第9話 セキュアの絆



 ボクは目の前で粛々と進められていく計画話に、何所まで着いて行けているのか、自信が無い。

 聞きなれない言葉が、飛び交う中で、ふと彼らは何故こんなに積極的になってくれているのか疑問が湧いてきた。



「子爵んとこに行くにしても、会は無視できんな、今回はドップリ教会が絡んでると見て良い、行き成りじゃ門前払いだろうが、騎士団にも話通さにゃ御領館には近付けん、城下で冒険者ギルドに依頼を出すか」

「教会は、絶対に噛んでるよ、あの子達二人共メノが傷ついて、治療はされてないけど、聖護印が施されてる。

 施されてたのは間違いなく、ゼルサス聖護印よ」

「まだマニシの証も来てない子達なのに、怪我の治療もせずに聖護印を付けるなんて、生臭坊主共め」

「奪ったのか奪われたのか、はたまた処分前だったのか、教会の神父なんざ事なかれ野朗だしな、聖姉妹ならエロールの聖護印をつけるだろうし、治療術くらいは施すだろう、ならこりゃ」

「「「神殿だな!」」」



「あ、あの」

「神殿が出張って来りゃぁな、一悶着おこるぞ」

「でもさ、秘密裏にってわけにはいかないよな」

「あれでしょ、森で暴れたのって、聖獣ルビン、ならさ」

「司教にはこっちの動向を捕まえられてると見ていいか」



「あの!!」ボクは思わず声を荒げて、会話に割り込んだ。

「「「??」」」3人が一斉にこちらを見る

「どうした、いい手がみつかったか」

「いや、あの、あんたたち、なんでここまで踏み込んでくれるんだ?

 それに、あの子達が奴隷で厄介もんだっていうのに」

      ・

      ・

      ・


「はぁ??」「今頃何言ってんのよ?」「いまさら何?」

 と、同時に突っ込んでくる三人、辛うじて聞き取れた。


更に、大丈夫?とコメカミをトントンと叩く家政婦。



「あんたが持ち込んで来たのよね? 治療してハイ、バイバイであんた何ができんの?」

「拘った以上、関係有りませんったって、見逃してくれねぇんだぞ」

「対抗策練らなきゃ、次の手も打てないでしょ。

 何も判って無いじゃない、どうしたいのよ」


「アタシ達もここに住んでんのよ、仕事してんのよ、厄介事だろうと巻き込まれる事、承知で治療したのよ、もうね、あたし達の問題でもあるの」


「イヤイヤイヤイヤ、待ってくれ、怒らないでくれ、誤解させてすまない、ボクが一人で背負わないといけないんだと、目の前が真っ白になったんだ、どうすりゃいいのかって。

 まさか協力してくれるなんて思っても居なくて・・・。

 工房でもさ、扱かれて物作って親方や兄弟子達がいても、誰も手を貸してはくれないんだ。

 協力して何かを作ることも無くって、分業はあるよけど、決まった物を作るだけの事で、仕上げの量が間に合わないからって助けてくれるわけじゃないんだ。

 考え方や対応方法も我流なんだよ、工房内は、みんな同じなんてこと無くて、だから、いろんな話をしてくれることが、新鮮で違う世界観で戸惑ったんだ」



「アリグータスの試練を受け続ける者と、星々の加護持ちってのとの、違いってもんか、世話が焼けるね」



「ま、それによ、見ちまったしな、イテッ」パコッ、家政婦が医者の頭に突っ込みを入れた。

「メシ一緒にたべたでしょ」家政婦がニカっと笑いフォークの先を丸く回しながら答えた。

「あんな子猫を抱っこしてあげちゃったもんね」奥様がフワッとした笑顔で答えた。

 躊躇なくそれぞれの理由を話して、

「「「何か問題でも???」」」3人そろって素で疑問を投げられた。



「冒険者の流儀って事で、ひとまずは呑み込んどきな」


「分かった、助かる、その辺りはホントに助かる、それよりさ根本的に解ってないんだけど、あの子達が奴隷だっていうのは、どうしてなんだ?

 何か印でもあるのかい」

「ああ、本来なら首輪か足枷なり、額なり手の甲なりに焼印をされたりしてるな、無くても振る舞いや体つきみりゃ、そうだろうな位の目星は付く」

「そ・そうなんだ、ダチュラの子供との違いは、分からないけど、町の子供と違うことは分かる」

「つれてきた経緯も、ある程度聞いたからね、後は世間での検分の差って、ところかしらね」



「ボクは、あなたたちの事を知らなさすぎて、わーって話が進んでいくのに、このまま乗っかっていいのかと・・・」

「ああ、乗っかるってなんだ、神輿じゃねんだ、オメーが主軸なんだぞ。

 なんでぇなんでぇ、おめー知らずにここに飛び込んだのか?

 こんだけのこといきなり持ち込んで、衛兵に通報されて終わりだとか、考えなかったのか、俺達のこと聞き知ってたんじゃねぇのかよ。

 なんだよこいつぁ、とんだグランバスじゃねぇか」



「そー言ってあげなさんな、正直で、素直で、まだ手垢付いて無さそうだし。

 ダチュラの近くに居る医者だから、訳有りでも何とかして貰えるかもって事くらいは、聞きかじってたんじゃない?」

「誤解が蟠って足滑らせちゃ、巻き込まれっちまうからね。

 少し説明はしときましょう」と、奥様が話題を変えてくれた。



「私たちは、同じセキュアの元冒険者だよ、今は、医者の真似事をしてはいるけど、これでも、現役冒険者からは、結構頼りにされてるのよ」

「ダチュラに隣接したところに診療所を作ったのだって、冒険者が一早く駆け込んで来れるようにさ。

 町ん中に構えてたら、手遅れになってしまう怪我を抱えて、来る奴等がいるからね、それに、酷い怪我人をみて騒ぎになると、自警団の奴等が手当の最中でも、お構いなしに事情聴取にやってくる、邪魔で仕方ないのさ」


「俺はさっきも言ったが元呪い師マジナイシで薬草使いの医者だ、元飛燕印のデガンダだ」

「アタシは元術斥候、解呪専門に診ている。元飛燕のシュクレ」

「ここは冒険者御用達、エクレット治療院、そして私は院長兼このセキュアのリーダー、元大鷲のエクレット、傷治療を専門に診ている、戦士だ」


「大鷲って一流どころじゃないか、セキュアって血の盟約の?」

「まあね、冒険者だと組党って一括りできるんだけど、引退してしまうと、即解散ってことが多いのよ。

 だけどね、死線を潜り抜けてきた仲間ってのは、なにかと離れがたいの、私達冒険者ってさ、平民に交じって生きていくのが難しい事もあるし、頼りにできるの

は、元の仲間しかいないの。

 上級になればなるほど、世間とのズレが大きくてね、引退前からセキュアを組んでバランスをとっているのさ」

「親兄弟より絶対的な信頼を寄せてる、だから血の盟約なんて言い出すヤツもいる」


「一流どころだと貴族にも成れるんだろ、上級冒険者なら悠々自適じゃないのかい」

「まぁね、だけど良い暮らしってのはやってくるもんじゃない。

 作るもんなんだよ。

 一流冒険者っていってもね、冒険以外はからっきしさ、ギルドが斡旋してくれる仕事だって、新人教育の指導やら、防具の補修やら、警備の依頼やら、事務仕事だってドットやってくる。

 狡すっからい商人共ならまだしも、さんざん世話した商売人やら町の奴等にだっ

て、こっちが世事に疎いとばれて、したたかにカモられることもある。

 なんせ世間知らず共ばかりなもんでなね、だもんでなセキュアを組んでりゃ、身包み剥がされる前に自衛できるだろ」

「そっか、その辺りは駆け出し職人のボクなんかもよくよく注意しているよ、それにあんたら全員が医者だったのか」

「今頃かい、アタシんこと何てみてたんだ?」とシュクレが問う。


「家政婦さん」

「あひっ「ダハハハハハ「あははは、すっごい見立てだね」なんだ、そんなに御淑やかにみえたんかい」」」

 三人が一斉に反応する、シュクレの困った表情が印象的だ。

「あ、いやえっと若くて綺麗で、その、エプロンで、朝早くから戸口に出たから、てっきり」

 しどろもどろになりながらも、正直に思ったことを言った。


「若くて綺麗か、日頃から俺がいってんじゃねんか、まだまだ捨てたもんじゃねえってな、シュクレ」

「デガンダ以外から久々に聞いたわね、綺麗だって、そう思ってくれたんなら嬉しいよ」シュクレがニッコリ微笑んだ。


「エクレットと俺とは夫婦で、シュクレは俺の妾で、エクレットとシュクレは義姉妹だ、三人とも2つ3つの差はあるが、ほぼ同い年だぜ」


「え?え?え??情報量が多すぎる」


「なに、簡単なことだよ私達は家族なんだ。

 セキュアを組んで冒険者を辞めても四六時中一緒にいるからね、一つ屋根の下にいるから、家族って形が世間には受け入れられ易いだろ、私のことはすんなりと、

奥さんって納得したんじゃないのかい」そう言って、エクレットは笑

った。



「ハイハイハイ、もうこの辺で、アタシ達のことはわかったでしょ、この後の行動を決めなきゃ」そうシュクレは締めくくった。



**************************************************************************


第九回 セキュアの絆


さて次回は

猛然と走るブルダック爺さん一心不乱に走る、走る、どうしたものかと

訝し気な視線を送るものも居ない、畦道。

ただただ、滝のような汗を流しながら、手拭いで拭く間も惜しんで、走る

ブルダック爺さん。

ブルダック爺さんの目指すものはただ一つ、今手に入れなければと焦る思い。

ガンガン走る。

焦る思いも露わに走り続ける、求めるものが何か思い出せないが!

ガンガン走れば思い出すだろう、ブルダック爺さん。



次回「第十話 グラバの花」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る