6 幸せのごちそう
6 幸せのごちそう
ロケロを元気にしたのは、おユキさんが腕をふるったご飯だった。
ルッカとロケロが初めて目にし、初めて出会った食べ物だった。
ロケロお気に入りのご飯の上に、生の魚をのせた不思議な食べもの。
「おすしよ。にぎり寿司って言うの」
「おすし???」
ロケロの眼玉が、左右ばらばらにグルングルンまわった。
「お寿司って、色がいっぱいだ!」
ルッカも椅子から体を乗りだして、寿司を上から横からためつすがめつしている。
「さあ、見てるだけじゃなくて、頂きましょう」
おユキさんが言った。
味と色の嵐に包まれ、ルッカとロケロは興奮の上昇気流に乗って、どこまでも舞いあがり、満腹の幸せにただよった。
「赤いのは、マグロの赤身」
「白いのはイカ」
「この細くてぷっくりしてて、甘いタレがのってるのはなんだ?」
ロケロが興味深く、その寿司を覗きこむ。
「アナゴよ。穴子。きっと気に入るわ」
おユキさんが言った。
ルッカとロケロは、顔を近づけて匂いを嗅ぐと、カプッと穴子に喰いついた。
「うんまあい!」口いっぱいにほおばって、二人が叫んだ。
「口に食べ物を入れたまま、喋るもんじゃありません。お行儀がわるいですよ」
おユキさんがたしなめた。
「ふぁい!」
他にも、ミルク色のミル貝、黒くて三角の鳥貝、オレンジ色のイクラ、きらきら銀色に光る小ハダ、金色の口の中でとろんととけるウニ。水晶みたいに半透明に輝くヒラメのえんがわ。
「おユキさん、これはなに?」
ルッカが、黒くて細く芯に緑の寿司を指さして聞いた。
「それは河童巻き」
「カッパ?」
「ずうっと昔、川にすんでいた生きものの名前よ。カッパはキュウリが大好きだったから、カッパ巻きって名前がついたの」
「へえ、そいつは強いのか? どんな奴だ?」
ロケロが聞いた。
そうねえ、おユキさんはロケロを見て、悪戯っぽく首をかしげた。
「ロケロの頭にお皿をのせて、緑色にしたらそっくりかも……」
「ひええ?」
ロケロは自分の頭を両手で押さえ、
「俺に似ているのなら、きっと強い奴だな」
「そう、それにロケロみたいに悪戯が大好きなのよ」
おユキさんが、ロケロの顔を覗きこんだ」
「ぐぇっ、どうして知ってるの!」
おユキさんは、黙って笑っているだけだ。
ご飯がすむと、ルッカとロケロは眠い目をこすりながら、地図を前に苺探索計画を練り始めた。ガルザンとのことは、おユキさんには内緒にしておいた。おユキさんはきっと、喧嘩や決闘は嫌いに違いないからだ。それに心配して、川向うへは行かないように言われるかも知れない。
「ええっと、十五夜までに苺を見つければいいんだよな?」
ロケロが地図をにらんで言った。
「ぎりぎりじゃまずいだろうけど、最悪そうだね」
ルッカが欠伸混じりに答えた。
真似したようにロケロも欠伸をして、ごろんと後ろへ寝転がる。
「よし、こうだ!」
ルッカは適当に赤鉛筆で地図に線を引いて、満足げにうなずいた。
「これで行こう。眠たくて、頭が働かないから、寝よう」
「うん、俺も……」
いい加減な二人がぐっすり眠りこんだころ、おユキさんは一通の手紙を何度もなんども読み返していた。顔が柔らかく輝き、その眼にはうっすらと涙がういている。おユキさんは手紙を読み終わると、何度も小さくうなずき夜空の月をみあげた。
「わかったわ……でも、出来るだけ私も力になるから……」
その呟きは、誰にも聞こえないくらいひそやかだった。
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