第13話 メレンケストの歯車
騎士団詰所
騎士団といっても団員はせいぜい
団長室にて、ギルバディア=ラルゴ・ド・マルディゴート男爵と、騎士長ベルガランドが打ち合わせの最中。
「団長、今朝の引継ぎの後、御領主様らの知らせが入っております」
「俺のところにも、出かけ際に知らせが入った、内容は?」
「昨夜遅くに神殿に賊が入り奴隷と聖櫃が盗み出されたとのことですが、神殿側で賊は捕らえたとのことです」
「ブレバイラスの森林地帯の『トートスの巨岩』付近で賊は、撃退されたとのことのようだが、どうやら伯爵様が絡んでおられるご様子でな。
奴隷はエクレット様の治療院に運び込まれたそうだ」
「はいそのようです、エクレット様のところには、平民が担ぎこんだとのこと」
「で、なんだが、御領主様への繋ぎの依頼が来たら、通してやってくれと話があった」
「奴隷でございましょう?
聖櫃は取り戻したなら、神殿と事を荒立てるまでもないのでは?」
「その奴隷なんだが、伯爵様が絡んでいる以上は、こっちとしては『カルギアスの袋』って訳にもいかぬ、揮いに掛けねばならん」
「もちろん検分はなさった方が宜しいかと思われますが、『バウバスの腰樽』が懸念されます」
「そうだよな、御領主がこの後ご検分なさるって事は、結論は出ているんだぜ、『風紋鳥の赤冠』があれこれでしゃばることも無いわな」
「お相手がエクレット様ならば、マグメラの炎輪か、スキルックの鏡での検分を受けて頂いて、印可状にサインされる流れで宜しいかと思われます」
「聖青蒼許可状をお渡しすれば、西門衛視もすんなり通すだろう」
領館西門は、許可を受け訪れた平民が通る門。
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エクレット治療院
「じゃ、そろそろあの子たちを起こして、支度をさせなきゃね」
そういって、エクレットが隣の部屋に入っていった。
「俺達も仕度済ませてくるか、オメーさん少し待ってな」
「ああ、わかった、
「ポットに入ってる分は飲んでいいわよ」
デガンダとエクレットは連れ立って2階へ上がっていった。
いつの間にやら、行商ラッパが鳴り始めている。
あっと、もうそんな時間なんだ、商人たちが店を開いたり、屋台を出す頃に見習いの小僧共が戸口で、ラッパを吹き鳴らすんだ。
なにも商人ばかりじゃない、職人や剣士も見習いなら、誰しもが一度はラッパを吹いている。
女工さんとかは、カラカラと音が鳴る鳴子を窓から身を出して鳴らしている、これらが仕事始めの合図になっている、店も役所も開く時間だ。
門番はシーの鐘で交代するんで、この時間は引継ぎも終わった交代後の門番が町の守りに付く頃だ。
「はいはい、眠いだろうけど顔を拭いてシャッキリしないといけないよ、カンドあんたも顔洗ったのかい、身形はそのままでもいいけど髪は梳かしときな。
葉っぱやらなにやら付いてるよ」
姉妹を連れてきたシュクレが声を掛けてくれた。
「あ、ありがとう、水借りるよ」
そういって台所脇の水甕から一掬いの水を盆に汲み、顔を洗い水鏡を覗きながら手櫛で髪を整える。
「じゃ、あなた達はここに座って待ってなさい、じきに出掛けるからね」
そういって椅子に座らせた後、シュクレも2階に上がっていった。
姉妹の様子をみていると、姉は妹の手に手を添えて大人しく座って居る、周りの事には関心をしめさず、ひたすら妹を気遣っている様子だ。
何か話してあげた方がいいのかな、ただ待ってる時間を持て余したまま、スゴニルをカップに入れて飲んでいる。
少しさめてて飲み易くはなってる、追い注ぎしたスゴニルを持って、姉妹の元に歩いていく。
「スゴニルだよ、苦いかもしれないけど、すっきりするよ、熱くもないから、直ぐに飲めるよ、飲みなさい」と、カップを差し出しす。
姉の方がカップを受け取り、額に押し当て感謝の意を表す。
相変わらず何もしゃべらない姉妹だけど、二人で代わる代わるに、スゴニルを飲み、少し表情が和らいだようだ。
程なくして、3人が2階から降りてきた。
デガンダが、前ボタンがやたらと付いたベージュのシャツに、茶の皮単衣を皮ひもで結び、皮ズボンに短靴を履いている。
エクレットは白のフリルシャツに焦げ茶のジャケットを羽織り左肩に片マントをかけている、ピッタリしたズボンにブーツを履いている。
シュクレは黒の上下に前ボタンで止める両袖だけのショールを着て、シュクレも短靴を履いている、シュクレとデカンダは冒険者服なのかな?
「待たせたな、それじゃ行こうか、そいつ等はとりあえず裸足のまま歩かせる、靴なんざ履かせても、取り上げられるからな」
「服も一旦着ていた服に着替えましょうか、残念だけど、今着てる服は持っていってあげるわ。
次第によっては着替えられるかも知れないわ」
「こっちの服に着替えてくれる?」と、シュクレが元々着ていたゴワゴワの貫頭衣を差し出すと、姉妹は椅子から立ち上がり、躊躇い無く、パッと今きている服を脱ぎ去り、裸の上からゴワゴワの貫頭衣に着替えてしまった。
目を逸らす間もなくあっさりと着替えは終わった。
「今は所有者不明なだけで、この子達は奴隷なの、割り切ってね」
そうエクレットはボクに語りかけた。
「ああ、わかった、えっと、髪はこのままでも?」
「いいのよ、髪まで下ろさせるの?!ひっどい人ね」
「いや、あ、え、いいんだよね?」
「女の子なのよ、髪くら纏めさせてあげなさいよ、ひっどーい」
「ええええ、そんなにぃぃ、ごめんよ」
バシッと背中を叩かれ、「ほら行くよ」とクスクス笑われた。
「くくく、まぁ洗礼みないいなもんだ、気にすんな、くくく」と。
デガンダにまで笑われたが、いったい何がなにやら。
玄関からでると、エクレットが荷馬車を用意していた。
騎士団詰め所までは、歩くと1ガンは掛かる、貴族街の入口まで行く為、荷馬車で運んでくれるようだ。
この辺りでは見慣れた姿なのか、通りを歩く人が身窄らしい姉妹を見ても素通りしていく、時折、舌打ちする者もいるが、むしろ早足で通り過ぎていく。
ダチュラの匂いを避けているのかも知れない。
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第十三話 メレンケストの歯車
さて次回は
ブルダック爺さんは長靴が嫌いだ。
履くと左足が毎回痛い、一日畑で働いて、長靴を脱ぐとホッとする
汚れた長靴をゴシゴシ洗い、逆さに干して、家に帰る。
明日も一日長靴履いて野良仕事
爺さん、どちらも右足だよ
次回「第十四話 スキルックの鏡」
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