第12話 ダチュラ姉妹



エクレット診療所内



「手順を確認しようや、なんにしたってこのままじゃ子爵んとこに辿り着けん」

 デガンダの言葉にその場の皆が頷く。


「その前に、纏めてみない?」

「そうね、まずは、あの子たちがどこから連れてこられたかよね。

 森に入る前は神殿に居たのは、間違いなさそうね」

「それと、誰があの子たちを生み出したかってことよね」

 ポキポキと手の関節をならしながらシュクレが話を引き継ぐ。

「どうもカリューグ男爵家が関わっていそうだよな、派手好きで煽れるとすぐに剥きになりそうな人物っていや、三男ってより四男の方が怪しいな」

「そこにグラバラス商館が巻き込まれたって線が濃厚ね」


「神殿から連れ去ったのは、ゴロツキの冒険者ってのは、攪乱ぽいが、裏には間違いなく貴族が絡んでるな、ゴロツキの冒険者や夜盗だけじゃ、モージェスの神殿からは連れ出せねえ」

「けどさ、なんで神殿が正規の手順であの子たちを確保せずに、人目を忍んで神殿に囲い込んだんだろう?」

「神殿も交雑配奴隷って判ってるのよね、火あぶりにするつもりなら、神殿兵が動くよね」



「メノに裂傷があったのよ、まだマニシの印も来てない子達なのに、怪我の治療もせずに聖護法印を付けるなんて、生臭坊主共め」

「施されてたのは間違いなくゼルサス聖護法印よ、この件神殿が絡んでるのは確実よ、奪ったのか奪われたのかはたまた処分前だったのか」

「教会の神父なんざ事なかれ野朗だしな、聖巫女ならエロールの聖護法印をつけるだろうし、治療術くらいは施すだろう」


「あの子達に秘密でもあるのか、ゼルサス聖護法印が刻まれていたのは乱暴されないようによね、内に何かあっての封印か?

 焼印は単なる拷問だよね、表には魔法陣は刻まれてなかったし、まさか魔石持ちってことないよね?」

「ゼルサス聖護法印が消えないと、呪印の有無は分からないけど、そこまで危険視されるとは考えすぎかな」


「うーーーんそーだな」


「なら血か、貴族か英雄の血か、はたまた聖人か・・・」

「蒼い血が混じってるっていうの?」

「他種族の血?」

「「「・・・・・・」」」

「イヤイヤイヤ「まさかね「・・・・・・」そんなのありえないじゃない」バニュダンの気まぐれってやつか」そんなの!ジュグダの天秤に乗せられる物じゃないじゃない!!!!」そうとも尋常じゃない」


「ウソよウソよ!そんな考えは間違ってる!」と、シュクレはエロールの印を切る。



「さっきデガンダが説明してくれた、交雑配種奴隷なんだろ?」

ジノッカーブァッカじゃない!交雑配ってね、富豪とか貴族や聖人共が、おぞましくも子邪鬼の如く乱交した結果の落胤だったりの事よ!!

 父親・母親不明だけど蒼い血が混じってるってことで、他種族の血って何言ってんのよ、交雑配種って言ったってキメラじゃあるまいし、獣族や聖霊が混じってるっていうの?」

「シュクレ、シュクレ、シュクレ」

 そう言ってデガンダがシュクレの頭を抱えこんで落ち着かせようとしている。



「そうね東西南北の土地土地から連れて来られた奴隷や、出自不明の奴隷も交雑配って言われたりするんだよ。

 ほら、目の色が違ったり、髪の毛の質が違ったり、肌の色が違った人族を見たことあるだろ。

 その土地土地で育った環境が違うだけで見た目が違ったりするのさ、けど人族は人族、出産も可能さ。

 隔離された環境下で近親交配しちまう奴隷もでてくるだろうさ。」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」 

「・・・・・・・・・」



「シュクレ落ち着いたか、シュクレ愛してる、すまねぇ不用意だったな。」

「・・・大丈夫、デガンダありがとう、もう大丈夫。続けましょう」

 そう言いながら顔をあげたシュクレの瞳からはホロリホロリと涙が流れ落ちる。

 エクレットがシュクレの隣に腰を下ろし、頬にキスをして、

「大好きよ」と囁く。

 ウンと肯くシュクレはもう、毅然とした表情に変わる。



「さっき気付いたんだろ?その呪石」

デガンダがシュクレのベルト部を指差しながら問う。

「っ!!」

「私達、現実は残酷だって知ってるわ、けどトイチ村やサイジョケ村とも違うって事も知ってるわ」

「・・・・・・・・・・・・そうね・・・・・」

 そう呟くサリシュの顎をクイっと上向けエクレットは、チュッとキスをした。




「悪かったわカンド、デガンダの見立ては間違ってないと思うわ。

 拷問の怪我とか栄養不良で変形した体は、ダチュラじゃ良く見かけるのよ、それと同じだって、そう思おうとしてたの、けどねやっぱりね違うのよ」

 シュクレはボクの目を見てはっきりと言った。


「???どういうこと? ボクは聞きかじっただけで、全く繋がりが解んないんだけど」



「ありゃぁ、目耳体格皮膚感どれをとってもただの種族間交配じゃねぇ。

 複合的に様々な特徴がまじりあって、有り得ないバランスで成り立っとる。

 どれ程悍ましく絶望的な環境で生きてきたのか、思いも至らん。


 異種族間での婚姻が忌避されるのには、訳がある、妊娠しにくいんだ、身籠っても生まれてくる子は短命、流産が最も多い。

 オツムが不足していて、体の内と外で欠損が見られる、なにより母体がもたねぇ、禁忌じゃないから、罰する事はできない。


 普通は奴隷でも同族間で子供を増やす、ワザワザ異種族交配して、働きもできない子供を作らせようとすることも無ぇだろう。

 ただ同じ塒で放置されてると、出来ちまうこともある、が、共倒れだろう」


「人族と獣族は違うことはわかるよね、妖霊族と人族って、似ている様で、まったく別なの、それは精霊族と妖霊族の間でも同じこと似ているけど、全く別。


 人族は原始的な地を這う人族から今の人族へと歩んできた。

 獣族は四足の獣から獣の特徴を備えたまま2本足で立つ獣へと変化していき、やがて人族と同様に獣族として文明を持つようになったの。

 決して人と獣の交配種じゃない、だから混じり合うことができないと、されているのよ」



 エルフやノームやドワーフの精霊族は、人族との見かけが変わらないが、身体的特徴が部分的な違いしかないことから、混血はたやすいと思われがちだが。

 そもそも種族的な寿命が違う、人族は約80年、獣人は約60年、ドワーフでは500年 ノームは700年 エルフでは1000年もの長寿を持つ。

 体細胞の老化速度が全く違う、混血することがない筈が、人族の身体的神秘が時折、奇跡を起こし、人族のみ受精してしまう。

 しかしながら、母体での成長途中で流れてしまったり、人の形を保ったまま生まれることはなかった。


 歴史上種族的混血と知られた存在は記録されていない。


 獣人は受精可能時期がほぼ決まっている、さらに3~5の多頭出産し、未熟児出産であるため、死産や成長不振が多く人口低下が緩やかに進んでいる。

 精霊族はマニシの印を迎えるのが生後2~30年前後だが、周期が2~4年に数回と不定期で迎え、個別生活を主としていて、つがいで生活する習慣がない、種族的破滅は顕著に進んでいる。


 人族の種族的特徴として、年中発情状態であること、寿命60年にも関わらず受精可能となるマニシの印が11~50歳まで毎月ある、国が安定するとともに、人口の増加が加速している。




「体の組成はもちろん、成長速度も寿命も妊娠期間も生まれ落ちる状態も違う、獣族は生まれて直ぐに這い出すんだもの、その典型でしょ。

 でも、バニュダンの気まぐれで、獣族と人族、人族と精霊族とが子を成す奇跡が起こるの。

 人族の女の腹が如何に神秘なるものか」


「獣族と妖霊族では相容れないのに、半人半妖とか半人半獣は、何故かジェグダの天秤が均衡を保つことがあるのよ、但しスラグの加護があっても、生きて成長したって話は聞いたことはないの」


「それでも、当人同士の恋愛感情から番になることもあろう、祝福はされねぇが、異種族間の交配そのものは禁忌ではないし、華鳥街に行きゃぁ、そこここの店で盛ってるわな、男は種族を超えてスケベだ。

 ただ所有奴隷で掛け合わせたと知れれば、正気を疑われるだろうな。


 奴隷は所有物だ家畜と変わらん、食事を与え寝床を与え衣服を与えられていれば、不幸とは言えん。

 小屋の外で飼育されてる家畜は虐待か?旅が出来なくなる。

 鞭打たれる家畜は虐待か?早駆けも耕作もできなくなる。

 戦場じゃ時に、メーメを相手に盛るヤツも居る、性の捌け口にされても罪には問えん」



「なのにあの子達は、立歩きに不自由が無く、互いに思いやる感情を持ってる、それに言葉を理解している。


 呪いや、呪縛のアイテムが身に着けさせられている様子が無い、なのにね、恐怖で竦んでいても指示されたことに直ちに従う。

 躊躇いが無いって、いったいどれ程の精神力なの、驚嘆するわ」


「それって、どういううこと・・・」


「腕を切られるかもしれない恐怖がありながら、腕を出せと言われて恐怖心も面に出さずに怯み無く腕を出せる?

 殴られることが判っていながら、立てと言われて感情を消して、躊躇い無く直ぐに立ち上がれる?

 あの子等は恐怖や痛みでさえ、怯む事すら許されない生活だったのか。

 吐きたくなるようなことだけど。

 主人を喜ばすだけだって事を知っての自衛策なのか・・・」


「あの子等が縛られているのは、呪縛でも恐怖でもない、生きる事への執念、ただただ生き残る術として身に付いたんだろうさ」


「・・・そうなのか、だったら尚の事あの子達を生かしてあげたい。

 その方法があるなら、巻き込まれても良い、手助けしたい」

「巻き込まれても良いってさ、あんた生活一変するよ」

「親なし弟子なし銘もなし、ただの下級新参の細工物師だよ、大した変わり様はないんじゃないかな」


フルフル「これだから、星星の加護持ちってーのは、お気楽だねジュグダの天秤に乗ってるのは、あんたの命だからね、言葉一つ、視線一つ間違えただけで、あっけなく刈り取られちまうんだよ、変わり様がないと思えるんなら、その方がこっちは進め易い」と、エクレットは呆れた仕草で、少しは危機感ってものを持つべきだわ

と呟く。



「あと、これは知っておけ、姉ちゃんの方は喉を潰されている」

「!!!え?」



「それとね、カンドあなたは、大きい子の耳を見た?

耳朶が無くて、耳介結節が発達して小さいけど耳輪が外に張り出して尖ってる、片方だけど碧の瞳と足関節のアンバランスで脛足のほうが長いの。

 これは森緑霊族つまりエルフ族の特徴よ、自己治癒が早いようで、ここに来たときに付いてた小さな擦り傷とかが消えてしまってたわ。


 小さい子の方は身長に対して腕が長いの、小指も長く五指の先が膨らんでたわ、足の平が身長に対して大きいのよ、成人女性くらいの大きさだったわ。

 地中妖族ノームの特徴が見られるの」と、エクレットは、教えてくれた。



「でも、あの子達は人族でいいんだよね? 獣族も妖族も人の子は作れないなら、あの子達は人族の女が産んだ人族だよね」



「そうよ、あの子達は人族よ、体の作りも特徴も人族なのよ、けどね、けどもね、んーん病気や怪我で変形しちゃうこともあるし。

 直りが悪いことだってある、だから、ちょっとした違いで、他種族の特徴と同じだなんて決め付けちゃいけないんだけど・・・。

 やはりね人族だけじゃないの、目を逸らしちゃいそうだけど、霊薬反応や呪石反応が人族以外も示しているの、だけど人族から生まれた人族なのよ」と、シュクレはそう語る。



「デガンダは直ぐに気付いたんだよね?」

「ああ」


「気付いて厄介者だって言ってたのに、助けてくれて有難う。

 知恵を貸してくれて有難う、有難うシュクレ、エクレット」



「トッパチモンには替わりねぇけどな、わかるか?これが世間に知れたら、王都が動くぞ、どころか周辺各国も帝国もだな」

「えっ!そんな大事?」

「ああ、エルフもノームも長命種だ、人族の何倍も生きる。

 更にエルフの感応力に治癒力、ノームの知恵と精錬能力が備わっているなら、人の身に宿せた奇跡をほっとかねぇ、特に王立技量技術館が、何としてでも欲しがるだろうな」



「奴隷の登録記録は、残っているはずだ、子爵ンとこの管轄だもんな」

「なら流れも追えるか」

「合法で手に入れてるはずだしな。」

「そんなもの手に入れてどうするんだ?」

「貴族相手に裏で絵図書いても無駄だ、こっちが食われる、だから正攻法でいくんだよ」

「子爵騎士団に奴隷の保護を申し出る」

「するとだな、逃げ出した奴隷か盗まれた奴隷か吟味に入る」

「奴隷は資産だからね」

「となりゃ、交雑配種なんてことはすぐに知れる、貴族相手に物言いはつけられんが、火種は落す」



「先ずは騎士団にいって、清廉許可を貰わないとね、詰め所の騎士だけでもいいんだろうけど、団長にも会っといた方が良いよな」



 清廉許可とは、一般市民が領主の下に複数で陳情に訪れる場合、騎士団の詮議を受けて、害意がないことを検分してもらい、許可を貰うことで、貴族街に馬車を乗り入れることができ、陳情の謁見を申請することが出来るようになる。


 このときに騎士団長の詮議を纏めて受けていれば、状況によって

は、子爵城館への訪問許可を申請することが出来る。

 これが上級市民であり、城館への出入りの実績があるなら、子爵領館衛士へ申請することが出来る、

 エクレットは冒険者とはいえ、大鷲印可を受けていて、准男爵の身分を持っているため、エクレット自身が子爵への面会を要望することは、さして難しくはないが、今回は、一般市民であるカンドが主体となるため、申請手順がなかなかに難しい。




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第十二話 ダチュラ姉妹


さて次回は

ゴッツンゴッツン薪を割り、次から次に薪を割り続けるブルダック爺さん、

額にうっすら汗をかき、割られ積み上げられた薪は、ブルダック爺さんを

取り囲むように山になっていく、ゴッツンゴッツン薪を割り、背丈以上に

積み上がっていく、薪を縛る縄は小屋の中、昼飯も水桶も小屋の中。


次回「第十三話 スキルックの鏡」





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