭り
次回「第二十話 再会」
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